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インタビュー

ミロシュ・ボク

Milos Bok Conduct

神の愛の媒介者、現代最も聴かれるべきチェコ作曲家

昨年末、チェコの現代作曲家ミロシュ・ボクのアルバム『クレド』がリリースされた。ボクは1968年プラハの生まれ。ピアノと作曲を学んだが、共産党政権下のチェコでは宗教音楽の作曲がきわめて困難であったにもかかわらず、自身の信念を曲げる訳にはいかないと、筆を折ることはなく、これまで宗教曲を中心に作曲活動を繰り広げている。』は2006年に作られた代表作だが、それは21世紀においてかくも感動的な音楽が生まれ得るのかという魂の根源に語りかけてくる作品で、現代の奇跡にも似た感動体験を約束する。

ボク氏へのメールでのインタヴューをパリに住む共通の友人を介して行った。

──今回、あなたの『クレド』が初めて日本でリリースされました。あなたの音楽がもつ内なる力、すなわち絶対的なものを信じることではじめて得られる人間の音楽としての力強さに私たちは驚いています。宗教の違い、人種の違い、地域の違い、といったものを超えて聴き手を感動させるあなたの音楽は、いったいどこからきているのでしょうか。

「私は絶対的な存在、そして正義、崇高な愛としての神を信じています。そして人間は、神を祝福し、人々を助け、何か良いものを人々に伝えることを自ら欲します。それは、神の愛の媒介のようなものではないでしょうか。文化や社会などが育まれる基礎の部分、精神の根底に、その媒介としての感受性や原動力があると考えています。ですから、日本の皆様が私の音楽を聴いて何か感じてくださったとすれば、こんなに嬉しいことはありません」

──チェコといえば、私たち日本の聴き手には、スメタナ、ドヴォルザーク、ヤナーチェクといった過去の作曲家たちのことがまず思い浮かびます。ボクさんにとって、こうした先達たちはどういった存在なのでしょうか。

「過去の偉大な作曲家は私にとって絶対的な重要性を持っています。なぜなら作曲行為そのものを考えた時、彼らのような前例や証言がなければ、今日の私たち作曲家はどうなっていたことでしょう。それは「無」なのです。作曲の歴史を一本の線のようなものだと考えた時、私たちはそれにつながっていくしかありません。その線を新たに埋めていく、書き進めていくしかないのです。そうしながら作曲というものを、過去を含めてすべて消化し、自分のものにしていく、それしかないと思います」

──1999年にニューヨークのカーネギーホールであなたの〈ミサ・ソレムニス〉が演奏されました。しかし、多くの日本人にとって、あなたの存在は知られていませんでした。そうした事情はヨーロッパやアメリカでも同じなのでしょうか。

「現時点では、私はヨーロッパやアメリカでも知られていないと思います。実を言うと、特に知ってもらおうと努力をしたこともありません。もちろん、私の曲は、私のなかに流れる何か祈りのようなものを人々に伝えるために書いたものです。しかし、私の作品が生れてから、どのような道を通って人々のもとにたどりつくのか、それは分かりません。今回、日本の皆さんは、私の音楽のために沢山のことをしてくださいました。本当になんとお礼を申し上げたらよいのか分かりません。私の音楽を聴いてくださった方が少しでも幸せになれると良いのですが」

Milos Bok Church

──あなたの日常、ライフ・スタイルや家族のことなどを可能な範囲で結構ですからお教えください。

「プラハから100キロほど離れた、とても小さな村で暮らしています。妻と、そして私たちとの間にだんだんと増えていった7人の子供たちと住み始めて20年にもなるでしょうか。家族全員、ほとんどいつも一緒で、質素ではありますが、とても美しく楽しい生活です。私たちが住んでいる村には、もう30年ほど前から神父がいませんが、毎週日曜日になると他の町から司祭が来てくれます。同じように、私もオルガン奏者として教会の礼拝で演奏しています。他の演 奏家たちを呼んで一緒にミサ曲を演奏することもあります。奉仕活動ですから報酬もなにもありません。また、地方の音楽学校の教師として若い音楽家を教えな がら生活しています。そのほかの時間は音楽活動、特に作曲にあてていますが、やはり家族と過ごす時間は他には代えがたいものがあります。近くの町や村の教 会の礼拝に家族でそろって散歩しながら行ったりします。これらのことは牧歌的で美しく、簡単なように見えますが、指揮者やピアニストとして神からいただいた力をすべて捨てたうえでの生活です。これは芸術家一人一人が抱える問題であるとも思いますが、この芸術というビジネスの世界でキャリアを選んで生きるか、それとも芸術家としての成功を自分の才能と共に葬るかのどちらかなのです。もちろん、どちらを選択しても良い所と悪い所があります。ただ確かなのは、もし私の音楽が私らしくあり得たのは、私の住む地域や、私のいまの生き方なしでは無理だと思います」

──創作意欲はどういった時に生まれてくるのでしょうか。また新作のこと、録音を計画中の作品があればご紹介ください。

「私は、生まれたときからずっと私の中から聞こえてくる、一つの同じ声を聴き続けてきたように思います。それを書き留めてゆくと、なぜか音楽となって様々な形を取りながら譜面上に現れてくるのです

今、私が演奏しようと取り組んでいるのは〈カメニッツェ谷のアポカリプス〉です。この作品は二曲のオラトリオ、〈クジェニッツェ谷の小人〉、〈聖ズディス ラヴァ〉と対をなすもので、個人的な感覚としては、芸術家として私のお伝えすることのすべてを言い尽くす最後のまとめの作品であり、作曲家人生のなかで最 後の大作になると思います。このようなことは過去の偉大な作曲家エルガーやシベリウスなどにその例があります。晩年の彼らは大きな作品はほとんど何も書い ていません。口を閉ざしたとでも言えましょうか。でも大切なことは言い尽くした、もう言い足すことは何もない。ただ単純にそういうことではないでしょうか

「クジェニッツェ谷の小人」がルドルフィヌムで初演されてから20年が経ちます。以来、再演されたことはありませんでした。そんなに長いあいだ演奏されな かったことは辛いことですが、かえって美しい、そして嬉しいことでもあります。この作品の録音のために、当時、初演に参加した演奏家たちがこぞって集まっ てくれることになりました。あの当時、私達は若かった。共産党主義政権が崩壊した直後でしたし、私たちの祖国チェコにとっては大変な時代でした。それでも、この20年間は美しき時代と呼んで差し支えないと思います。私の人生、私の作品はこの時代のなかで育まれてきました。舞い上がるほど幸せな時であれ、 落ち込むような難しい時であれ、そのすべてを生きてきて良かったと思っています。そして深く神に感謝いたします」

(取材協力:パーレニーチェク夫妻)

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カテゴリ : インタヴュー Web Exclusive

掲載: 2012年07月24日 10:36

ソース: intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)

取材・文 諸石幸生

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