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インタビュー

寺下真理子

自分の道、探り当てるヴァイオリニストでありたい!

オーケストラの録音が多いALTUSレーベルが珍しく、新進ヴァイオリニストのデビュー盤をプロデュースした。東京芸術大学からベルギーのブリュッセル王立音楽院に進み、堀米ゆず子に師事した寺下真理子である。鈴木慎崇のピアノで、R・シュトラウスのソナタがメイン。イザイの《子供の夢》、ブラームスの《FAEソナタのためのスケルツォ》など凝った小品が続く。丁寧な語りくちで品性確か、さわやかなアルバムに仕上がった。

中でもイザイはベルギーの作曲家であり、「ドイツ音楽にはない和声や色彩感があり、フランス音楽とも少し違う趣」を現地でみっちり学んだ。《子供の夢》は、ロシアのグラズノフの《瞑想曲》と並び、最も好きな小品であるらしい。4歳の誕生日に祖父母からヴァイオリンを贈られ、5歳で本格的に習い始めた。小学校5年生で五嶋みどりの公開レッスンを受け、プロを本格的に目指す。留学先は五嶋の本拠の米国ではなく、ヨーロッパとしたが、就いた教授は日本人だった。

「堀米先生は『素晴らしい』の一語に尽きた。あれほどのキャリアをお持ちなのに、自身の才能に溺れるところは皆無。『仕込みなさい』が口癖でコツコツ、積み重ねておられる。演奏の悩みを生徒と同じ目線で語ってくださった」。1980年に日本人で初めて、ブリュッセルのエリザベート国際コンクールに優勝した堀米だが、その後30余年の歩みは全くのマイペースで、ぎらついたところはない。R・シュトラウスに流れる良い意味での〈まったり感〉は、寺下本来の持ち味に堀米の優れた指導が加わっての成果だろう。

デビュー盤のインタヴューで必ず投げかける質問。「セカンドアルバムには、何を入れたいですか?」。寺下は意外にも「モリコーネの映画音楽とか、いかがですか?」と応えた。「オーケストラとの協奏曲が実現するなら話は別。次もピアノなら、大好きなブラームスのソナタも思い浮かべたが、まだまだ時期尚早」と慎重だ。宮崎国際音楽祭で薫陶を受けた往年の巨匠、アイザック・スターンのような王道とは別に「自分の道を探り当てた別タイプのヴァイオリニストがいる。それぞれに使命と思う道があればいい、と最近は考える。今の私は、それがどういう道なのか、必死に探している段階」と、自らを判定している。

芸大時代の恩師だった岡山潔の影響もあるのか、恐らく「ソロしか弾かない人」ではなく「室内楽を心から弾ける人」の道を思い描いているのだろう。「ベートーヴェンの弦楽四重奏曲はいずれ、全曲演奏に加わりたい」と語るなかに、ユニークな立ち位置がみてとれた。

LIVE  INFORMATION
『Music Weeks in TOKYO 2013 まちなかコンサートスペシャル〜よりみちコンサート〜』
6/21(金)19:00〜20:00
出演:寺下真理子(vn)居福健太郎(P)他  
会場:東京文化会館 小ホール

http://www.t-bunka.jp/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年05月16日 12:10

ソース: intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)

interview&text : 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)