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インタビュー

山根万理奈 『STAR e.p.』



このコは誰?──いまにもそんな声が聞こえてきそうだ。YouTubeで話題を集めた〈顔を見せない〉歌い手が、いよいよその素顔を明かして、みずからを語りはじめた!



山根万理奈_J



現在22歳。島根で暮らす、ごく平凡な女子大生の(ように見える)彼女──山根万理奈に、いや、正確には彼女の歌声に注目が集まりはじめたのは、2009年の春ごろからだ。YouTubeに自身のチャンネルを設けた彼女は、ギターを爪弾きながら気ままに〈歌いたい歌〉を公開。歌っている曲は自分のオリジナル曲ではなくカヴァーがほとんどで、なおかつ顔を見せないという、自身のパーソナリティーを極力排したものだったが……。そのバイオグラフィーについては、同チャンネルでも彼女自身が丁寧に語っているが、CDデビュー時にも出さなかった〈顔〉を出すこのタイミングで改めて。

「小さいとき、言葉がしゃべれるようになったときから歌が好き、きっかけは何だったんだろう?っていうぐらい歌が好きで。歌手っていうものがイメージできるようになったのは小学生のころで、学校帰りに大好きなSPEEDの曲を歌ったりしてたら、友達から〈上手いじゃん! 歌手になれば?〉って。そう言われたときに、初めて〈歌手〉っていう好きなことを活かせる場があるんだって気付いたんです。中学生になってからゆずさんを好きになって、ギターはそれで始めました」。

ギター手にして、さっそく自分のオリジナル曲を……という方向へは突き進まず、ギターはあくまでも〈伴奏〉する楽器として携えていた彼女。

「それこそコードを覚えはじめたら作ってみようっていう気になって、高校生のときから作曲も始めたんですけど、作るほうでも表現者じゃないといけないっていう強い意識はなく、やっぱり好きな歌を歌えればいいなって、それはいまでも思っているんです。歌うことが楽しくって、歌うことで普段話してるときや呼吸してるときよりもたくさんの息を吸って……なにか〈来る〉のがわかるんですよね。声を出すことによって全身の細胞が震えるというか、元気になっていくのがわかるし、エネルギーがもらえるし、そのエネルギーでまた歌うことができるしっていう、そのサイクルがすごく好きなんです」

高校生のときに同級生とデュオを組んだ彼女は、松江駅前でストリート・ライヴを始めるなど、人前で歌を聴かせる場所をみずから作っていくが……。

「親の反対が目に見えてわかってきたんです。高校も進学校だったので、音楽の専門学校に行きたいって言ったら反対されて。そのときの私は、なんで人前で歌いたいんだ、歌わなきゃいけないんだっていう理由の折り合いがまだつかなくて、反対を押し切ることができなかったんですね。相方もほかの道を考えていたし、それで、趣味として路上で歌うことも苦痛になってきちゃったんです。路上ライヴを楽しみにしてくれてた人もいたけど、それに応えられるパワーがなくなって。高校2年のときに、一度は歌手になる夢をあきらめました」。

そんな彼女に救いの手を差し伸べたのがYouTubeというツールだった。

「とにかく発信できればいいと思って始めたんです。大学に進学したし、歌手になるのもあきらめてましたから、歌手になれることを期待して始めたわけじゃなかったんですよ。ただ、誰かに聴いてもらいたいっていう気持ちが湧いて、本当に趣味でいいから発信しようって。本名も出さないし、顔も出さない、私っていうことは知られたくないし、知られなくていいから、とにかく聴いてほしいっていう。いまデビューしてるのもそのときからすれば信じられないことだし、そもそもコメントで良い評価をもらえることも期待してなかったですね」。

公開された楽曲はみるみるうちに再生回数を伸ばし(現在は60曲以上が公開され、トータルで350万回以上再生されている)、彼女は一度あきらめていた夢を予想だにしなかった評価を得たことでつかまえることになった。昨年6月にはニコニコ動画で人気のVOCALOID楽曲をカヴァーした『人のオンガクを笑うな!』を〈山音まー〉名義でインディーからリリースし、7月には山根万理奈としてのデビュー・シングル“ジャンヌダルク”を、11月にはカヴァー・アルバム『ざっくばらん』を発表。パッケージ化されたのは引き続きカヴァー楽曲がメインだが、“ジャンヌダルク”と今回リリースされるニュー・シングル『STAR e.p.』収録の“STAR”“生きてゆくこと”は、デビュー時からレコーディングをサポートしているHanasal(ヴァイオリン、三線など弦楽器のスペシャリストでもある鹿嶋静と比嘉大祐によるサウンド・ワーク・チーム)が手掛けている。自作曲はまだだが……。

「ライヴでは(自作曲を)やっているので、そこに自信がないっていうことではないですし、いずれはそういう方向でもやっていくと思うんです。でも、そもそも〈歌いたい〉っていう気持ちが優先で、ギターや作詞作曲はそれに付随して始めたことでもあるし、歌手をやるぞ!って決心できたきっかけはHanasalとの出会いがあったからなので、まずはこのチームで結果を残したいんですね。自分で曲を作ること、新しいものを作り出すことっていうのはすごく労力がいるし、すごいことだなって思います。でも、私にとってそれはいちばんじゃなくて、自分の曲もやりたいけど懐かしい歌や毒の強い歌もカヴァーしたいしっていう、いろんなことができる環境にいたいんです」。

歌に、とにかく歌に注がれる情熱は、オリジナルであろうとカヴァーであろうと、オトコのコの歌であろうとオンナのコの歌であろうと、煌びやかなポップスだろうとテーマの重たい楽曲だろうと(『STAR e.p.』に収められたオリジナルの2曲は、まさにその両極を行っている!)、彼女独特の匂いを立ち昇らせ、豊かな情感を伴って耳に届く。もちろん、演じているのでもなければ、強烈なキャラクターでねじ伏せているわけでもない。

「〈キャラクター〉にはなりたくないですね。いろいろな歌を歌いたいのに、山根万理奈というキャラクター・イメージを作ったら幅が狭くなっちゃいますし、せっかく歌うならそういうふうにはしたくないんです。とにかく〈歌が好き〉っていう軸だけはブレずに、それに付随してくるすべてのものを欲張りたい、欲ばれるところまで欲ばろうって」。

この春、大学を卒業して上京するという彼女。5月からは初めての全国ツアーが始まり、これからは顔の見える世界のなかで、その歌を響かせていく。

「去年の暮れに地元でワンマンをしたんですけど、さすがに祖母をライヴハウスに呼ぶことはできなくて、そのときに初めて〈めっちゃ紅白出たい!〉って思ったんです(笑)。それまで全然こだわってなかったんですけど、大きな舞台に出ればいままで届けられなかった人にも届けられるんだろうなっていうことをすごく感じたので、顔を出して、目の届くところに出て、取り上げていただける機会も増やしていきたいなって思います!」。



▼関連盤を紹介。

から、山音まー名義でのカヴァー・アルバム『人のオンガクを笑うな!』(BUGER INN)、2011年のデビュー・シングル“ジャンヌダルク”、カヴァー・アルバム『ざっくばらん』(共にワーナー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年01月25日 17:59

更新: 2012年01月25日 17:59

ソース: bounce 340号(2012年1月25日発行)

インタヴュー・文/久保田泰平

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