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インタビュー

ルドヴィック・ブールス

映画『アーティスト』のオスカー受賞作曲家はこんな人

今、最も注目を集めている映画音楽作曲家なのに、昔アコーディオンを学んでいたということしか経歴が判らないルドヴィック・ブールス。その彼が『アーティスト』宣伝のために緊急来日した。

「フェイスブックやマイスペースが好きでないので、今までネットに経歴を公開してこなかったんです。アコーディオンは、子供の頃に友達が弾いていたのがきっかけ。その後、アコーディオンの先生からピアノを薦められ、地元サンブリユとヴァンヌの音楽院で基礎的な音楽教育を学びました。パリのジャズスクールに通った後、民俗音楽からエレクトロまであらゆるジャンルの音楽に触れましたが、その体験が『アーティスト』のミシェル・アザナヴィシウス監督と初めて組んだ『Mes amis』の音楽作りに活かされていたと思います」

もともと映画音楽志望だったのだろうか?

「アコーディオンの先生に言わせれば、子供時代からそういう夢を口にしていたらしいんですけどね。当時見た映画で記憶に残っているのは『続・夕陽のガンマン』。沈黙の中からオカリナやハーモニカのような楽器が浮かび上がり、それがクライマックスを築き上げていくというモリコーネの音楽に感心しました。モリコーネとセルジオ・レオーネ監督が確立した方法論は、現在はタランティーノなどに受け継がれていると思いますが、その原点にあるのは黒澤明監督のために早坂文雄が書いた音楽。映画音楽のマスタークラスをする時は、いつも『羅生門』を見せたりするんですよ」

もうひとり、ブールスが〈映画音楽の神様〉として名前を挙げるのはバーナード・ハーマンだ。

「今回の『アーティスト』では、『市民ケーン』などを随分参考にしました。本編のクライマックス場面では『めまい』の名曲《愛の情景》をそのまま引用しているのですが、諸般の事情でサントラ盤収録不可となったので、代わりにハーマン風の楽曲《マイ・スーサイド》をCD用に作曲しました。『アーティスト』がDVD化されたら、ぜひその曲を場面に合わせて聴いてみてください。サムライが切腹する直前まで威厳と落ち着きを保っているような感じを表現してみたつもりです」

オスカー受賞後の最新作は?

「友人のオリヴィエ・ブルジョワ監督が福島で撮影したドキュメンタリーの音楽。脱原発は、東京やパリのような大都市で実現するのは非常に難しい課題かもしれませんが、我々が語り続けていかなくてはいけない最も重要な問題だと思います」

掲載: 2012年04月27日 17:34

ソース: intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)

取材・文 前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)