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インタビュー

INTERVIEW(2)――どんどん一人称がわからなくなっていってる



どんどん一人称がわからなくなっていってる



マヒトゥ・ザ・ピーポー



――現実逃避というところで言えば、今回のアルバムは音作りも含めて全体的に幻想的なムードがあって、前作よりもまとまっていると思うんですけど、これを聴いている間だけ現実的なことから離れられるという感じはありますね。

「そんなに意識したわけではないんですけど、1枚目を作っていた時も、こういうアルバムを作りたいなと思っていたところがあったんで」

――じゃあ作る前から、完成形みたいなものが見えていた?

「そうですね、雰囲気とかイメージはあったかもしれない」

――こういうアルバムにしたいというイメージがあったから、宇波拓さん(HOSE)にプロデュースを依頼したんですか。

「そうですね。宇波さんはけっこう宇宙ですよね(笑)。普通に宇宙なんで、話が早いです。すごくリズミカルに作れたし。だから楽しかったです」

――作業はマヒトさんのなかにあるイメージを宇波さんに伝えていく感じですか。

「YouTubeとか音源とか、イメージを100個くらい送ったんですけど、でもそういう外堀はあんまり関係なかった気がしますね。結局持っていった歌の絵のほうが強いんで、そっちのほうがだいぶ具体的で。そこは宇波さんに対する信頼もありますよね。外堀だけに引っ張られて後を追うようなものになりそうな人だったら、そういう話はできないですからね。好奇心がすごいある人なんで、こういう形にしたいっていうのを強く言うよりは、その好奇心の部分を掛け算にできるように、ざっくり投げるみたいな。頭で考えてるというよりは、おもしろそうだからっていうのをそのまますぐに音に変えられる人っていうか」

――全9曲中、再録の“み空”とカヴァーの“さようなら”以外はどれも新曲ですけど、だいたい同じ時期に書いたんですか。

「そうですね。2013年の夏以降じゃないですか」

――だからだと思うんですけど、春の淡い光とか夏の蜃気楼とか、そういうイメージの明るい曲が多いですよね。

「季節の感じっていうのは、意識してるっていうよりどうしても無視できないんですよね。深呼吸だけはしてたいなと思うんで。冬のことを思っていたら冬のアルバムになるだろうし」

――“さようなら”は谷川俊太郎さん作詞のカヴァー曲ですけど、〈ぼくすききらいいわずになんでもたべる〉っていうような、幼児性というか純粋性とか無垢なものというところを、マヒトさんが歌うというのが興味深かったんですよね。この曲のどういうところに魅かれたんですか。

「さっき言った、どんどん一人称がわからなくなっていってるっていう話に近いのかもしれないんですけど、時間が経つにつれて、もっともっと今後わからなくなっていく気がしますね。自分で作った虚像みたいなものが、自分の本名を喰うっていうか。マヒトゥ・ザ・ピーポー(という名前)自体がそうなんですけど。自分じゃないものに対する憧れみたいなものがあるんだろうなって。結果、(自分というものは)なくなればいいと思う部分っていうか、憧れのひとつかもしれないですね。簡単に言うとよくわかんないからですよね。リアリティーがあんまりなくて、自分には。(“さようなら”の歌詞のように)家族に対してとか、そんなふうに思ったこともないし、でもなんか魅かれる部分があって。それがなんなのかっていうのは、やっぱり歌いながら確かめて探してるようなところがあったんだろうなと」

――“さようなら”の前の“甲羅のないカメ”も繋げて考えちゃうんですけど、この歌詞は無防備というか、すごく弱者っていう感じがするんですよね。弱い自分ということなのか、弱さへの憧れなのか。

「人って簡単に分類できるほどシンプルじゃないですよね。すごいネガティヴな日もあれば、高倉健の映画を観た後とかは背筋が伸びる感じになることもある。みんなそんなもんだと思いますけどね。それを見せないように取り繕うことはできると思うんですけど、そこに魅力を感じないというか。どちらもやっぱり勘違いなんで。自分の信じたいものを信じて、聴きたい部分を聴けばいいと思う。単純に自分のなかにあるいろんな気持ちを見ながら、〈自分のいま〉みたいなものをいろんな方面から探したいだけで、人に好かれるっていう部分はやっぱりどうしても順番が下になる。自分の興味のほうが(聴き手への意識よりも)先にいってる気はしますね」

――そういう自分の興味と他人との間で、ジレンマがあったりはしないんですか。

「逆に音楽が止まるとすごく不安になりますね。走り続けてる間は大丈夫っていうか。ジレンマっていうよりは追い掛けてる感じなんで、恋愛とかでも追い掛けてる間ってイキイキしてるじゃないですか。それといっしょかな」

――歌詞全体に言えることなんですけど、全然脈絡のない言葉を並べて、そのなかにインパクトのある言葉が唐突に出てくる、という手法を使いますよね。〈世界で一番美しいウソ〉とか〈左にまがったヒットラー〉とか。整然とした歌詞の作り方ではないわけで、どうしてそうなるんだと思いますか。

「(言葉の)匂いみたいなものは大切にしているんですけど、主義とか主張はまったくないんで、自然とそうなってる気はしますね。自分としては、〈春〉っていうよりは、眠る前のまどろみみたいな、それを強いて季節で言うとやっぱり春に近いのかもしれないんですけど、日曜日の午後の感じっていうか、寝すぎちゃった午後のまどろみ、季節も超越してるんだけど別に寒いわけではなくて、自分の性別とか年齢とかも超えて、そこに永遠を感じるようなまどろみ、みたいな感じです。でもそれって具体的にはそれ以上のことは言えないんで、それをいろんな言葉で言ってるだけ」


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掲載: 2014年02月26日 18:01

更新: 2014年02月26日 18:01

インタヴュー・文/小山 守

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