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インタビュー

アラマーイルマン・ヴァサラット

メンバー交替を経た、力勝負の新作

フィンランドのアラマーイルマン・ヴァサラットがニュー・アルバム『力業』を携え、桜咲く時期に日本にやってくる。早くも5回目となる今回の来日は浅草に襲来。通常のコンサートに加え、様々な催し物が予定される3日間『浅草ヴァサラット』で我々を楽しませてくれる。

彼らはリーダーのスタクラが吹くチューバックス(特製大型サックス)にチェロ2台を含む低音を強調した特異な編成で、クレズマーやバルカン音楽などの影響 をミックスした「架空世界のワールド・ミュージック」を演奏するユニークなバンド。『力業』はメンバー交替を経ての新作だ。「15年やってきて、このアル バムはアラマーイルマン・ヴァサラットのヴァージョン2、バンドにとって新しい時期の始まりに思える」と作曲を手がけるスタクラは語る。

「どの曲も綿密に編曲しておくんだけど、今回は録音を始めたら、新ドラマーがサウンドを大きく変えたと気 付いた。だから、より良くするために編曲に改めて手を加えた。彼の演奏がすごく良かったおかげで、バンドのサウンドも変化したんだ。以前からトロンボーン はチェロと低音域で音が混ざる嫌いがあった。楽器の音自体や見た目が目立つところは好きだけど、本当の意味でのリード楽器じゃない。ドラマーがサウンドを 変え、制作方針や録音の技術的な点にまで影響し、早い段階でトロンボーンをトランペットに交替させることになったんだ」

過去のアルバムに比べ、躁的な狂気めいたところがやや控えめで、よりメロディアスで親しみやすい。「今回 もかなり複雑な曲はあるけど、メロディーはもっとストレートで、口ずさめるものかもね」とスタクラも認める。原題は『Valta』つまり「パワー」だ。 「前作は全編に物語があって主人公のいるコンセプト・アルバムだったけど、これはもっと緩やかな括りで、抽象的にしたかった。「パワー」も政府の抑圧とか 大衆の力とか、様々な解釈が可能で、聴き手が自分なりに受け止められられると思う」。

「地下世界のハンマー」というバンド名で、デビュー時に「鉄のカーテンの向こうのソ連みたいな」架空の 「ヴァサラシア」の音楽と設定したように、彼らは国家主義の権力の抑圧と闘うイメージを作り出しているが、社会保障が行き届き、教育水準が高く、平和な国 のバンドがなぜそういったことに惹かれるのだろうか。

「(笑)たぶん保障のある社会はちょっと退屈なんだろう。もちろん命を賭けて革命のために戦う必要がないのは幸せだ。でも、ロマンチックな考えとして、そういった闘士になりたいって気持ちもある。子供ぽい考えだけどね。インディアナ・ジョーンズに憧れるようなものさ」

LIVE  INFORMATION
アラマーイルマン・ヴァサラット presents『浅草ヴァサラット』

アサヒ・アートスクウェアでの来日公演(4/6〜7)
『スタクラのフィンランド料理教室』(4/5)
『お花見ヴァサラット 隅田川で船遊び』(4/7)
『ヴァサラット・カフェ』の期間限定オープン
写真展(4/5〜7)
アキ・カウリスマキの作品上映(4/6〜7)ほか予定
http://www.mplant.com/vasarat/

掲載: 2013年03月06日 16:33

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

取材・文 五十嵐正