ムジカ・アンティクヮ・ケルン全盛期の名演!ピエートロ・トルリの“オラトリオ「現世のむなしさ」”
アレッサンドロ・スカルラッティやカンプラなどと同じ頃、つまりヴィヴァルディやバッハよりも一世代上に属するピエートロ・トルリは、ミュンヘンとブリュッセルで覇権を誇ったバイエルン選帝侯の宮廷作曲家として大いに活躍したイタリア人作曲家。基本的に、このトルリの作品で現代蘇演されたものはことごとく名作……といってもよいくらい、1700年前後のイタリア音楽の粋をあつめた旋律美とダイナミズム豊かな音楽ばかりを綴った天才でもあります。
南ネーデルラント〈のちのベルギー〉の音楽は17世紀末頃から、リュリの系譜をひくフランス音楽と、イタリアから来た音楽家たちが根づかせつつあったイタリア音楽とがせめぎあい、独特の発展をみせていました。その渦中にあって、同時代のイタリア人フィオッコとともにイタリア音楽の魅力を同地に根付かせたトルリの、1706年初演のオラトリオ『現世のむなしさ』は受難節を彩った端正な充実作。
オーボエひとつと弦楽器・通奏低音だけの器楽伴奏と数少ない歌手による室内編成で奏でられるのは、フランスの「ルソン・ド・テネブル」と同じく豪奢なことが許されない時期のために書かれた音楽だから。
しかし本盤は1988年の記念碑的放送録音で、全盛期のムジカ・アンティクヮ・ケルンと名古楽歌手たちが居並ぶ演奏陣の豪華さは圧巻!古楽器アンサンブルの機微を知り尽くしたうえでの「攻め」にあふれたスリリングな演奏で知られたグループが、その後それぞれのアンサンブルを結成することになる名手ぞろいの時期に刻んだ録音というのはまったく見逃せません。
バルバラ・シュリックやディレク・リー・レイギンら、バロックオペラ復興の立役者となってきたレジェンド級歌手たちの絶美の演奏表現にも着目したいところ。
ブリュッセル音楽界が1700年前後にどれほどエキサイティングだったかも含め、解説(国内盤には日本語訳付)の充実度もありがたいところです。
(ナクソス・ジャパン)
【曲目】
ピエートロ・トルリ(1660頃~1737):
オラトリオ『現世のむなしさ』~2部のオラトリオ
【演奏】
バルバラ・シュリック(ソプラノ)
イングリット・シュミットヒューゼン(ソプラノ)
ディレク・リー・レイギン(カウンターテナー)
ロジャーズ・カヴィー=クランプ(テノール)
ミヒャエル・ショッパー(バス)
ムジカ・アンティクヮ・ケルン(古楽器使用)
[アリスン・ギャングラー(オーボエ)
ラインハルト・ゲーベル(ヴァイオリン、指揮)
マンフレード・クレメル(ヴァイオリン、ヴィオラ)
フローリアン・ドイター(ヴァイオリン、ヴィオラ (ヴィオレッタ))
フィービー・カライ(チェロ)
ビビアーヌ・ラポワント(チェンバロ)
ティエリー・メーデル(ポジティヴ・オルガン)]
【録音】
1988年7月、フリブール(スイス)、サン=ミシェル教会
日本語解説付き
解説日本語訳、補筆、あらすじ…白沢達生
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2018年11月06日 00:00