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インタビュー

アンヌ・ガスティネル&クレール・デゼール

音楽と性格がピタリと合うのがデュオの秘訣

フランスのチェリストのアンヌ・ガスティネルとピアニストのクレール・デゼールは長年デュオを組んでいるが、いつも互いの音楽に触発され、ともに成長し、演奏を楽しんでいる。新譜はフランクとドビュッシーとプーランク。2人の目指す方向性が一致しているため、自然に音楽が和す。

「デュオは音楽性と人間性が本当に合わないとうまくいかない。特に海外のツアーでは朝から晩まで一緒だから人柄が大切になる。私たちは出会った当初から不思議にウマが合い、冗談ばかり言っている。でも、お互いに尊敬し合っているし、相手から学ぼうとする。それが大切だと思うの」

ガスティネルはヨーヨー・マ、シュタルケル、トルトゥリエから多くを学び、ロストロポーヴィチからは高い評価を得た。そのチェロは実に自然で流れる水のような清らかさを持ち、特有の美音に支えられている。一方、デゼールは25年前に旧ソ連に留学した経験を持ち、そのときにロシア・ピアニズムの真髄を学んだことが、今日の彼女の奏法に大きな影響を与えている。しかも、当時はリヒテルをはじめとする偉大なピアニストが活躍していた時代。ライヴに触れ、感動の毎日だった。

そんな2人が新譜についてこう語る。

「フランクのヴァイオリン・ソナタはチェロで演奏するとまったく異なった曲のように聴こえるでしょ。新たな視点を持って聴いてもらえるとうれしい。ドビュッシーは傑作といわれる作品。とてもこまかい指示が楽譜に残されている為、これを忠実に守りながら2人でさまざまなイメージをふくらませていったの。プーランクはかろやかさとメランコリーとユーモアが必要。この3曲でフランス音楽のいくつかの流れを表現したつもり」

ふだんは心から信頼し合っている親友のような雰囲気の彼女達だが、来日公演ではときに相手の音楽と闘うような丁々発止の音の対話を見せた。

「ステージでは妥協は一切なし。切迫感を感じさせるような演奏が理想なの。ゆっくり音楽を楽しむというより、緊迫感あふれ、集中力に富んだデュオを生み出したい。緻密でニュアンスに富み、詩的な感情があふれ出す。そんな演奏を聴いてくださるかたに届けたい。刺激と自発性もね」

ガスティネルはバッハ《無伴奏チェロ組曲》の録音でその精神を実践し、デゼールはシューマン、ブラームスで深遠かつ文学的なピアノを聴かせる。ともに成熟した大人の音楽で聴き込むほどに味わい深い。粋で洒脱で芳醇な音楽が堪能できる。

掲載: 2012年01月06日 12:55

ソース: intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)

取材・文 伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)