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インタビュー

キラ・スコーフ

「ジャズシンガーの自分が出てくるのを待っていた」

ビリー・ホリデイはジャズをジャズたらしめる生理と直結した不世出のシンガー(1915〜59年)だ。そんなアイコンとも言える人物ゆえ、彼女に捧げたアルバムはいろいろとあるが、ここにまた“ホリデイの襞”と向き合った作品を出した歌手がいる。キラ・スコーフという、76年生まれのデンマーク人シンガーである。

「(10代頭に)偶然、彼女の古いレコードを見つけたんです。それは、もうこの世のものとは思えないような魅力を放っていました。それこそが、彼女が今でも伝説のシンガーでいられる理由ではないでしょうか。彼女の髪につけられた花飾り、その名前、そしてもちろん彼女の声と音楽。彼女のレコードを聞いた瞬間に虜になってしまいました。彼女はその後、私に何十年もの人生のサウンドトラックを与えてくれました」

実は、スコーフはジャズの道を進んできた歌手ではなく、ずっとポップ畑を歩んで本国で多大な人気を博してきた人物。近年では、あのトリッキー(英国トリップ・ホップの逸材)と懇意にしていて、08年には彼とフジ・ロックにも出演している。

「私の中には2つのパラレル・ワールドがあったのだと思います。ビリーやマイルスとの世界がまずひとつ。と同時に、ビートルズやストーンズやツェッペリン、そしてアレサやオーティスやアル・グリーンがいる世界もあったのです。その両方のエネルギーの間に私はいます。だから、私の歩みは自然なことであり、ジャズシンガーの自分が出てくるタイミングを待っていたわけです」

今作の直接的な発端は、コペンハーゲン・ジャズ祭に、“ビリー・ホリデイを歌う”というお題目での出演依頼を受けたこと。その実演があまりにうまく行ったのを受けて録音は始まり、この『シングス・ビリー・ホリデイ』は同国のジャズ・レーベルのStuntから発表された。ホリデイ絡みの曲を、彼女は自国の精鋭ジャズ・マンのクールな演奏のもと自在に再開示。それはただのカヴァー集ではなく、一歩進んだキラ・スコーフならでのホリデイ曲集に見事になっている。

「アイデア自体はもう何年も私の中にありました。留意したのは、“今の自分に正直でいたい”ということ。そして、“これまでの中でも、最高の歌を歌いたい”という、昔からの夢の実現です。そして、“名曲と肩を並べられるような曲を自分でも作ること”を試みました(自作曲も収録する)。それらは、すべて成功していると思います」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年05月22日 16:27

ソース: intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)

取材・文 佐藤英輔