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アントニオ・サンチェス(Antonio Sanchez)、最新アルバム『Lines In The Sand』

Antonio Sanchez

PHOTOS by Justin Bettman

 

2017年秋にはソロ作『バッド・オンブレ』、本2018年春にはヴィンス・メンドゥーサがコンダクターを手がけるWDR ビッグ・バンドとの共演作『チャンネルズ・オブ・エナジー』をリリース。一年一枚以上のペースは、パット・メセニー・グループでのツアー・スケジュールなども考えれば、超ハイペースの作品リリース。しかし、そのクォリティはどれも、高水準。創造力がみなぎります。

本作は、自らの活動の核となるマイグレーション(Migration) での一作。このグループの前作は2015年の『メリディアン・スイート』で、5つのパートが有機的に連なる壮大な組曲となっていましたが、本作も、20 分を越える長大な楽曲2 トラックを含む作品になっています。

しかし、作品のテーマとしては、『バッド・オンブレ』の延長線上となる/ 性格をもった一作。『バッド・オンブレ』とは、2016 年のアメリカ合衆国の大統領選挙において、自分たちメキシコに生まれ住んだ人々を呼んだ乱暴な言葉に怒りを感じ、痛烈な皮肉を込めたソロ作品でしたが、本作は、その主張をバンド形式の音楽で投げかけたもの。冒頭から、聴こえるのはパトカーのサイレンに、“This is Wrong”“ Shame on You” といった人々の不穏な声。泣き声も混じるそのイントロからは、殺気立った空気があふれ、サンチェスの強い切迫感があふれます。

一人のドラマーとしてのみならず、コンポーザー、アレンジャーほか、トータルに音楽を構築出来る現代屈指の音楽家であるサンチェスらしく、今回も楽曲は全て自らのペンによるもの。ミニマル的な音楽モチーフなども組み上げ、緻密なこだわりも十二分にみせながら、トータルに音楽を構築して行くところは、サンチェスの音楽の真骨頂。しかし、この音楽にはまぎれもない、焦燥感を含め、何かに駆られる音楽家の表現があふれ出ています。

グループは、ジョン・エスクリート、マット・ブリューワーに加えて、サックスに、現在30 歳のチェイス・ベアードが加入。サンチェスはかつてより、“自分のグループでは、骨太の重量のあるサックスを求めている”、と語っていましたが、シェイマス・ブレイクに代わって( ポスト・マイケル・ブレッカーとも言われ)EWI も操るベアードは、20分に及ぶM2“Travesia”のラストで豪快なブローを披露。加入の理由も納得のソロを聴かせます。また、サンチェスの公私に渡ったパートナー、タナ・アレクサのヴォイスも健在。グループの中にさらに緊密に絡むヴォイス・パフォーマンスを聴かせてくれます。

作品のライナーノーツは、今回もサンチェス自身が執筆。そこにも、現在のアメリカ合衆国への憂いと、自らの強烈な思いがあふれます。自ら、移住者として、メキシコ人として、アメリカ人として誇りを持ち続けながら、吐露した6編の音楽。2018 年の今(2018年5 月録音)が生んだまぎれもない問題作です。

日本盤仕様:日本語帯、解説付

 

【収録曲】
1. Travesía Intro (1:23)
2. Travesía (Part I - Part II - Part III) (20:08)
3. Long Road (6:57)
4. Bad Hombres Y Mujeres (8:43)
5. Home (6:17)
6. Lines In The Sand (Part I - Part II) (26:15)
All compositions by Antonio Sanchez - Lyrics on “Home” by Thana Alexa

【メンバー】
Antonio Sanchez(ds, voice, additional keys), John Escreet(p, fender rhodes, prophet synth), Matt Brewer(b, el-b),
Thana Alexa(voice, effects), Chase Baird(ts, EWI)
Nathan Shram(viola on Travesía Part II), Elad Kabilio(cello on Travesía Part II and Long Road)

掲載: 2018年10月31日 18:10