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インタビュー

THE ORB FEATURING LEE SCRATCH PERRY 『The Orbserver In The Star House』



ビッグネーム同士の合体というトピックに終止しない、エネルギッシュで刺激的な化学反応を詰め込んだ野心作!!



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言ってしまえば、人種も世代もカルチャーも超えてしまった〈親子〉の共演である。笑顔を振りまきながらスタジオを宇宙船へと変えるダブの英知——それを作り出した親と、それをDJカルチャーを媒介に継承した、その子たちのコラボレートだ。リー・ペリーとジ・オーブ(アレックス・パターソンと、今回の相棒は朋友のトーマス・フェルマン)による『The Orbserver In The Star House』は、ある意味でそんな既視感に満ちているというか、当然のコンビが当然の素晴らしい結果を生み出している。

旧約聖書の天地創造よりも2日少ない5日間でこのアルバムは作り出された。場所はベルリン郊外の旧東ドイツ側に位置するトーマス・フェルマンのスタジオ=シュテルンハーゲン(英訳すると本作のタイトルにもある〈Star House〉)。しかし、リー・ペリーのエネルギッシュな態度に、オーブのふたりは嬉しい悲鳴を上げることになる。

「最初は4、5曲ほどしか準備していなかったんだ。上手くいけばEPが出せるかなってぐらいしか考えてなかったのさ。3日ですっかり終了してしまったんだ。結局残りの2日間で、即興で11曲も作ってしまった。あれほど音楽のアイデアが後から後から溢れ出てくるのは初めてだったよ」(アレックス)。

リーの、噴火する火山のマグマのように湧き出る創造力に彼らは急遽ビートを用意し、こうしてアルバム・サイズの作品が出来上がったのである。リーの声に宿る音楽の精霊たちが乗りこなしたトラックたちは、実に多彩だ。

「オールド・スクールなダブをリー・ペリーと作るというわけではなく、アレックスと僕のやってきた、アンビエントやハウス、テクノなんかに基づいた新しいものを作ろうとしたんだ」(トーマス)。

そのスタイルはダブ・ブレイクビーツから、スロウ・ダウンさせたダブ・ミニマル、果てはコンゴスあたりのブラック・アーク末期を思わせるサイケデリックな音像とリカルド・ヴィラロボスがずるずるに溶け合ったようなトライバル・ミニマルまでさまざまだ。さらに両者の往年のファンを掴むフックもある。オーブ初期の代表曲“Little Fluffy Clouds”(90年)のセルフ・リメイクとも言える“Golden Clouds”、そして70年代のルーツ・レゲエ期のリーのプロデュース・ワークを代表するジュニア・マーヴィン“Police & Thieves”(76年)のセルフ・カヴァーだ。

一方、マスタリングはポールことステファン・ベトケが手掛け、オストグート・トンなどからのリリースで知られるトビアスがミックスの最終調整でエンジニアとして参加している。そのような現行ベルリン・ミニマル・テクノ/ダブのネットワークとの繋がりも、全体の音の感覚を考えると見逃せない事実だろう。

ブラック・アーク・スタジオ焼失以降、狂人や変人と揶揄されることも多いリーではあるが、ここでは実際にアルバムを共作したオーブの目を通したリー・ペリー像で締めさせていただこう。そこにはさまざまな揶揄を吹き飛ばすほどの、生き方そのものをアートに捧げたひとりのエネルギッシュな人間の姿がある。そして、その生き様が、刺激的な本作を生み出した膨大なエネルギーの源であるのは間違いない事実だ。

「彼の眼の中に内側から光が輝いてるのが見えるんだ。まだまだ上にもレヴェルがあるんだなって気付かされたよ」(アレックス)。

「天才と狂気は紙一重ではあると思うけど、リーは自制を解除して、何でもかんでもクリエイティヴに対してフルパワーなんだ。ある意味でリー・ペリーは子供のような純粋さや自由な発想を持っていながら、知識は75歳分あるんだよ。それはすごいコンビネーションだよ」(トーマス)。



▼オーブの作品を一部紹介。

左から、2010年のデヴィッド・ギルモアとのコラボ作『Metallic Spheres』(Columbia)、2011年作『C Batter C』(Malicious Damage)、リー・ペリーをサンプリングした“Outlands”を含む91年作『The Orb's Adventures Beyond The Ultraworld』(Island)

 

▼『The Orbserver In The Star House』に参加した面々の関連盤を紹介。

左から、ポールの2007年作『Steingarten』(~scape)、トビアスの2011年作『Leaning Over Backwards』(Ostgut Ton)

 

▼リー・ペリーの近作を一部紹介。

左から、2010年作『Revelation』(Megawave)、同年のエイドリアン・シャーウッドとのコラボ作『Dub Setter』(On-U)、2011年作『Rise Again』(M.O.D. Technologies)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年09月25日 15:30

更新: 2012年09月25日 15:30

ソース: bounce 347号(2012年8月25日発行)

インタヴュー・文/河村祐介

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