D.オイストラフ門下、スロヴェニアの知られざる名手デヤン・ブラヴニチャル80歳記念CD5タイトル!
若き日のブラヴニチャルと師D.オイストラフ
20世紀後半のスロヴェニアを代表するヴァイオリニスト、デヤン・ブラヴニチャル(Dejan Bravničar, 1937―)の録音がRTV SLOから一挙にCD5枚登場しました。2017年10月1日の彼の80歳の誕生日を記念したリリースとのことです。
デヤン・ブラヴニチャルは作曲家の父と舞踏家の母のもと、リュブリャナで生まれました。生地の音楽院で学んだ後、1957年にモスクワのチャイコフスキー音楽院に留学し4年間ダヴィド・オイストラフに学び、その後、ローマの聖チェリーチア音楽院でピーナ・カルミレッリに1年間師事し、総仕上げを行いました。
1960年代から90年代にかけて、イギリス、フランス、オランダ、オーストリア、スイス、ブルガリア、ハンガリー、ポーランドなど東西ヨーロッパを中心に演奏活動を行い、クレツキ、ザンデルリンク、コンドラシン、ゼッキ、マルティノン、ムーティなどの名指揮者と共演しました。協奏曲のレパートリーは古典から現代スロヴェニアの作品まで、40曲ももっていました。1967年からは母校リュブリャナ音楽院のヴァイオリン科の教授となり、1993年から2001年までは学長を務めました。
ブラヴニチャルのヴァイオリンは、陰影の深い濃厚な音色を駆使して、拍節のしっかりした、スケールの大きな造形に特徴があり、ロマン派作品では更に個性的な節回しが加わり、実に味わい深い演奏を聴かせてくれます。協奏曲演奏は何れも力強い技巧と千変万化する音色により堂々たる風格を示し、聴き応え十分の演奏が展開されています。5枚目のモーツァルトとベートーヴェンのソナタでは、細部まで楽曲を掘り下げた確信に満ちた表現に深い楽曲研究の跡がうかがえます。ストラヴィンスキーのイタリア組曲は、この作品の古典的造形を力強く打ち出した見事な演奏です。
いずれも放送用のスタジオ録音を音源としていて、録音年代はまちまちですが、総じて鮮明で落ち着いた音で捉えられていて、ブラヴニチャルの演奏の特質を十全に伝えてくれます。
(タワーレコード商品本部 板倉重雄)
第1集
【曲目】
(1)チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35
(2)バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番 Sz.112
【演奏】
(1)サモ・フバド(指揮)
リュブリャナ放送交響楽団
(2)ボゴ・レスコヴィチ(指揮)
スロヴェニア・フィルハーモニー管弦楽団
【録音】
(1)1966年9月21日、(2)1978年
全てステレオ、76'04
デヤン・ブラヴニチャル集の第1集。チャイコフスキーはまだ20代の頃の若々しい演奏。オイストラフ直伝の演奏といえるが、既にブラヴニチャルの個性は良 く出ている。バルトークは40代に入ってからの充実した演奏。スロヴェニアはハンガリーの隣国で、バルトークの人気も高い。
第2集
【曲目】
(1)ラロ:スペイン交響曲 ニ短調 Op.21
(2)シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 Op.47
(3)ラヴェル:ツィガーヌ
【演奏】
(1)ウロシュ・ラヨヴィッチ(指揮)
スロヴェニア・フィルハーモニー管弦楽団
(2)(3)サモ・フバド(指揮)
リュブリャナ放送交響楽団
【録音】
(1)1980年、(2)1980年(ライヴ録音)、全てステレオ、74'44
デヤン・ブラヴニチャル集の第2集。いずれも1980年、デヤン・ブラヴニチャルが43歳頃の充実した演奏。モスクワで学んだブラヴニチャルだが、その後 ローマの聖チェチーリア音楽院で、イ・ムジチでの活躍でも知られるピーナ・カルミレッリにも学んでおり、ロシア系のヴァイオリニストとは異なった音色の明るさを持っている。ラロやラヴェルではそれが生きている。シベリウスはかなり元気のある演奏。
第3集
【曲目】
(1)モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 K219 「トルコ風」
(2)ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77
【演奏】
(1)サモ・フバド(指揮)
(2)アントン・ナヌート(指揮)
(1)(2)リュブリャナ放送交響楽団
【録音】
(1)1976年、(2)1984年、全てステレオ、70'38
デヤン・ブラヴニチャル集の第3集。モーツァルトのトルコ風協奏曲はブラヴニチャルの美質が遺憾なく発揮された名演。持ち前の美音をたっぷり披露しつなが らモーツァルトの音楽をいつくしむように扱い、安心感の大きい音楽に仕立てている。ブラームスは2017年に惜しまれつつ亡くなった、日本でも人気の高い スロヴェニアの名指揮者アントン・ナヌート(1932-2017)が伴奏指揮。やや遅めのテンポによる悠然とした演奏。
第4集
【曲目】
(1)ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 Op.26
(2)メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64
(3)ストラヴィンスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
【演奏】
(1)サモ・フバド(指揮)
(2)ウロシュ・プレヴォルシェク(指揮)
(1)(2)リュブリャナ放送交響楽団
(3)エドガー・ドヌー(指揮)スロヴェニア・フィルハーモニー管弦楽団
【録音】
(1)1969年ステレオ、(2)1964年モノラル、(3)1968年ステレオ、74'13
デヤン・ブラヴニチャル集の第4集。いずれもブラヴニチャルが20代の若い頃の録音。27歳頃のメンデルスゾーンは彼の美音と丁寧な音楽作りが作品とピタ リと合っている。ブルッフもやや古典派よりに演奏したような端整な演奏。ストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲はストラヴィンスキーが南仏ニースに居住 していた時期の新古典主義作品で、ブラヴニチャルの演奏もモダンなパリというより風光明媚なニースという趣。ベルギー放送フィルハーモニー管弦楽団を長年 率いたベルギーの名匠、エドガー・ドヌーが伴奏指揮。
第5集
【曲目】
(1)バッハ:無伴奏パルティータ第2番 ニ短調 BWV1004―シャコンヌ
(2)モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第40番 変ロ長調 K.454
(3)ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第1番 ニ長調 Op.12-1
(4)ストラヴィンスキー:イタリア組曲
【演奏】
(2)(4)アツィ・ベルトンチェリ(ピアノ)
(3)マリヤン・リポヴシェク(ピアノ))
【録音】
(1)1999年ステレオ、(2)1992年ステレオ、(3)1964年モノラル、(4)1979年ステレオ 75'26
デヤン・ブラヴニチャル集の第5集。20代から60代までの様々な録音が集められている。1964年のベートーヴェンでは瑞々しい音色がたいへんに魅力 的。一方その28年後のモーツァルトでは、音楽にふっくらとした味わいが芯まで染み込んでいてまさに名匠の芸。悠然と風格を漂わせるバッハのシャコンヌ、 極めて古典的な演奏のストラヴィンスキーのイタリア組曲も優れもの。
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2018年01月22日 00:00