【悲運の神童】天才ヴァイオリニスト 渡辺茂夫が話題に

MBS NEWS公式YouTubeページより

戦後の日本音楽界に現れた天才ヴァイオリニスト 渡辺茂夫
彼の劇的すぎる半生を描いたドキュメンタリーがYouTubeで話題に

戦後、10代前半にしてすい星のように日本楽壇に登場し、完璧なテクニックと気品高いな音楽性で瞬く間に聴衆を魅了した天才ヴァイオリニスト、渡辺茂夫（1941～1999）。1954年に来日した大ヴァイオリニストのハイフェッツは茂夫の演奏を聴いて感銘を受け、アメリカ留学と無試験でのジュリアード音楽院入学の労をとったほどでした。ところがアメリカ留学から2年後、16歳のときに自殺未遂をはかり、一命をとりとめたものの脳障害が残り、その後40年以上に渡って在宅療養を続けた「悲運の神童」となってしまいました。

自殺未遂のニュースは当時驚きをもって迎えられましたが、年月の経過とともに茂夫の名前は忘れかけられていました。そして。40年後の1996年になり、ノンフィクション作家の山本茂が渡辺茂夫の半生を描いた『神童』を発表（3月）、東芝EMI（当時）が茂夫の録音を集めたCD『神童（幻のヴァイオリニスト）』を発売（7月）、MBSが1時間番組のドキュメンタリーを放映すると（8月）、「悲運の神童」渡辺茂夫はクラシック・ファンのみならず、広く話題となりました。

それから、25年が経過し、再び渡辺茂夫が話題になることが少なくなっていましたが、2022年9月30日にMBSが1996年制作のドキュメンタリー全編をYouTubeにアップすると（【悲運の神童】天才バイオリニスト渡辺茂夫の『劇的すぎる半生』輝かしい未来から命の淵に…（1996年8月18日放送「映像90よみがえる調べ」）、それを観て衝撃を受けた視聴者がツイートなどで発信し、うわさがうわさを呼び、10月12日(水)時点で50万視聴を超える話題となっています。

茂夫が演奏したCD

現在、渡辺茂夫の演奏で手に入る音源は、マンフレート・グルリット作曲のヴァイオリン協奏曲（1955年2月11日、日比谷公会堂での世界初演ライヴ）の一つのみとなっています。グルリット（1865～1957）はドイツの作曲家、指揮者ですが、ユダヤ人だったため戦前、ナチスのパージにあい、1939年に来日。草創期にあった日本のクラシック界に尽力した音楽家でした。このヴァイオリン協奏曲はドイツの名ヴァイオリニスト、ゲオルグ・クーレンカンプのために書かれましたが、ドイツでの初演が叶わず、渡辺茂夫の実力を認めたグルリットが自ら指揮を担当し、茂夫にソロを任せて初演したのでした。

茂夫の作品を演奏したCD

もう1枚、渡辺茂夫が11～12歳のときに作曲したヴァイオリン・ソナタ2曲を現代日本の名手、木野雅之が2005年にデジタル録音したCDが出ています。茂夫はヴァイオリニストとしてだけでなく、作曲家としても将来を嘱望されており、第1番にはモーツァルトやベートーヴェンの影響を受けつつも独創性に富んだメロディが現れたり、第2番ではソナタにも関わらずカデンツァが付き、技巧的にも高度なものが要求されるなど、その才能が窺える内容となっています。
(タワーレコ―ド 商品本部 板倉重雄)