WEEKEND JAZZ ~週末ジャズ名盤探訪 Vol.21
ウォルター・ビショップ・Jr『スピーク・ロウ』(1961)
ウォルター・ビショップ・Jr(p)
ジミー・ギャリソン(b)
G.T.ホーガン(ds)
1961年3月14日 ニューヨークにて録音
曲目(オリジナル・アルバム通りの表記です):
1.サムタイムズ・アイム・ハッピー
2.ブルース・イン・クロ―ゼット
3.オン・グリーン・ドルフィン・ストリート
4.アローン・トゥゲザー
5.マイルストーンズ
6.スピーク・ロウ
【アルバム紹介】
1.昔から通ウケするウォルター・ビショップ・Jrの名盤
2.地味な存在ゆえに光るいぶし銀のプレイ
3.タイトル曲は名演、他も名スタンダードぞろいのピアノ・トリオ作
前回紹介しましたソニー・ロリンズの傑作『サキソフォン・コロッサス』の4曲目に、クルト・ワイル作曲の『三文オペラ』の中の名曲“マック・ザ・ナイフ”のカヴァー(原曲名の“モリタート”で表記)がありました。そのクルト・ワイルには、もう一つ“スピーク・ロウ”という名曲があります。自身のリーダー作にこの曲名を冠し、それがジャズ史に残る名盤として知られているのがピアニストのウォルター・ビショップ・Jrです。
本作はビバップ全盛期にチャーリー・パーカー、マイルス・デイヴィスらと共演経験もあるウォルター・ビショップ・Jrの初リーダー・アルバムで、レーベルはジャズタイムという超マイナー・レーベルからの逸品ということもあり、昔から通ウケする名盤として知られているものです。
実はこのジャズタイム(のちにはジャズラインと名を変える)というレーベルは、リリースしたアルバム枚数がたった5枚(+未発表2枚)という希少レーベルでオリジナル盤が高額で取引されていることでも有名であり、それがマニア心をつかんで離さない理由です。本作はそんな中の1枚なのです。
ここで聴かれるビショップのプレイは、スインギーながらもスマートなスタイルとは違い、どこかゴツッとしたピアノが特徴といえます。その演奏を聴くと、リーダー作で自身をアピールするより、誰かのバックをサポートするタイプに思えますが、一見地味な存在ながら、ここで聴かせているいぶし銀のプレイが多くの人を引き付けてやまない理由です。
本作はジャケットも60年代ジャズの雰囲気タップリなのが人気の秘密ですが、収録曲はスタンダード名曲ぞろいで、タイトル曲は同曲の名演であり、ラテン風のビートにのってテーマ・メロディが奏でられます。ソロに入るとスインギーなビートをバックにビバッパーとしての本領発揮、次々と素晴らしいフレーズを繰り出してゆきます。ベースはコルトレーン・カルテットのジミー・ギャリソンというのも注目です。そのベース・ソロの後の高音域でのピアノのリズミカルなリフが繰り返されるアプローチは非常に印象に残ります。
【スタッフのつぶやき:この1曲を必ず聴いて下さい】
男は黙って“スピーク・ロウ”。
店頭や本での名盤紹介の中で、プレスティッジやブルーノートのような有名レーベルの名盤の中に混じって、本作のようなマイナー・レーベルの秀作がポツンとあるとどこか気になるものです。このアルバムはそんな“外せない”“ほっておけない”魅力が人気の秘密といえる一枚でもあります。
タイトル曲の“スピーク・ロウ”はキー・トラックであり、実に9分以上に及ぶ、ある意味力演の域にある名演といえます。
ウォルター・ビショップ・Jrは1998年に70歳で没しておりますが、1993年に、日本のヴィーナス・レコードに『スピーク・ロウ・アゲイン』というリーダー作をレコーディングしており、生涯を通じてこの曲が重要なレパートリーであったことを伝えています。この曲のアレンジは全然違っておりますので、聴き比べすると面白いです。
ジャンルは全然違いますが、おなじ“スピーク・ロウ”というタイトルのアルバムがあります。
そのひとつ、ボズ・スキャッグスの2008年のアルバムで、これはその5年前にリリースしたジャズ・スタンダード・カヴァー作『バット・ビューティフル』の続編になっております。アレンジとピアノはギル・ゴールドスタイン。ボズのAORテイストにジャズのフレイヴァーがブレンドされたいいカヴァーになっています(残念ながら今は廃盤)。
もうひとつは日本のシンガーソングライター、南佳孝の1979年のアルバム。全曲オリジナルで、この曲をカヴァーしているわけではありませんが、本作は今ではシティポップの傑作として名高いものになっております。当時は“ジャズっぽさ”を漂わせるキーワードとしてアルバム・タイトルに冠したのでは、と想像できますが、そういう使い方がなんともカッコいいと感じさせる一作です。
HQCD国内盤(一般普及盤)
タグ : WEEKEND JAZZ
掲載: 2019年04月05日 10:00