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インタビュー

フジファブリック 『VOYAGER』



3人体制での活動基盤がしっかり固まり、いよいよ〈フジファブリック第2章〉の本領が発揮されはじめた。着実に積み上げられている自信を胸に、旅を続ける彼らの新作に通じるアーティストも紹介­!



フジファブリック_A



試行錯誤を繰り返した〈探検〉の日々

果てなき宇宙の謎に挑み、遥かな空間を飛び続ける宇宙探査機のように——フジファブリックのニュー・アルバム『VOYA-GER』を語るキーワードは〈探検〉だ。飽くなき冒険心とロマンティシズムをエンジンに、新発見をめざす音楽探査機のような作品と言えるだろう。

「〈何だこれ? 聴いたことない音楽だな〉というもので、自分たちでも〈これは何だろう?〉と思うようなものを常に作りたいんですよ。何かのジャンルにカテゴライズされるのではなく、バンドがジャンルみたいな」(山内総一郎、ヴォーカル/ギター)。

振り返れば、前作『STAR』のリリース時にはほとんどライヴをやっていなかった彼らだが、現在までの1年半の間に3回のツアーを敢行し、結束力が飛躍的にアップしたようだ。なかでも『STAR』リリース直後に行われた〈ホシデサルトパレードTOUR 2011〉が、その後の曲作りに与えた影響は大きかったという。

「あのツアーでのお客さんの反応のおかげで、自分たちがどんどん進んでいける自信が付いた。地に足の着いた活動ができるようになったんです」(山内)。

その後は活発なライヴ活動を行いつつ、休みなく曲作りとレコーディングを敢行。「体力的にこんなハードなスケジュールは初めて」(山内)と振り返る2012年は、まさに〈音楽の探検〉と呼べる試行錯誤を繰り返していたそうだ。

「ずっと曲のことしか考えてなくて、すべての時間をそこに使ってました。移動中も、何なら寝てる時もそうだったかも」(金澤ダイスケ、キーボード)。

「アイデアが出たら、すぐその場で試すんですよ。その作業は楽しいけど、時間は使いますよね。ものすごく濃い時間のなか、3人で切磋琢磨しました」(山内)。

かくして出来上がった新作は、金澤のキーボードと山内のギターが奏でるキャッチーなリフを中心に、時に偏執的なまでに緻密なアレンジの上でカラフルなメロディーが輝く、彼ららしいポップスの粋を極めたものだ。ドラムにBOBOを迎えたことで、リズムに強靭な躍動感が増したのも大きな特徴だ。

「ウワモノはキラキラしてるんですけど、ドラムとベースが下のほうで鉄壁の守りをしている。『STAR』は〈疾走感〉をイメージして作っていたんですけど、今回はどっしりと重心低く構えて、上に自由に広がれる隙間が出来てるんですよね」(山内)。

「BOBOさんとは去年の6月のツアーから本格的にいっしょにやるようになったんですが、バンドの土台がしっかり固まった感じがしましたね。ムードメイカーであり、僕らの音楽を汲み取ってしっかり合わせてくれる、〈いてくれてありがとうございます〉という存在です(笑)」(加藤慎一、ベース)。



このバンドで探検し続けたい

“徒然モノクローム”“流線形”といった先行シングル、“自分勝手エモーション”“Magic”“Upside Down”あたりのアッパーな曲では4つ打ち、ファンク調のリズムといったダンス・ビートが強調されており、往年のニューウェイヴや、80年代にMTVで流れていたヒット・ポップスなどを彷彿とさせるサウンドになっているところがおもしろい。“流線形”のキラキラしたシンセのリフはa-haやユーリズミックスなどにありそうだ。また最新シングル“Small World”の、リズムとリフが一体となって突進してゆくスリリングな感覚は、山内いわく〈ELOみたいなイメージ〉ということらしい。

「自分が生まれた頃(80年)の音楽はあんまり聴いていなくて、音色もちょっと古臭いなと思って好きじゃなかったんですけど、最近その当時の音楽をよく聴くようになったのが、自分の旬としてはありますね。そこに僕らの大好きなキーボードやギターのリフを入れて、〈これは踊れるのかどうか、身体が動くのかどうか〉を確かめながら作ってます」(山内)。

それにしても、3人がこれほど優れた演奏家であり、同時に優れたメロディーメイカーであることは、驚くべき〈新発見〉と言っていいかもしれない。軽やかなシャッフルのリズムとほんわかした旋律で和ませる加藤の曲“こんなときは”もいいし、ロマンティックで切ない“Time”とクレイジーなデジタル・ビートが暴走する“Fire”という、金澤による両極端な曲調のナンバーも素晴らしい。そしてラストを飾る、自身の生真面目&ジェントルな性格を映したように伸びやかで美しい山内作“春の雪”“Light Flight”というスロウも感動的だ。〈探検〉というキーワードは今回の制作過程そのものであり、個性的で多様な曲調を貫く音楽性のことでもあるのだ。

「“Small World”の歌詞にもあるんですが、実際の世界は本当に広いけど、自分のイメージの世界はもっと広いと思うので。そのなかを探検するのは大変ですけど、それをこのバンドでやり続けていきたいという気持ちが『VOYAGER』というタイトルには含まれています。今回は自分たちのパーソナルな部分をたくさん出せたと思うし、本当にいいアルバムが出来たと思いますね」(山内)。

「同感です」(金澤)。

「最初から最後まで聴くと、本当にそう思いますね。すべての曲が〈この曲はこれしかない〉という形になっていると思います」(加藤)。

確かな自信を胸に、フジファブリックは4月から始まるバンド史上初のホール・ツアーへと挑む。いまだかつて誰も聴いたことのないポップ・ミュージックを探して、3人の旅はまだまだ続いてゆく。



▼『VOYAGER』の先行シングルを紹介。

左から、『徒然モノクローム/流線形』“Light Flight”“Small World”(すべてソニー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年03月13日 18:00

更新: 2013年03月13日 18:00

ソース: bounce 352号(2013年2月25日発行)

インタヴュー・文/宮本英夫