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MORITZ VON OSWALD TRIO @ 恵比寿LIQUIDROOM 2010年1月8日(金)

連載
ライヴ&イベントレポ
公開
2010/02/03   19:00
更新
2010/02/10   18:05
テキスト
文/北野創

 

モーリッツ_1

 

昨年のクラブ・シーンの話題をさらった巨星トリオを、日本が誇る実力派DJ3人(DJ WADA、DJ TASAKA、DJ NOBU)が迎え撃ったこの日のパーティー。先陣を切ったのはヴェテラン格のDJ WADAだ。本日の主役に合わせてか、立ち上がりはエクスペリメンタルな音響テクノをブチ込み、以降は硬質かつ堅実なプレイでフロアを程よい温度に暖めていく。

 

モーリッツ_2

 

そして深夜1時を少し過ぎた頃、WADAに導かれた4つ打ちの深い森を抜けて、主役の三賢人がついに姿を現した……と思いきや、なぜかステージ上には4人いる。暗がりのなか舞台上に目を凝らしてみると、何とそこに立っていたのは日本のダブ/レゲエ・シーンを20年以上に渡って牽引してきた重鎮、こだま和文! 左から、パーカッションに囲まれたヴラディスラヴ・ディレイ(以下、VD)、黒の中折れ帽にノータイ&前ボタン全開というラフなスーツ姿のこだま、座しながらPCをにらむモーリッツ、キーボードの前で構えるマックス・ローダーバウアーという順番で、こだまはまるでグループの一員であるかのように、違和感なくステージの中央に身を置いている。

会場はいつのまにかドローンの霧に覆われており、三賢人と日本のダブ・オリジネイターによる世紀のインプロヴィゼーションは気付かぬうちに始まっていた。地の底から徐々に浮かび上がるような淡い音の波に、温かみと哀愁を併せ持ったトランペットの音色をそっと重ねていくこだま。美しいメロディーで存在を誇示するでもなく、ド派手なテクニックを弄するでもなく、一音一音を確かめるように吹く彼のプレイは、モーリッツたちの生み出すアンビエントな空間と静かに調和していく。ストイックで緊張感に満ちたその交信は、視覚的に例えるとするなら墨の濃淡に彩られた山水画のなかの風景。シンプルかつ深みのあるモノトーンの音世界に、フロアを埋め尽くしたオーディエンスは静かに酔いしれていた。こだまの去り際に、彼とモーリッツが拳と拳を合わせるというシーンもあり、ダブが取り持つ国境を越えた交歓に胸が熱くなる。

モーリッツ_3

そしてトリオに戻った一同は、圧巻の即興演奏で観る者をミニマルの新世界へと誘っていく。その先導役としてもっとも存在感を放っていたのはボスのモーリッツ……ではなく、躍動感に溢れたパーカッションで会場に終始フィジカルなグルーヴを供給していたVDだ。

全編が即興のため確かなことは言えないが、大半でアンサンブルの軸を担っていたのは、モーリッツのPCから発せられていたであろう、一定のリズムを刻むビートとベース音。だが、太い幹に絡み付くようなVDのパーカッションは収縮と増幅を繰り返しながら場内に反響し、生演奏という視覚効果も相まって、全体をより原始に直結したトランシーなサウンドへとリードしていくのだ。その想像以上に肉感的なパフォーマンスは、ミニマル・テクノというよりもむしろ民族音楽的なミニマリズムと地続きにあるようで、個人的にはヴェルヴェット・アンダーグラウンドの初代ドラマーであるアンガス・マクリーズが志向したような、サイケデリックなミニマル・ミュージックを想起してしまった。

そのようなトリップ感溢れる昂揚とぬるま湯のように心地良い静謐を行き来しながら、途切れることなくジワジワと音の波形を変容させていくこと約1時間半。ラストはやはりVDによるパーカッション乱打で山場を作り、観衆の興奮を持続させたまま〈ジャーン!〉という銅鑼のような音を鳴らしてジ・エンドとなった。

続いて登板したDJ TASAKAの激しくアッパーなズルムケ・テック連打も、DJ NOBUのディープかつエモーショナルな選曲ももちろん素晴らしかったが、結局空が白みはじめるまで筆者の脳裏に焼き付いていたのは、主役のトリオが最後に見せた満足げな笑顔だった。

 

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