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インタビュー

フィージン

〈愛〉の意味を知るテノール

自動車会社のエンジニアから苦労の末にプロの声楽家になる夢を叶えた異色のテノール。3・11被災地での支援活動も話題となった。

「現地の惨状にはショックを受けましたが、そんな中でも元気な子供たちの姿に感動しました。後でメッセージを頂いたりして、逆に私の方が彼らに勇気を貰ったと思います」

韓国ではオペラからポップスまで歌いこなす抜群のセンスと歌唱力で人気の存在。実は軍隊生活で喉を壊し、除隊後にリハビリと戦って長いブランクを克服した不屈の人である。

「最初は絶望しましたが、軍隊時代にいろんな歌に触れた経験が、後にクロスオーヴァーという道をみつけるきっかけになりました」

本邦デビュー・シングル曲《ただ愛のために》は彼の声に魅せられた松井五郎が歌詞を書き下ろし。日本語で〈愛〉を歌うことの意味にあらためて気づかされるような、深みを持った壮大なメッセージ・ソングだ。

「日本語で歌うにはまだまだ勉強が必要です。今回は松井さんに言葉ひとつひとつについて意味や歌い回しなどを丁寧に指導していただきましたし、周りのサポートのおかげです」

c/w《10月のある素敵な日に》は韓国語。訳詞によると、愛する人と出逢い共に生きていくことの喜びを歌い上げた甘いラヴ・ソングのようだが、彼の歌唱からは本当の〈痛み〉を知っている者だけがわかるかけがえのない愛の姿のような、ひたむきさが感じられる。

「韓国ではよく結婚式で歌って欲しいとリクエストされる曲です。ある日、先輩に頼まれて彼のお母さんのお葬式で歌ったら、参列者がみんな涙を流して聴いてくれて、私も胸がいっぱいになりました。その時にこの歌のことが本当にわかったような気がしましたね」

もうひとつのc/wは被災地で子供たちと一緒に歌ったという思い出の曲《シャボン玉~ふるさと》。その情感溢れるやさしい歌の世界に日本人なら誰もが心を揺さぶられるはずだ。

「もともと重量級の声ではないんですよ。大学時代の先生にもオペラ・アリアよりオラトリオやドイツ歌曲の方を薦められましたし…」

11月14日には、豪華ゲスト陣と、被災地や難民の子供たちを支援する演奏会を成功させた。

「私自身、周りの無償の愛に支えられてここまできました。今はその恩返しをする番ですね」

LIVE INFORMATION
『世界まるごとクラシック Happy New Year!! 2012』

1/9(月・祝) 11:30開演/15:30開演(開場は開演の45分前を予定)
会場:東京国際フォーラムホールA 出演:青島広志(指揮/お話)田中靖人(sax)三浦一馬(bandoneon)フィージン(テノール)シアターオーケストラトーキョー
http://www.facebook.com/maruclassic

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年12月27日 12:44

ソース: intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)

取材・文 東端哲也