こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

Mr.children 『[(an imitation)blood orange]』

tower003-1midashi



自らのパロディに陥らず、勇気を持って新たなドアをノックし続けてきたこのバンドらしい新作だ。そしてそれは、<今>という時代と真摯に向き合ったからこその平易なリアリティに満ちている。先のベスト盤で掃き出した過去と交換に、目一杯吸い込んだ未来こそが鳴っているのだ。 



デビュ-20周年を颯爽と駆け抜けた彼らの、初々しいほどの創作意欲が詰まった2年振りのアルバムが遂に完成!



 このアルバムに収録された11曲のなかで、我々が最初に耳にしたのは“かぞえうた”だ。2011年の4月、東北大震災の復興支援のために制作されたこの作品は、<絶望のなかにもひとつひとつの希望を探していこう>と歌ったものだった。その後、しばらく桜井は曲作りから離れる。「今より新しいところへ向かっていこうという気持ちになれなければ、曲を書く気分にもなれない」。この年の初夏。とある取材の際、彼はそんな心境を語った。

 再び曲作りに向かうようになるのは約半年後だ。その頃に書き始め、2012年の4月にリリ-スされたのが“祈り ~涙の軌道”である。一織り一織り、丹精込めた反物のようなメロディが心に滲みる楽曲だった。シングルにはもう2曲、“End of the day”と“pieces”も収録された。まず前者。<羽ばたける日>を願う主人公の、自らに暗示をかけてまで前に進もうとする姿には、自分を重ね合わした人も多かったはず。そして恋人同士の歌のようでいて、ミスチルというバンドの歴史を歌ったものにも聞こえたのが“pieces”。

  さらに“祈り ~涙の軌道”と同時期に、“Marshmallow day”も生まれている。恋愛真っ只中の<心はここに在らず>状態を都会的なポップ・センスで響かせているキャッチィな曲だ。チュ-インガムとチュ-ニングで韻を踏むところで思わずニヤリ。カッコいいリズムのブレイクなど、演奏している彼らの喜びがそのまま我々にも伝わってくる。この歌が書けたことで、桜井は再び躊躇せずにエンタ-テインメントとしての音楽に向うようになったのかもしれない。

“Marshmallow day”がライヴで初演されたのは2012年夏の「ap bank fes'12 Fund for Japan」だった。そして、その時披露されたもうひとつの新曲が“hypnosis”。ヒプノシス……。音楽ファンはこの言葉からピンク・フロイドなどを手掛けたイギリスのデザイン・チ-ムを思い浮かべるかもしれないが、歌を聴くと、意味合いとしては言葉の元々の意味である<催眠状態>といったことのようだ。ストリングスが効いてるからなのか、メロディは少しクラシカルな風合いに思える。実は、だいぶ前から温めていた楽曲だったそうだ。となれば、彼らの思い入れも一塩だろう。<♪も~ぉ 現実から見~捨て>の<見>~のところを始めとして、何ヵ所かに胸キュンを誘う音の魔法のカプセルが埋め込まれていて、それが聴く毎に蓋を開ける名作なのだ。



Mr.children1



主題歌といえば、新たに「遅咲きのヒマワリ~ボクの人生、リニュ-アル~」の主題歌となったのが“常套句”である。ピアノ・メインの静かなバラードと思いきや、その後、バンドの新鮮なアンサンブルへ発展していく。
この歌における<常套句>が何なのかは、一聴すれば分かる。<きみに会いたい>。一見、ストレ-ト過ぎるような言葉……。でも他の言葉では伝えられないこともある。だからその言葉を磨く……。聴き手が感情移入するスペ-スがたくさん設けられている楽曲とも言える。

 知ってるようで全貌を把握していなかったのが“Happy Song”だろう。朝の情報番組でBGMとして流れてはいたが、<そうか、こういう歌だったのか>と改めて思うはず。むしろ周囲からやや浮いてるくらいのテンションの主人公がいい。<♪ウォウォウォウォッ>とシャウトを繰り返し、それがちょっと喧しいくらいなところもいい。時代の変化に勇気を持って立ち向かうための歌である。 

 
ここから先は、まったく初めて聴く3曲だ。“インマイタウン”、“過去と未来と交信する男”、そして“イミテ-ションの木”。でもオリジナルアルバムを聴く醍醐味が、まさにそこにある。これらの楽曲がとなりに居ることで、既に聴き馴染んだ楽曲が別の輝きをみせることもあるはずだ。



Mr.children2

 

最後にアルバムタイトルに関することを書く。『[(an imitation)blood orange]』。このblood orangeの<blood>とは、もちろん本物の血ではなく、まるでそのオレンジの果肉が<血のように赤い>というところから来ている。それをan imitationと前置きすると、本物と偽物といった線引きを越え、目の前にある対象物から、いかに自分の感性で意味を導き出すかという、その覚悟を授けられた気分になる。“イミテ-ションの木”は、もちろんこのアルバムタイトルとも関連ある楽曲なのだろう。

 いや、この曲に限らない。『[(an imitation)blood orange]』は、評判とか実績とかに左右されずに、目の前にある<今>を正直に鳴らしている作品集だ。未だ片づかない過去からの宿題に目を配り、そして同時に、本当の未来への入り口に、目を凝らしつつ……。

■ALBUM……『[(an imitation)blood orange]』 11/28 on sale!

SONG LIST

01.hypnosis (※日本テレビ系ドラマ「トッカン 特別国税徴収官」主題歌)
2.Marshmallow day (※資生堂「マキアージュ」新CMソング)
03.End of the day
04.常套句 (※フジテレビ系ドラマ「遅咲きのヒマワリ ~ボクの人生、リニューアル~」
05.pieces (※映画「僕等がいた」後篇 主題歌)
06.イミテーションの木
07.かぞえうた
08.インマイタウン
09.過去と未来と交信する男
10.Happy Song(※フジテレビ系「めざましテレビ」テーマソング)
11.祈り~涙の軌道(※映画「僕等がいた」前篇 主題歌)

■LIVE……Mr.Children[(an imitation) blood orange]Tour

12/15(土)、16(日)京セラドーム大阪
12/22(土)、23(日・祝)ナゴヤドーム
12/28(金)、29(土) さいたまスーパーアリーナ
2013年1/3(木)、4(金) 福岡Yahoo! JAPANドーム

※詳細はオフィシャルサイトをご確認ください。

 



tower003-1minitower003-2minitower003-3mini
記事内容:TOWER+ 2012/11/10号より掲載

カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2012年11月10日 00:00

ソース: 2012/11/10

TEXT:小貫信昭