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第64回――ドキッとNEWデルフォニックス

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2013/03/13   00:00
更新
2013/03/13   00:00
ソース
bounce 352号(2013年2月25日発行)
テキスト
文/林 剛


エイドリアン・ヤングによる〈新作〉で再脚光を浴びるデルフォニックスとは?



Delfonics_A



エイドリアン・ヤングが全面援護した『Adrian Younge Presents The Delfonics』で驚きの復活を果たしたフィリー・ソウルの名門ヴォーカル・グループ、デルフォニックス。実質的にはそのリード・シンガー兼ソングライターであるウィリアム・ハートのソロ作なのだが、70年前後の甘美な歌とサウンドを真空パックして、それを2013年に開封したような同盤を聴けば、当時を生きていなくても何だか甘酸っぱい気持ちになってしまう。

米フィラデルフィアの高校で4人組の前身グループが結成されたのが64年。中心メンバーはウィリアム(テナー)とウィルバート(バリトン)のハート兄弟で、メンバー交代を経て3人組となった彼らはデルフォニックスと名乗り、66年にトム・ベルの制作した“He Don't Really Love You”でムーン・ショットからデビューしている。続いてカメオでシングルを出し、メンバーのひとりがランディ・ケインに交代したところで、後見人のスタン・ワトソンが設立したフィリー・グルーヴに入社。以降もトム・ベル及びワトソンのバックアップで、“La La Means I Love You”“Ready Or Not Here I Come(Can't Hide From Love)”“Didn't I(Blow Your Mind This Time)”などのヒットを飛ばしていく。今回エイドリアン・ヤングがインディー/ヒップホップ的な視点で再構築した、エレキ・シタールやフレンチ・ホルンなどを使って表現される〈甘く、切なく、やるせない〉スウィート・ソウルのシグネチャー・スタイルは、この時期の彼らの曲によって完成されたものだ。そして、ウィリアムの天まで突き抜けるようなハイ・テナー/ファルセット、これがグループ最大の売りとなる。

71年にランディが抜けるとメイジャー・ハリス(昨年惜しくも他界)が加入。“Tell Me This Is A Dream”などをヒットさせるが、スタイリスティックスやスピナーズに力を入れはじめたトム・ベルが離れるとヒットも減り、74年を最後にヒット・チャートから姿を消してしまう。この後、メイジャーはソロ・シンガーとして成功。一方、結成当初から仲が悪かったと噂されるハート兄弟は分裂し、兄ウィリアムはソロとして、またデルフォニックスを率いて、細々とではあるが活動を続けていった。

90年代後半にはメイジャーが復帰し、制作陣にプレストン・グラスらを迎えて往時のスウィートネスをアーバンなスタイルで再現した『Forever New』(99年)を発表。一方で弟のウィルバートは〈The Delphonics〉名義のグループを率いて活動し、2005年にはブレイク前のリック・ロスを招いた実質的なソロ作『Fonic Zone』を発表するなどして本家とは別行動をとっている。甘さの裏にあった元来のストリート気質を打ち出した分家も、それはそれで悪くない。が、3テナーズ・オブ・ソウルの企画盤『All The Way From Philadelphia』(2007年)にウィリアムが招集されたように、やはり彼のハイ・テナーこそがデルフォニックスの魅力なのだろう。〈ララ〉と歌えば愛。そんな、ソウル/R&Bにおけるひとつの標語を生み出した功績は本当に大きいのだ。



▼デルフォニックスのベスト盤『Platinum & Gold Collection』(Arista)