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インタビュー

Tomoko Miyata


苦難を乗り越える力をもつ、ぬくもりのある歌声


NYでアクティヴに生活しながら、自己の内面と真摯に向き合う日本人女性シンガー、Tomoko Miyata。彼女はそこから発せられるものを〈うた〉に託して表現する。だからこそ、彼女はNYで共感をもって支持されるのであろう。2作目にあたる新 作『Begin Anywhere』は彼女の〈現在〉を投影した、最良の成果だ。

「この2年ぐらいの間に、私にとっては(精神的に)大変だぞ、という時期がありました。それを何とか乗り越えようと…。私にとっては、新たな始まり、再スタートですか…。それが今度のアルバムのテーマになり、その視点から歌う曲を選んでいったんです。アルバム・タイトル曲は私のオリジナルですが、自分に元気を与えるために書きました。今、日本でも震災や長年の不景気で、悩んだり、苦しんだりしている方がいらっしゃると思いますが、(新作が)そういう方々の元気の素、いい意味での息抜きになれば、嬉しいですね」

意外な曲をボサノヴァ・アレンジで歌うなど、前作でも話題となったカヴァー曲。新作の収録曲には、彼女のオリジナルの他にポール・サイモン、ビートルズ、キャロル・キング、ジョニ・ミッチェル等の楽曲が並んでいる。

「今回、歌詞の対訳を私がやっています。曲は、旋律ももちろん大事ですが、テーマに沿った歌詞の内容、メッセージ性にこだわって、選びました」

前作同様に、サウンド的にはブラジル音楽の要素が巧みに取り入れられ、彼女の音楽のベースであるジャズの方法論を用いた曲も用意されているが、全体的にはフォーキーな味わいが増し、音楽のベクトル、その方向性は一つ定まった感があり、シンプルな編成のアコースティック楽器の響きのリアリティーと彼女の存在感ある歌声の一体感に焦点が絞られている。また、ポルトガル語で歌われる曲は、今回はボーナス曲のみ。他は英語詞で歌われる。

「ブラジルのリズムは、ボサノヴァの他に、マラカトゥ、マルシャ、バイアォンを取り入れています。歌詞に関しては、今回は英語で聴き手に伝わるメッセージ性を大切にしたかったんです。でも、ボーナス曲として入れたイヴァン・リンスの曲だけはポルトガル語で歌いたかった」

新作には〈信頼し合うミュージシャン同士の強い絆〉が息づいている。彼女の才能を発掘したのは世界的なブラジル人ギタリスト、ホメロ・ルバンボだが、彼の音楽力、人間力は前作の成功に大きく寄与していた。そして、今度の新作では、ホメロと彼女とのコミュニケーション、コラボレーションはさらに密度が濃くなっている。また、彼は言うに及ばず、ギル・ゴールドスタイン、ミノ・シネル等、参加ミュージシャンたちの演奏が素晴らしく、それらはボーカルと高いレベルで連係している。この成功は彼女自身のミュージシャンシップの高さに因るところが大きい。豊かな感情にあふれたTomoko Miyataの歌声は前作よりさらに深みを増し、それは心にぬくもりをもたらす力を持っている。


掲載: 2011年11月09日 11:00

ソース: intoxicate vol.94(2011年10月10日)

interview & text :上村敏晃