こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

ミシェル・ルグラン


御年79歳。ますます意気軒昂なマエストロ




陽気ながらもけっこう短気。才能のあるお子ちゃまがそのまま齢をとったようなミシェル・ルグラン。まずは新しい2枚組アルバムをめぐって。おなじ曲をいろいろな編成でやってきた、そのやり方を訊きだしたいとおもったが……地雷を踏んでしまう。「そのときどきで違うんだ。オーケストラもあればトリオもある。変わってくるのはあたりまえじゃないか」。この方面ではダメだと矛先を変える。自らの「変化」についてを尋ねる──「50年代はオーケストラのアレンジをメインにしていた。ピアフやシナトラのバックなどをね。でも10年やって、もういいやと。60年代、ヌーヴェルヴァーグがでてきて随分と映画の音楽をやったよ。これもあるとき、もういいなあと思ってしまった。70年代はアメリカに出掛けて行って、新しい血をいれた。また、いいや。ほぼ10年ごとに変わってきた。つねに新しいことにむけ、動いているのがわたしなんだよ」

オペラも手掛けるという話がでたので、ミュージカルとの違いは? と問う。

「二つは音楽の重みが違うな。イタリア・オペラは嫌いなんだ。軽いだろ。話はというと恋をして殺し合う。そればっかり。音楽が軽すぎる。較べてオフェンバックは天才的だな。音楽は軽やかだけど無駄がない。『シェルブール』はストリートの音楽だが、一般的な、ごくごく日常的な会話も歌にしている。新しい試みでもあったよ。『ロシュフォール』はアメリカ的なミュージカルだ。ジーン・ケリーがいたしね。日本でもやった『壁抜け男』はとても軽やかな、オッフェンバックのような音楽。『ドレフュス事件』はフランスを二つに分けたような事件だが、軍隊にちょっと距離をとり、嘲笑するようなスタイル。『椿姫』はほんとうのラヴ・ストーリーの音楽だ」

フランスのオペラ作曲家は? とカマをかけると──「ドビュッシー《ペレアス》は好きじゃない。レチタティーヴォがゆったりあってそこにアリアがでてくるのがオペラだろ。《ペレアス》はレチタティーヴォばっかり3時間!失敗作だね。いいのはね、ラヴェルの短いオペラ、ドイツのモーツァルト、R・シュトラウス、ベルク。オペラは完成したものじゃない。決定的なものがないからこれからも可能性があるんだ」

ところでインタヴューの前日、ブルーノート東京でピアノ・トリオを聴いた。からだとピアノが一体化しているようですと伝えると、「そのとおり!」と応える。

「ピアノから腕がはえてるかんじだ。ピアノは大好きだ。オーケストラそのものだし、オケだとおもって演奏してる。ピアノの練習は一生懸命やったから上手なんだよ。1台1台違うから、まずそのピアノを知ってから演奏するんだ。このあたりの音域が得意じゃないのか、とかね。女性とのつきあいに似ているな。僕が演奏しているというより、ピアノが演奏してくれてるんだ」

来年は80歳。世界中で祝ってもらう。来日の可能性は再来年? でもまたきっと聴ける!



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年11月16日 11:00

ソース: intoxicate vol.94(2011年10月10日)

interview&text:小沼純一