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cali≠gari @ 日本武道館 2010年2月11日(木)

連載
ライヴ&イベントレポ
公開
2010/02/22   21:00
更新
2010/02/23   21:07
テキスト
文/土田真弓

 

2009年4月1日に消費期限付きの活動再開が宣言されてから約1年。復活ライヴ、新作の発表、消費期限の偽装発覚などの話題を振り撒きながら、今年2月11日に日本武道館にてラスト・ステージ〈マストライブ「解体」〉を開催した異色V系バンド、cali≠gari。本当にこの日で消費期限を迎えるのか、それともまた偽装なのか――? bounceでは、当日の模様をほぼ実況の体でレポートいたします!!

 

カリガリ1

 

日本武道館という会場らしく、ステージ上方には日の丸が。下に目線を移すと4つのモニターが横1列に設置してあり、その真ん中ではやはり日の丸をあしらった〈解体〉の2文字が躍っている。舞台の中央には赤い丸を象ったドラム・セット、奥には巨大なスクリーン、左右には白を基調とした花道――全体的に、ザ・ニッポンを意識したようなセットだ。

開演時間を過ぎてもメンバーは一向に現れない。ぼんやりステージを眺めていると、突然、スクリーンに文字が浮かび上がる。

〈やっぱり売り切れませんでした、此処だけは――――〉。

場内が爆笑に包まれる。ちなみにオフィシャルサイトでは、武道館公演の開催を発表してから〈売り切れません、此処だけは――――〉〈売り切れるかも、此処さえも――――〉といったキャッチコピーでチケットの売れ行きを公表していたのだ。しかし、次に浮かび上がった文字を見て、客席からどよめきが起こる。

〈売り切れました、此処なのに――――〉。

改めて会場を見渡すと、アリーナからスタンド席まで、びっしりと人で埋め尽くされている。そうか、ソールドアウトしたのか……。

解体ショウの始まりを告げるサイレンが鳴り出すと、怒号のような大歓声が上がる。禍々しい赤色灯が場内を縦横無尽に照らし出す。モンスターの咆哮(って、もちろん聴いたことないけど)のような――地の底を這いずるような不気味な呻き声が混じっている(ように聴こえた)サイレンの音が延々と鳴り続けるなか、メンバー4人が登場。コメントしがたい石井秀仁(ヴォーカル)のヘアスタイルに初っ端から目が釘付けになる。↓のライヴ写真ではわかりづらいが、写ってないほうの半分が……すみません、どこかで確認してください。桜井青(ギター/ヴォーカル)がステージの真ん中に立ち、ナイトのような仕草でゆっくりと一礼する。

オープニングは“エロトピア”。ざらついたギター・リフが轟いた瞬間、客席からは悲鳴にも似た歓声が上がり、曲名がスクリーンに投影される。石井と桜井の2声でエキセントリックな絶頂を迎えると、間髪入れずに“マッキーナ”のマッシヴなビートが。繰り返される転調とレイヴ風シンセの挿入で客席を躁状態に陥れると、そのまま“せんちめんたる”へ移行。ザクザク刻まれるギターと観客による〈Oi〉コールで息の合ったコール&レスポンスを見せ付け、サビでは大合唱を引き起こす。筆者がいるスタンド席はかなり本気で揺れているが……大丈夫か。

「どうも、こんばんは。えー…………草食系、男子、たちです」。

「みなさん、今日は、心ゆくまで…………ま、そこまで言えば、わかると思うんで」。

と、石井が掴みどころのない語り口で笑いを取ると、「さあ、レッツ、曲」という一言を合図に、“ハラショー!めくるめく倒錯”へ。村井研次郎(ベース)のチョッパーを硬派に聴かせた後は、ドラマティックなシンセが閃く“偶然嵐”。回転台に登壇した桜井がギターを弾く様はもちろんアグレッシヴではあるのだが、同時にショウケースのなかのマネキン人形のように無機質な印象を覚える。なぜだ。

「さっきやった曲は、なんていうか別に、扱い的にも、ただ何となくやってみただけなんで、変に意識しないでください」――直前に披露された新曲“散影”(ラスト作『≠』の収録曲だが、この時点でリリースが告知されていなかった)を牽制しつつ、文字化すると読点をふんだんに使用することになる石井のMCが始まる。

 

カリガリ2

 

「せっかく、日本、武道館、ですから、ここは。やっぱり自分史上に残る最強(最凶? 最狂?)のMCをしたいじゃないですか」。

「一個だから、言おうと思ってたのは、武道館、って言うのを間違えて〈国技館!〉って言ったらどうだ、っていう。リハーサルの時はね、そういう打ち合わせばっかりしてるんですけど、そういうことを言ったりやったりすると、イヴェンターさんにすごい迷惑がかかるらしくって、でまあ、ほら、われわれも大人なんで……そう、だいぶ、いいね、この〈スタジアム〉は」。

「みんな、緊張のあれが、ああなってるじゃない? いま俺は、緊張のあれをああするためにこういうことを話してるわけで……さあ、じゃあ、青さんもね、すっかり休んでくれたと思うんで」。

……と、ポツリポツリと語る言葉で会場からふたたび笑いを誘うと、雨音のSEが。当日来場者に配布された音源に収録の“続、冷たい雨”と“冷たい雨”をシームレスに披露する。

石井「ひとつ、言っておきますけど、今日、最後ですからね。みんなが聴きたいと思う曲を、やったほうがいいよ、って言ってね、俺が。〈やっぱ、昔の曲ってすげえ大事だよ!〉(棒読み)って俺が言ったからさ」

などと誇張しておきながら、聴こえてきたのは復活作“スクールゾーン”のイントロ。おーい!……と思いきや、次からは言葉通りのセットをアッパーに畳み掛ける。“ハイカラ・殺伐・ハイソ・絶賛”では桜井と村井が花道の両サイドをダッシュで行き来しながら観客を煽り、“混沌の猿”では桜井のぶっ飛んだモンキーダンスに合わせて何千人が腕の上下運動を繰り返す。壮観な絵に圧倒されていると、村井によるMCが。

「俺のMCってことは、どういう流れかわかってるな!? 男、声が小さい! 男!」――意外と多い男子たち(筆者比)が怒声を上げる。「そんなんじゃ、青は喜ばねえぞ! 女!」――負けじと女子たちが黄色い声援を上げる。「そんなんじゃ、誠(武井誠、ドラムス)は喜ばねえぞ! 女! 男! みんなで! ……(場内からの爆発的な歓声を受けて)おお、いいね、いいね。お前ら、この流れをよくわかってるな? わかってねえやつは、帰りに物販で、DVDを買ってけよ! ついでに俺と誠君のうちわも買ってくれ(武井がバスドラを鳴らして村井のMCを援護)!」

村井と武井にとっては、武道館が埋まったかどうかより、自分たちのうちわの売れ行きのほうが気がかりなんだ……!!といった切実な心の叫び(?)を経て、本編は怒涛のクライマックスへ――物騒なカウントダウンから“37564。”へ突入。会場全体で「み~なごろし!」と合唱しまくるなか、桜井はステージ前方に設置された〈動く歩道〉的なセットに移動。膝を折ってハイテンションなプレイを繰り広げながらも、左右へ滑らかにスライドする様がやはり異様だ。シェイクした脳内を吐き出したかのような新曲“マネキン”に続けてラストは“マグロ”“嘔吐”の2連打。ここで桜井が初めて「踊れ!」と言葉を発し、フィニッシュ寸前の間奏ではロボット・ダンス(?)も披露。セット全体を駆け巡りながら、観客に向かって猛烈にアピールする。次はまたMC? ……かと思ったら、4人はさり気なく退場していった。

 

カリガリ3

 

ここで、突如モニターに〈武道館秘話 お帰り星男〉と題されたVTRが映し出される。活動休止前の“エロトピア”誕生から武道館公演の開催を発表するまでのエピソードを大ウソをまぶして展開。今回の復活劇は、〈星男〉という人物の尽力によるものらしい。ドキュメンタリー風に登場するメンバーはほとんどがあからさまに別人。しかし、なぜか武井だけは必ず本人が出演しているという素晴らしい意味不明ぶりの映像作品が終了すると、場内から大きな拍手が。そして〈星男コール〉が沸き起こる。

「もう、お前らに残された時間はあとわずかだぜ…………ああ、そうでもないか」。

……と、もはや独り言のような風情で石井がアンコールの開始を告げると、cali≠gariのなかでは屈指の爽快ナンバー“オヤスミナサイ”とキャバレー・ジャズ歌謡“ゼリー”を立て続け、そのまま村井による超ロング・ソロへと雪崩れ込む。他のメンバーは一旦舞台袖へ消えるが、しばらくして武井が帰還し、リズム隊で重量級のビートを叩き出す。するとステージ後方にド派手なプロレスラー(!?)のような衣装のマッチョな2人組が現れ、白い布の両端を持って簡易スクリーンを設置。すると、妖艶に身をくねらせるシルエットが浮かび上がる。

「ショウターイム!!」

という宣言と共に、スクリーン後方からしなりしなりと姿を現した桜井は、黒髪おかっぱのウィッグと全身黒エナメルのコスチュームを身に着けており……何というか、例えるなら〈ある意味で正しい、でも根本的なところが間違っているレディ・ガガ〉のようだ。さらにはパピヨンのコスプレやゴス~ロリータ~ヴェルサイユ風のドレスを纏ったご婦人……いや、殿方たちがぞろぞろと登場してポージング。華美を通り越してもはや異形と言いたい集団が舞台上を埋め尽くす。この日2度目の“エロトピア”のイントロが流れると、その生ける人形たちが突然蠢き出し、背後のスクリーンには楽屋口からステージへ移動しながら歌う石井の映像が。桜井は性を超越したプレイで観客を圧倒し、最後は「ありがとう!」と投げキッスを残して去っていった。

メンバーを呼ぶ大きな声援を掻き消すように、悪夢のようなサイレンが鳴り響く。2度目のアンコールは“サイレン”だ。沈み込むようなディレイが施されたヘヴィーなサウンドと石井の悲痛な絶叫を浴びていると、どうしようもない虚無感に襲われる。桜井は疲れたようにギターを投げ捨て、石井は客席に拍手を送りながら退場していく。

トリプル・アンコールは、石井と桜井による“空想カニバル”をやる/やらないの話になって結局やらなかった、という会話から始まった。脱力トークはゆるゆると続く……のかと思われたが、突然打ち切られると“ブルーフィルム”のイントロが。銀色のテープが会場全体に放出され、各々そのテープを持った観客は、頭上で人差し指を絡めるようにくるくると回す。桜井と村井は花道を目一杯に駆け回り、ラストは武井の元へ集結してドラム・キットからジャンプ。石井は花道から場内に向かって煽るような嬌声を上げる。最後は、石井と桜井が「ありがとう!!」と叫び、さらに桜井は客席に向かって両手を合わせ、深々と一礼すると振り返りもせずに姿を消した。

厳かに“君が代”が流れ出す。電飾に縁取られたバンド名が一文字ずつ消え、またパッとcali≠gariという文字が浮かび上がると、スクリーンに〈ニュウアルバムのお知らせ〉として新作の情報が表示される。客席より歓声。そしてリリース日と〈コミングソーン!〉といった文字が順に浮かび上がり、そのたびに客席から大歓声が沸き起こる。そして、最後に表示された文字は……。

〈消費期限、切れました――――〉。

場内からは大ブーイング。直後に「これをもちまして、本日の公演はすべて終了いたしました……」という淡々としたアナウンスが流れ出し、場内からはふたたびブーイングが。

バンドの散開ライヴに期待される感動的な演出は皆無。あんまりな幕切れに呆気にとられながらも、素直にその状況を受け入れていた観客たちのトーンが印象的であった。恐らく、ここにもcali≠gariらしさがあるのだろう。言い方が適切かわからないが、湿っぽさが完璧に排除された空気感に妙な清々しささえ覚えたこの日のステージだった。

 

マストライブ「解体」 at 日本武道館 2010年2月11日(木) セットリスト

01. エロトピア
02. マッキーナ
03. せんちめんたる
04. ハラショー! めくるめく倒錯
05. 偶然嵐
06. ―踏―
07. 散影
08. 続、冷たい雨
09. 冷たい雨
10. スクールゾーン
11. 「依存」という名の病気を治療する病院
12. ハイカラ・殺伐・ハイソ・絶賛
13. 混沌の猿
14. 37564。
15. マネキン
16. マグロ
17. 嘔吐

―アンコール―

18. オヤスミナサイ
19. ゼリー
20. 新宿エレキテル
21. エロトピア

―アンコール2―

22. サイレン

―アンコール3―

23. ブルーフィルム