ベネズエラ出身のピアニスト、エドワード・サイモンがルーツであるラテン・アメリカの名曲をトリオで演奏
1969年ベネズエラ生まれ、“才能溢れる多くの重要なアーティストが生まれる中南米の中でも、最も創造的なジャズ・ピアニストの一人”とジャズ・タイムス誌も絶賛するエドワード・サイモンの14作目となる作品『Latin American Songbook』。
1994年に初リーダー作をリリースし、同年セロニアス・モンク・コンペティションに入賞。ピアニストとしてのみならず、作曲家/アレンジャーとして、また教育者として、文字通り大活躍。SFコレクティヴのピアニストをつとめていることを見ても、現代においていかに才能が認められているか、うかがいしれる所です。
本作はそんなサイモンが、自らのルーツを見つめた作品。
ブラジルのボサを始め、アルゼンチン・タンゴ、キューバのボレロ、チリやプエルトリコの魅惑的な音楽…これらを聴いて育ってきたサイモンは、NYで活動の範囲を広げると同時に、母国の音楽に関心を深め2003年にアンサンブル・ベネズエラを結成。その成果が大作『Venezuel an Sui te』(2014)となって結実しますが、本作は、その続編であり、さらなる追究を形にした作品になりました。
曲の構成は、オリジナルの組曲というものから、中南米の魂とも言うべきラテン・アメリカン・クラシックに。日本でもおなじみのアストル・ピアソラの超名曲「リベル・タンゴ」を始め、ジョビンの「シャガ・ジ・サウダージ(想いあふれて)」、またラテン・アメリカの人々にとってはイコンとも言うべき「アルフォンシーナと海」等々名曲揃い。
しかし曲のオーラに頼るような半端なものでないのは言うまでもありません。90年代にはパキート・デリベラのバンドで、これらの曲を演奏してきたというサイモンは、経験を積んできた今だからこそ、徹底的に楽曲を掘り下げ、自分の音楽にしたかったとのこと。リベルタンゴは、ピアソラの初録音をコピーすることから始め、曲の内奥に迫ったのだとか。またカルロス・ガルデルの「ヴォルヴェール」はオリジナルのエッセンスを活かしながら5/4 拍子を取り入れ、タンゴからジャズ・チューンとして描き上げるなどの試みも見せてくれています。
メンバーには、サイモンが長年共演し、ジャズとラテンの世界をシームレスに描き出せる存在というアダム・クルース、ソリッドで温かい音色の持ち主で、多彩さと繊細さを併せ持つというジョー・マーチンを迎え、最高の布陣での凝縮したフォーメーション。結果、ベネズエラやそこを取り巻く中南米の音楽の本質はそのままに、ジャズ、チェンバー・ミュージック的なものを融合させることに成功。トリオによって、情熱的かつ、感情の機微に寄り添うような哀愁溢れる曲の数々が、絶妙なスタイリッシュさもまとった表現で新しい生命感と息吹をもって表現されました。
ちなみにラストは、ジャズ・ファンにとってはチャーリー・ヘイデンの00年代の大ヒット作『ノクチューン』の冒頭曲で大きな感動を呼んだボレロの名曲。キューバの先達ゴンサロ・ルバルカバへの敬意も滲み渡るような慈しみに満ちた表現はこれ以上になく繊細で美しく、感動を呼びます。
アコースティック・ジャズの最先端で活躍しながら、ルーツに眼差しを向けるエドワード・サイモンの創造力が詰まった一作。注目です。
Edward Simon / Latin American Songbook
1. Libertango (Astor Piazzolla)
2. Alfonsina y el Mar (Ariel Ramirez)
3. Capullito (Rafael Hernandez)
4. Volver (Carlos Gardel)
5. Graciasa Lavida (Violeta Parra)
6. Chega de Saudade (Antonio Carlos Jobim)
7. En La Orilla del Mundo (Martin Rojaz)
All Arrangements by
Edward Simon
メンバー:
Edward Simon(p), Joe Maritin(b), Adam Cruz(ds)
タグ : ジャズ・ピアノ
掲載: 2016年07月14日 17:56