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インタビュー

坂東慧

T-SQUAREの若き頭脳が、全編アナログ録音による
リーダー作をリリース。精鋭メンバーと共に作り上げた
爽快に「空気も揺れる」、渾身の音世界

T-SQUAREのドラマー坂東慧の、前作『Happy Life!』(2011年7月リリース)につづくセカンド・アルバムが発表された。T-SQUAREにおいてはドラマーとしてだけではなく、作曲家としても多大な貢献をしている坂東。本作はT-SQUAREの中で聴かせてくれる最も彼らしい楽曲が全開となった、坂東慧というアーティストをもっと知るためには絶好のフルアルバムに仕上がっている。作曲/アレンジ/プロデュース、全てが彼の手によるこのアルバムは、一人のアーティストとしての総合的な力を世に示した好盤である。

「今回のレコーディングについて是非言っておきたいのはアナログテープを使ったことです。きっかけは僕がT-SQUAREに加入したばかりの頃のアルバム『Passion Flower』のレコーディング時にプロトゥールスからアナログマルチに流し込んだ音を聴いたことで、その時にとても良い音だと思ったんです。それ以来ずっと気になっていて、アナログが主流だった頃のSQUAREやAORのアルバムを聴き込んでみたところ、一つの結論に達したんです。デジタルはクリアに録れる反面、削ぎ落とされている要素が多々あるのではないかと…。ドラムの音を例にとっても、アナログではアタック音と一緒に発生する〈空気の揺れ〉までが感じられるんです。じつは今回、デジタルとアナログの両方で録って聴き比べてみたのですが、やはりドラムだけでなく各楽器の存在感がアナログの方が断然素晴らしい」

確かに本作ではそれぞれの楽器がアンサンブルの中で埋もれることなく、あたかも目の前で演奏されているかのようにリアルなサウンドで迫ってくる。それではその演奏に携わったメンバーを紹介していただこう。

「まず、ベースはT-SQUAREにおいてもリズム隊の相棒である田中晋吾さん。後ろでどっしりと構えながらも地味に細かいことをやってくれて、それが曲に表情を与えています。僕にとって一番安心できるベーシストですね。キーボードは櫻井哲夫さんと本田雅人さんのツアーで知り合った白井アキト。まだ25歳ですが、音色の選択やフレーズの組み立てがとても早くて、ピアノからオルガン、そしてシンセまで弾きこなす万能プレイヤーです。そして成長著しいギターの菰口雄矢。彼は超絶技巧のプレイヤーとして有名ですが、近年は歌伴っぽいバッキングなどセンスで勝負する場面にも魅力を発揮するようになってきました。ギタリストとしての間口が広がってきたんでしょうね。サックスとEWIはT-SQUAREの大先輩である宮崎隆睦さん。楽器の歌わせ方、音色、どれをとってもケタ違いに大きな世界観を持っています。リハ、本番を問わず、どう吹いても〈僕にとっての正解のプレイ〉しか聴いたことがない。このアルバムは、僕が全面的に信頼するメンバーで作りあげた渾身のバンド・サウンドであり、アナログで録ったことによってそれがより際立ったと思います。さらに、僕が欲しかったのはバンドとしての化学反応。だから時間をかけて煮詰めるのではなく、レコーディングは3日間で完了させました」

それでは、ドラマーのリーダー・アルバムということについて、何か思うところはあったのだろうか。

「確かにドラマーのアルバムとなればテクニックを披露することが一つのスタイルなのかもしれませんが、ここではあまりドラムが目立ち過ぎることなく楽曲を支えることを心掛けました。ジェフ・ポーカロ、クリス・コールマン、スティーヴ・ガッド、ヴィニー・カリウタみたいに、さりげないプレイの中に個性を感じさせながら楽曲のストーリーを組み立てる、そんなドラマーになりたいですね。やはり最終目的は曲を良くすることですから、それを見失ってはいけないと思います」

さて今後、彼はT-SQUAREに対する自身のソロ活動をどう位置づけていくのだろうか。また現時点において何か次なる計画はあるのだろうか。

「ソロのライヴはこれまでのT-SQUAREのアルバムに収録されていてもライヴでは演奏していない僕の過去の曲、あるいはT-SQUAREのアルバム・ツアーでしか演奏しなかった曲を聴く事が出来る場になるんじゃないでしょうか。それにソロ・アルバムからの曲もたくさんありますからね。アルバム制作という面では、これまでわりと聴きやすい曲が多かったので、次はパズルのように綿密に作り込んだキメキメの曲もやろうかと考えています。そんな曲を演奏出来るメンバーでもありますし…。それをまたアナログで録りたいと思っています(笑)」

では最後に、このアルバムのコンセプトを読者の皆さんに伝えていただこう。

「僕は車でドライブしながら音楽を聴くのが大好きなんです。だから今回は皆さんにもそうやって楽しんでもらえそうな爽やかな曲を揃えました。旅に出たくなるような、目の前に大きく景色が拡がる音の世界です。そして聴いてくださった人の普段の生活を少しでも楽しく前向きにできれば……。そうなるように一人一人の背中を押してあげられるようなアルバムになればいいなと思っています」

掲載: 2013年06月21日 12:19

ソース: intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)

interview & text : 近藤正義