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インタビュー

吉井和哉 『After The Apples』

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この春にチャートの1位に立ったアルバム『The Apples』に続く
吉井和哉のニュー・リリースは、ミニ・アルバムの『After The Apples』。
ここには、今この日本でシリアスな現実に直面している多くの人々に向けてのメッセージが込められている。
それは<たくましく生きていくこと>だ。「燃えろ 肉を喰いちぎれ」「新しい勇気を必ず送るから」――。

「そのままのタイトルになりましたね(笑)。でも“Born”という曲が入る時点で、
このタイトルしかないな、って」


このたびのミニ・アルバム『After The Apples』に収められているのは全6曲。
そのいずれもが今年の吉井和哉の感覚が存分に注ぎ込まれた、非常に生々しく、
そして濃密な楽曲である。この男だからこその色気が漂いながら、苦みや葛藤もある。
そして優しさも、それに生命力も……。まさに、今の吉井が表現する世界の真髄だ。
  
「そう、『The Apples』を作ってる時にアウト・テイクがたくさんできたから、
それでミニ・アルバムを作ろうと思ってたんです。
だけどそれが……震災で状況が全部変わってしまったんですよ。
だから一から、新しく作りました。作業自体は、すごく楽しかったですけどね」

 
秋が徐々に深まりゆく頃、マネージメント・オフィスで顔を合わせた吉井和哉は、
静かに語ってくれた。
彼自身がすべての楽器を演奏している本作では、アクの強いメロディが躍動し、
イビツなギターが轟き、鈍いシンセがうなりをあげている。
バンド的なサウンドがハジける一方で、打ち込みを使用したブルージーな“母いすゞ”のような曲もある。


「俺はバンドやってたから、やっぱりバンド・サウンドがずーっと頭の中に
あるんですよね。だから『The Apples』も生ドラムの音を意識したり、
生っぽく演奏してたんですけど……でももう、べつにそれじゃないのもあっていいんじゃないかな? と
思ってて。“母いすゞ”なんか、トラック的にはヒップ・ホップの打ち込みなんですよね。
そういうツールを使って、吉井和哉が本来持つドメスティックなところと
どんなケミストリーが生まれるか? みたいな楽しさがあるんです」


 その実践の現場は、去年以降使っているAPPLE STUDIO。実はそのスタジオは、
このオフィスの奥のスペースにある。広い空間では決してないが、上品な絨毯が敷かれ、
簡素な電飾も巡らされたこの場では、アイディアが次々に湧き出てくるそうだ。


「ここのスタジオがほんと好きなんですよ! 居心地がいいというか、すごくいろいろ出てくるというか。
僕の会社なんで、リリースの予定がなくても出勤して何か作ったほうがいいんじゃないかなと
思ってやってるんです。釣りもいいけど(笑)。すごい実験したいんですよね、今」


 穏やかな笑みを浮かべる吉井は、音楽活動そのものは好調そうだ。
ただ、最初の発言にもあったように、この3月の東日本大震災が彼に与えた影響は途方もなく大きかった。
そのあおりで『The Apples』の発売は2週間延び、春先から計画されていた全国ツアーの何本かは中止に。
しかしアルバムは吉井がソロに転じて初めてセールス・チャートの1位に輝いた。
そんな中でツアーでは照明の光量を落としながら始まり、彼は被災地への思いを募らせながら全国を廻っていった。
最新ライヴDVD「LIVE APPLES」には、東北の地をイメージしながら作った背景を持つTHE YELLOW MONKEYの
“BURN”を仙台の地で演奏する模様や、ガレキだらけの街を訪れた吉井が海に花束を捧げるシーンも
記録されている。


 『After The Apples』の1曲目、“無音dB”の「当たり前はもう当たり前じゃないんだ/声を張り上げて叫べよ/
君の最大のdBで」は、そんな今年だから出てきたフレーズに間違いない。
『The Apples』は、年を重ねたひとりの男が現実の苦しみに直面しながらも前に進もうとする姿を
はっきりと見せた素晴らしいアルバムだったが、その兄弟作といえる今回の曲たちは、
震災以降の痛みを感じながら書かれたものだけに、ややトーンを異にしながら心に刺さってくる。


「そのままのタイトルになりましたね(笑)。まあ考えたんですけど、ほかになかったし。
“Born”という曲が入る時点で、もうこのタイトルしかないな、って」


 
そう、最後に置かれた“Born”こそ本作のキモだ。歌とギターが静かに熱を帯びていくこの曲で、
吉井は「燃えろ 肉を喰いちぎれ」と祈るように唄う。そこには生命に対する激しい思いがほとばしっている。
伝わってくるのは<たくましく生きていくこと>だ。



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また、この作品と同日、吉井はタワーレコード限定でもうひとつのアイテムをリリースする。
それがダチョウ倶楽部と組んだスペシャル・ユニット<masa-yume>によるものだ。
しかもその2曲“マサユメ”と“仲なおりの歌”はPLAYBUTTON(バッジ型音楽プレイヤー)のみの形態での発売。
ダチョウ倶楽部といえば、年末恒例の東京・日本武道館での「YOSHII BUDOKAN」で
08年にオープニング・アクトを務めたのを記憶しているファンも多いだろう。


「もうだいぶ前から面識はあったんですよ。今回の発端は、僕がダチョウと一緒に曲をやってる夢を
見たことなんです。で、それがついに正夢になるという(笑)」


―“マサユメ”は、ラップ調のメロディーをダチョウ倶楽部と吉井が入れ替わりながら唄い、
ところどころで誰もが知っているフレーズの数々が挿入される最高にファンキーなもの。
こうした楽しいアイディアもナチュラルに実践しつつ、そこにポジティヴィティをしっかりと織り込んでいるのも、
今の吉井のいい状態を表している。


 2011年は、幾多のミュージシャンたちが思い悩みながら、さまざまな行動を起こしてきた。
その中でも吉井和哉の姿は、そして『The Apples』と今度の『After The Apples』は、
ことさら記憶に残るものになりそうだ。“Born”にはこんな一節もある――「新しい勇気を必ず送るから」。





■New Album……『After The Apples』11/16 on sale!

■SONG LIST

【DISC1】
01.無音dB
02.Next Innovation
03.母いすゞ
04.ダビデ
05.バスツアー
06.Born

【DISC2】※初回限定盤のみ「Flowers & Powerlight Tour 2011」のLIVE音源を収録!!
01.ACIDWOMAN(※1)
02.VS (※1)
03.欲望 (※1)
04.おじぎ草 (※1)
05.球根 (※1)
06.クランベリー (※1)
07.プリーズ プリーズ プリーズ (※1)
08.ビルマニア (※1)
09.FLOWER (※1)
10.シュレッダー (※2)
11.LOVE & PEACE (※2)
12.ONE DAY (※1)
(※1)=7/3 仙台Rensa公演
(※2)=7/1 東京国際フォーラム ホール公演

 

■ タワーレコード限定販売!

11/16 on sale!
masa-yume(吉井和哉&ダチョウ倶楽部のスペシャル・ユニット)
「マサユメ」
PLAYBUTTON(再生専用缶バッジ型MP3プレイヤー):\1,500(tax in)※数量限定

■SONG LIST
01.マサユメ(※ダチョウ倶楽部とのコラボ楽曲)
02.仲なおりの歌

※ご購入方法など、詳しくは店頭または吉井和哉HPにて。

 

■ PROFILE…吉井和哉(ヨシイ カズヤ)

THE YELLOW MONKEYのフロントマンを経て、
03年にYOSHII LOVINSON名義のシングル「TALI」で、ソロ活動をスタート。
ソロ転身後も、日本語の憂いに重きを置いたリリック、黄金期の歌謡曲にも通じるメロディ・ライン、
骨格の太いバンド・サウンドなどを融合させた、独自の艶やかな世界観を形成。
06年から本名の吉井和哉で活動中。

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記事内容:TOWER 2011/11/5号より掲載

カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2011年11月05日 12:00

ソース: 2011/11/05

TEXT:青木優