屈指の名手、ポール・メイエの吹き振りによるシュポーア
ポール・メイエ(クラリネット&指揮)、ローザンヌ室内管弦楽団
シュポーア:クラリネット協奏曲第1~4番(全曲)
初期ロマン派の隠れ重要レパートリー、ついに全曲録音セットが「あの名手」の名演で!
シューベルトやヴェーバーと同じ時代、これ以上うつくしく微妙な陰影を出せた作曲家がいただろうか――解説も超・充実、シュポーアを知るうえでもとにかく貴重なリリース。
管楽器不毛の時代…と大雑把に思われがちなロマン派時代ですが、そもそもオーケストラ芸術があれだけ発達した19世紀に、作曲家たちが個々の管楽器を大切にしていなかったはずがないわけで。とりわけ、19世紀に入ってから大きく可能性を伸ばしたクラリネットには、数多くの傑作が捧げられています。たとえば大作曲家たちでもヴェーバーがこの楽器に着目して協奏曲や弦楽器との五重奏曲を書いているほか、シューベルト(歌曲や八重奏曲)、シューマン、メンデルスゾーン、後にはブラームス…と、ドイツ・ロマン派の大作曲家たちも案外、クラリネットだけはひときわ重視していたようで。ただ、そうした状況に達するのはおよそ1820年代になってからのこと――それ以前、つまりモーツァルトが亡くなってから2、30年ほどのあいだにクラリネットを最も大切にした大作曲家をあげるとすれば、それは間違いなくヴェーバーと、(今ではうっかりすると妙に群小扱いされてしまう)シュポーアということになるでしょう。なにしろこの二人はロマン派周辺ではいち早く、クラリネットのための傑作協奏曲を複数書いているのですから――とくにシュポーアの最初の協奏曲は1808年、あのベートーヴェンの「運命」「田園」「合唱幻想曲」などの歴史的初演失敗のあった年に書かれており、これはヴェーバーの作例よりも早い時期の協奏曲ということになります。そもそも当時はすでに「名手が自分で協奏曲を書く」というのが一般的になっていたので、腕利きのクラリネット奏者による協奏曲というのであればいくつかあったものの(たとえばクルーセルやルフェビュール)、シュポーアはヴァイオリニストとして活躍しこそすれ(ヴァイオリン協奏曲もたくさん書いていますね)、彼がヴァイオリン以外の楽器のために書いた独奏協奏曲というのは、それこそこのクラリネットのための4曲だけなのですから、その点でもきわめて重要、かつ作曲家の思い入れが深く詰まった傑作とみなせるわけです。そして実際、作品内容の充実度においても4曲とも非常に高く、とりわけ(おそらくあまりに深くロマン派的だったため、当時楽譜出版がためらわれたと思われる)作品番号のない短調の2曲の深い味わい、美しい陰翳、堅固な曲構造といったら…ベートーヴェンが短調の協奏曲を1曲だけしか書いていないのが悔やまれるなら、断然シュポーアのクラリネット協奏曲を聴き深めるべきだと思います。そして何より嬉しいのは、ベルリンのカール・ライスターやスイスのエドゥヴァルト・ブルンナーらとともに間違いなく現代最高のクラリネット奏者であるところのフランスの名手ポール・メイエが、その芸術性がひときわ充実した今になって、満を持してこれらの傑作を録音してくれたということ――Alphaレーベルの現主宰者が先日「シュポーアは弦楽器の音楽でこそ輝く巨匠だと思っていたけれど、この演奏で4曲のクラリネット協奏曲があらためて傑作だったと認識を改めた」と言っていましたが、本アルバムを聴いてみて、その意味がよく分かります。Clavesレーベルの名盤群でも活躍をみせてきた俊英団体ローザンヌ室内管の周到な演奏も実に頼もしく、作品美をじっくり味わえる名演になっています。そして嬉しいことに、解説も相当な充実度――シュポーアについて日本語で何かを読める機会などめったにないところ、きっちり全訳付でその内容をお伝えしてまいります。初期ロマン派の最も聴きごたえある作曲家のひとり、シュポーア…Alphaレーベルが自信満々提案するだけのことはある逸品です。
【曲目】
ルイ・シュポーア(1784~1859):
1.クラリネット協奏曲第1番ハ長調 op.26
2.クラリネット協奏曲第2番変ロ長調 op.57
3.クラリネット協奏曲第3番へ短調 WoO.19
4.クラリネット協奏曲第4番ホ短調 WoO.20
【演奏】
ポール・メイエ(クラリネット&指揮)
ローザンヌ室内管弦楽団
<その他の注目新譜のご紹介>