現代最高峰のドラマー、アントニオ・サンチェス(Antonio Sanchez)とドイツの名門WDR
PHOTOS by Elisa Caldana
チック・コリア、ゲイリー・バートン、パット・メセニーといった巨匠のバンドにおいて代替不要の存在感を放つのはもちろんのこと、自らの活動の核となるグループ、マイグレーションでの演奏、映画音楽、また『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』をきっかけにしてのCM音楽や、ソロ作まで、アントニオ・サンチェスは、全ての演奏で才能のほとばしりを感じさせますが、ビッグ・バンドとのコラボレーションは初めて。待望の作品の登場です。
しかも、サンチェスと共演するWDRビッグ・バンドのアレンジ、コンダクトを手がけるのは、鬼才ヴィンス・メンドゥーサ!
WDRビッグ・バンドと言えば、ギル・エヴァンスや、ビル・ホルマン、メル・ルイスといったビッグ・バンド界を代表するスター・プレイヤーとの共演で知られる他、ブレッカー・ブラザーズとのファンクなコラボあり、ジム・ベアードとのポップなコンテンポラリー・サウンドあり、ジャズという範疇の中でも幅広い演奏をみせてくれていることで知られていますが、その中でも、際立っているのが、ヴィンス・メンドゥーサのディレクションによるもの。本作は、サンチェスと、メンドゥーサの才気が化学反応を見せ、炸裂します!
一言でいえば、繊細で緻密、かつ即興的なダイナミズムもあふれる壮大な演奏!演奏するのは、全て、アントニオ・サンチェスの楽曲。元々サンチェスの楽曲は、演奏するアーティストの性格やスタイルを意識して作曲されており、メロディ、ハーモニー、リズムという基本要素に加えて、音色や音の強弱に至るまで、ある程度の計算も元に描かれているようですが、ここでは、その楽曲のエッセンスを、メンドゥーサがとらえて、ビッグ・バンドに見事アレンジして表現しつくします。
特に圧巻なのは、作品『メリディアン・スィート』の楽曲をビッグ・バンドで演奏している2 枚目部分。『メリディアン・スィート』は、文字通り、サンチェスが描いた壮大な組曲。この曲はもともと5つのパートが有機的につながり一つの物語をなしていきますが、ここでは、前半3 つのパートを完全にビッグバンドにリアレンジして演奏。オリジナルではピアノのイントロに導かれ、サックスとギターを組み合わせて表現していたミニマルなフレーズを、いくつかのホーンズ・パートを絡み合わせて表現するところなど、迫力とスリルがあふれます。もちろん、そのビッグ・バンドを鼓舞するようなサンチェスのドラミングも聴きものなら、メンバー一糸乱れぬ演奏を見せ、また、フィーチャーされるソロ奏者のアドリブ演奏も聴きごたえがあります。
一プレイヤー、一アレンジャーという域を越えて、音楽家として最高の実力とセンスをもったアントニオ・サンチェスと、ヴィンス・メンドゥーサ、そして、パーマネントに活動し、各メンバーがしっかりした実力をもつWDR ビッグ・バンド。全てが絡み合って生み出された演奏!21世紀の創造力を感じさせてくれる大作です!
PHOTOS by Elisa Caldana
掲載: 2018年03月07日 18:54