こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

黒夢 『Headache and Dub Reel Inch』

kuroyume-midashi

99年1月29日、1年間で118本のライヴを敢行し、そのツアー・ファイナル公演で
突然の活動停止を発表。そして09年1月29日、一夜限りの解散ライヴ──。
この時、誰が新作の誕生を予想しえただろう?
約13年半ぶりのオリジナル・アルバム『Headache and Dub Reel Inch』を完成させた黒夢。
清春、人時が目指したものを探る。

「聴く人にとってCDをかけている数十分は<夢>なんだから。
ワクワクしてほしいし、そのためには自分はチャレンジしなきゃいけない」(清春)

THE ROLLING STONESに“黒くぬれ!”という曲がある。かの曲の歌詞の字面を追うと
「<赤い扉>を見ると黒く塗りたくなる」、「みんな黒く塗ってしまいたい」、
「お前の顔を黒く塗りつぶせ」などと言っているわけだが、
それらの言葉がサウンドに乗りその時代の空気と混ざった時、ガツンとした衝撃と、
痛烈なメッセージを聴き手に響かせる。万人にとってそうだとは言わない。
しかしどこか共通した想いを抱いている人間の体内ではそれが起こる。
ロックという音楽はしばしばそんなマジックを起こすものだ。


『Headache and Dub Reel Inch』。オープニングを飾るインストゥルメンタル
“Enter Loop”を経て、最初に飛び込んでくる言葉は「白くを解体」である。
アグレッシヴなサウンドに乗る少しイビツなこのセンテンスについて、清春は
「今の日本は表向きだけ平和だよね。それにみんな丸い、ロックの歌も
当たり障りないというか。それが白だとすると、解体、黒く塗りつぶすっていう
意味があったりとか」
と言う。
2011年のこの<痛み>と<歪み>が溢れる社会で平和なふりをして生きる私たち、
全然大丈夫ではない現実があるのに<心配ない><大丈夫>と言ってしまう
耳障りの良いメッセージ……それらに対して<本当にそうなのか? ><それでいいのか?>という問題提起でもあるのだ。


さらには再始動後、初ライヴとなった国立代々木競技場第一体育館での「XXXX THE FAKE STAR」が
<白>をテーマにしていた事を思うと、それすらを過去のものとし、<黒>にするという宣言にも取れる。
「いろんな色を重ねていくと黒になる。黒が一番強い色なんだ」。清春は言う。
リアルな音楽をクリエイトし共感を得た時、そこに込めたメッセージでリスナーの心を完全に塗りつぶし、
喚起していく、というわけである。

  それだけの力を『Headache and Dub Reel Inch』の曲が持っているのは<2011年の音楽>であるからだ。
黒夢という物体は多くのフォロアーを生み、活動停止中もロックシーンに影響を与えていた存在である。
しかし再始動にあたり、清春も人時も「過去の活動からくる<レジェンド感>は関係ない」と言い切った。
その想いがあったから、二人は再始動当初から、まず新しい音源をリリースする事に拘ったのだ。


 アルバム制作にあたり見ていたビジョンについて、清春は「僕なり、人時くんがそれぞれの場所で
やってきた事がまたここで一緒になって昇華される。なんの計算もない。
ただ単にロックミュージシャン、アーティスト、黒夢の最高作であり、最新のものを作る事」
だったと明かす。


 人時は今回のレコーディングに臨むにあたり、「もちろん事前にベースフレーズを考えていくんだけど、
ブースに入るまでひとつには絞らなかった。決め込んでしまうとレコーディングする瞬間に感じた事への
対応が鈍くなってしまうから」
と話す。レコーディング時に感じた空気を瞬時に高い次元で形にできる演奏スキル、
それは彼が黒夢の活動停止中にプレイヤーとして、ベース1本でサバイヴしてきた果てに得たものと言えよう。
清春は楽曲が呼ぶ<声質><発声法><リズムの取り方>などを冷静に選択して<歌>で表現している。
そのクレバーさは歌詞にも感じる事だ。


先程、例に挙げた<白くを解体>もそうだが、俯瞰から見つめて言葉を置き、時に比喩を用い、
一つの言葉にいくつもの意味をかけ、己の創造する深い世界の中に現実に対するメッセージを塗り込んでいる。
これが彼の今の年齢でのメッセージの表し方であり、その塗り込んだ言葉の真意を響かせるだけの
<充実した人生>を清春は歩んできてもいるのである。

 



kuroyume-main





そうやって作られたこのアルバムは、2011年という今の現実を直視させてくれると同時に
高揚感も与えてくれ、さらにこれから人生を重ねていろいろな経験をした後に聴いた時、
また違ったメッセージを受け取る気がする。そんな感想を清春に伝えると、
「ライヴもそうだけど、聴く人にとってCDをかけている数十分は <夢>なんだからね。
そこでワクワクしてほしいし、そのためには自分もチャレンジして、プレイ的にできない事を克服したり、
これまでなかった楽曲を作らなきゃいけない。だからそれが叶っているんであれば<やって良かったな>と思うよ。
そして数年後、聴き手が歳を取った時に今と違う捉え方をできるんじゃないか?っていう予感をこのアルバムに
入れられたとしたらミュージシャン冥利に尽きるね」
と静かに笑った。
ミュージシャンとして真っ直ぐな言葉であり、聴き手と音楽に対する彼の愛を感じる言葉だと思う。
 <2011年という時代><真摯な音楽への姿勢><活動停止中にそれぞれの場所で得たスキル>、
そして<音楽とリスナーへの愛情>を、極限まで己を追い込んで詰めた、とてつもなくハイクオリティーで、
奥深くて、ガツンとくるこの一枚、じっくり味わってほしいと願う。



■New Album……『Headache and Dub Reel Inch』 Now on sale!

■ SONG LIST…
01.Enter Loop
02.13 new ache
03.White Lush Movie
04.Someone
05.ミザリー (New Take)
06.アロン (Album Ver.)
07.Love Me Do
08.Born To Be Wild (Album Ver.)
09.D.P.I.D.C
10.Starlet
11.Heavenly (Album Ver.)
12.Glass Valley's Oar
13.Spazzy Addiction(※TYPE-Cのみ収録)

■ LIVE…

『Headache And Dub Reel Inch』

2012年1月13日(金) 日本武道館

■ PROFILE…黒夢(クロユメ)

名古屋にて清春(Vo.)と人時(Ba.)を中心に結成。
94年にシングル「For Dear」でメジャー・デビュー。
95年に発表した3rdアルバム『feminism』がオリコン・チャート初登場1位を記録。
09年1月29日のライヴで解散をしたが、昨年待望の復活を果たす。

tower331-1mini   tower331-2mini
記事内容:TOWER 2011/11/5号より掲載

カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2011年11月05日 12:00

ソース: 2011/11/05

TEXT:大西智之