イリーナ・メジューエワがライヴでショパンのノクターン全曲を再録音
2010年度レコード・アカデミー賞(器楽曲部門)に輝いた前回録音から七年の歳月を経て、メジューエワがショパン:ノクターン全曲を再録音。2016年6月の東京リサイタルのライヴ録音となる今回は、神戸から1925年製のニューヨーク・スタインウェイを運んで使用。繊細かつ強靭なサウンドと圧倒的なダイナミクスを併せ持つ名器スタインウェイCD-135とメジューエワの薫り高いピアニズムは類稀なる調和を生み出し、ショパンの詩情の結晶ともいうべきノクターンの宇宙を見事に再創造しました。満席の聴衆を魅了した記念碑的ライヴをじっくりとお楽しみください。
(若林工房)
今から20年ほど昔のインタビューで、巨匠指揮者スクロヴァチェフスキは、「ひとたび世に出た自分のレコードは聴くことがない」と語っていました。ラジオで流れていたシューベルトのグレート・シンフォニーを「そこは違う!」、「それでは拙い!」などと不満たらたらで聴いていたら終了後に、演奏者として告げられたのが自分の名前だったことにショックを受けたためだとか。また、ある女流ピアニストは、3日間を費やしたレコーディングをようやく終えた帰京のクルマ中で、「やっぱり録りなおしたい・・・」とボソリと呟いたとか。アーティストにとっての演奏行為とは、たとえそれがどんなに素晴らしい出来栄えであったとしても、常に終わってしまっている過去の出来事に過ぎないことなのでしょう。そこにはいつも反省があり、次のチャンスに向かっての葛藤と努力があるはずです。だからこそ、素晴らしいアーティストに巡り合って、その演奏と一生つき合ってゆくのは、音楽ファン冥利に尽きる僥倖となるのでしょう。
2010年にショパンの夜想曲全集でレコード・アカデミー賞を受賞したメジューエワが、早くもその再録音を敢行しました。しかも東京文化会館の小ホールで行なったリサイタルのライヴ録音で!
いつものように譜面台に楽譜をのせて、彼女はまるで子供に読み聞かせをするかのように、丁寧にショパンの音を紡ぎ出してゆきます。ショパンの人生の道行きとともに、その音楽が深まってゆくのが、じんわりと会場に伝わっていって、音楽そのものが静寂に変わってゆくような不思議な感覚。あのリヒテルの演奏会を思い出さずにはいられなかった、というのが会場にいた筆者の正直な感想です。華やかな技巧と強靭なタッチで聴衆を唸らせ、会場を興奮の坩堝と化すようなタイプの演奏会とは、まるで正反対にあるメジューエワの音楽がこのCDにも、いっぱい込められています。
アンコールとして演奏されたエチュードとプレリュードが、1曲ずつ収録されているのも嬉しい限り。オールド・ニューヨーク・スタインウェイの深く艶やか音色をみごとに響かせる東京文化会館小ホールならではの音響とともにお楽しみください。
(タワーレコード)
【収録曲目】
ショパン
[disc 1]
ノクターン嬰ハ短調(遺作)
3つのノクターン 作品9
3つのノクターン 作品15
2つのノクターン 作品27
2つのノクターン 作品32
[disc 2]
ノクターンハ短調(遺作)
2つのノクターン 作品37
2つのノクターン 作品48
2つのノクターン 作品55
2つのノクターン 作品62
ノクターンホ短調 作品72-1
3つの新練習曲(遺作)より第1番 ヘ短調
プレリュード ホ短調 作品28-4
プレリュード 嬰ヘ短調 作品28-8(ボーナストラック)
【演奏】
イリーナ・メジューエワ(ピアノ–1925年製ニューヨーク・スタインウェイ)
【録音】
2016年6月18日、東京文化会館・小ホールにおけるライヴ録音
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2016年09月05日 23:40