【no beats, no life. HIPHOPキャンペーン】DJ PMXスペシャルインタヴュー到着!
インタヴュー&文:吉橋和宏
日本国内でアメリカ西海岸=ウエスト・コーストをルーツとしたヒップホップ・スタイル(通称ウェッサイ)を提示し続けているDS455のメンバーとして、そのデビュー以来、ユニットのサウンド・プロダクションとDJを担ってきた重鎮、DJ PMX。2009年にDS455は結成20周年という大きな節目を迎えているが、それより更にさかのぼるキャリアを持つDJ PMXがそんな長い道程へと一歩を踏み出したのは、こんなきっかけからだった。
DJ PMX 「17~18歳の頃に、ラジオでアフリカ・バンバータやハービー・ハンコックの曲を聴いたんですよ。当時はスクラッチがすごく新鮮なものに感じたから、すぐにのめり込んでしまいましたね。18歳で上京して、すぐにターンテーブルを買いに行きました。それからMAZZ+PMXというグループを作ったんですが、ライヴは70年代ぐらいのファンクのブレイクビーツを二枚使いしてて。当時のニューヨークのヒップホップ・スタイルに影響を受けていましたね。とにかく、ラン・DMCやマーリー・マールといったアーティストたちのスタイルを目標としていました」
◆ 冒頭でも触れた通り今やいわゆる国産ウェッサイ・シーンを代表するDJ/プロデューサーが、当初ニューヨークのアーティストを目標としていたのは少し意外だが、MAZZ+PMXが結成されたのはギャングスタ・ラップの礎たるN.W.Aがシーンに登場した頃とぼぼ同時期だということを考えればそれも理解できるはずだ(と同時に、改めて彼が刻んできた歴史に尊敬の念を抱く)。ちなみに、そんなMAZZ+PMXの貴重な音源は、2009年9月に発売されたDJ PMX名義のプロデュース・ベスト・アルバム『THE CHRONICLE -BEST WORKS-』にて聴くことができるのだが、実際に創成期から日本のヒップホップへ寄与してきたDJ PMXは、当時の日本のヒップホップをどんな目で見ていたのだろうか。
DJ PMX「最初ヒップホップはすごく少数派だったので、将来的にこんな状況になるなんてことは予想できなかったですね。でも感覚では、自分の世代ではなく、次の次の世代くらいにいい状況になっているだろうなとは思っていました。それは、こんなに面白いシーンが無くなるとは絶対に思わなかったからですね」
◆ 国産ヒップホップのオリジネイターのひとりとして活動を続ける中で、様々な楽曲に関与していたDJ PMX(例えば、BUDDHA BRANDのクラシック“人間発電所”にはマニュピレーターとして参加)だが、その当時、彼の心にはある想いがあった。
DJ PMX「日本のヒップホップの裏方(プロデューサー/マニュピレーター)をやっていた当時、個人的にウエスト・コーストのヒップホップをルーツとするスタイルをいつか日本に広めたいと思っていました。そのきっかけとなったのが、(彼がプロデュースを務めた)OZROSAURUSの“AREA AREA”だったんです。それを機にDS455も認知されるようになったし、広めたかったウエスト・コースト・スタイルのヒップホップも注目されるようになりましたね」
◆ その“AREA AREA”を筆頭に、DJ PMXが生み出すビートは非常に高い評価を受けている。数多のアーティストが彼のビートを使用していることも証左であるが、その秘訣はどんなところにあるのだろうか。
DJ PMX「DJがビートを作ることの強みは、現場の雰囲気を理解しているので、現場に合った曲を作りやすいっていうことですかね。毎回クラブでDJをして客が踊るのを見ることによって、どんなビートが受けるのかとか……DJをしていて分かることも多いですから。場合によっては、ライヴをする時に客が踊れるような曲を作ることもあるし。あとは、とにかくいろんな曲をたくさん聴くことじゃないですかね」
DJ PMXのビート・メイキングには、やはり長年培ってきたDJとしての音楽の捉え方が大いに役立っていると言えそうだ。ヒップホップの本場アメリカでは、1990年代末頃――ティンバランド制作の斬新なビートがシーンを席巻し、スウィズ・ビーツがラフ・ライダースとともに彗星の如く現れたあたり――から、プロデュースを主としたヒップホップ・プロデューサーがその数を一気に増した。しかしそれまでのヒップホップでは、DJがビートを作るという構図の方が圧倒的に多かったように思う(今でももちろんそれは続いている)。優劣の問題ではなく、つまりそこにはダンス・ミュージックとしての合理的な必然性があったのだ。
◆ ところで、DJ的側面から影響を受けた人物についてDJ PMXに問うと、「DJとしての立場だと特にいません」という答えが返ってきた。これは裏を返せば、DJ PMXとしてのキャラクターが彼自身の中でしっかりと確立されていることの表われに他ならないし、その絶対的自信に基づいて彼は長きに渡りDJを続けている。もちろん、彼のDJプレイが自分本位というワケでは決してない。そこで、DJ PMXのDJプレイに対する心構え、ヒップホップにおけるDJの役割について思うところを訊いてみた。
DJ PMX「クラブに遊びに来たお客さんを楽しませたり、かっこいいけどあまり知られていない曲をいち早くみんなに届けたりするのがDJの役割だと思う。当然、お客さんを踊らせることを前提に、踊りやすい有名な曲を中心にプレイしていくけど、あまりみんなに知られていないような曲もところどころに混ぜてプレイしていますね。ここでも(踊りやすい有名な曲と)同じように楽しんでもらうのが大切なこと。音楽で楽しんでもらうためには自分のスタイルにこだわり過ぎず、臨機応変に現場のお客さんのノリに対応していくことも大切だと思いますね」
◆ 今年2月にリリースされたミックスCDシリーズの最新作『LocoHAMA CRUISING 03』をはじめ、ここまでDJ PMXが手掛けたミックス作品はどれも同形態としては驚異的な売り上げを記録しているというが、それはやはり、彼が先述のDJスタンスに沿ってうまく“ミックスCD/DVDの意義”を捉えた作品群をリリースしてきた成果ではないか。
DJ PMX「昔と違って、いまはヒップホップの中にもいろんなスタイルがあるじゃないですか?バトル系のDJだったり、ウエスト・コーストやサウス、メインストリームだったり……。そういった“それぞれのヒップホップ”を広める手段のひとつがミックス作品だと思いますね。自分がかっこいいと思っている曲をDJが選ぶのは当然ですが、聴く人がもしミックス作品の中に気に入った曲を見つけたら、そのアーティストのCDを買ってもらいたいんですよね。それもDJがミックス作品を出すことの意味だと思うんです。自分はクラブでお客さんを踊らせる時とは違い、ミックス作品では普段の生活におけるBGMとして聴けるような方向を目指して選曲をしていますが、クラブに遊びに来たことがない人にでも、DJプレイの面白さを伝えられるものだとも思いますしね」
◆ プロデュース・ワークやDS455としての活動も含め、DJとしてのここまでの歩みを経て吸収してきたたくさんのものを、現場、そして作品で、最高の形に仕上げリスナーへと還元・提案していくDJ PMXは現在、今秋にリリース予定となる新作ミックスCDに向けて準備中だという。また、今後は洋楽ヒップホップのヴィデオ・ミックスDVDなどヴェテランDJとして新たな分野にも挑戦していきたいと語っているだけに、その動きからは今後も目が離せそうにない。
DJ PMX「ヒット曲ばかりを掛けていれば盛り上がるし形にはなるけど、結局それは自分のDJスタイルのおかげではないので、自分のスタイルを見つけて、それを貫き通すことが大事ですね」
その方法論を自ら見つけ、20年以上も実践してきたDJ PMXの言葉には、ただならぬ重みがある。
DJPMX最新作!
邦楽・洋楽の2枚組。このMIX CDで日米のヒップホップの今がわかる完全盤!DJ PMXにしかなし得ない、豪華ゲストを迎えた新曲に加え、マチガイナイ曲数に大満足です。