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KERA(ケラ)、多彩なゲストを迎え制作された約3年ぶりのソロ・アルバム『LANDSCAPE』5月8日発売。最新インタビュー公開!旧譜キャンペーンも開催中!

KERA

KERA、約3年半ぶりのソロアルバムが完成。
「1920~30年代のクラシカルなジャズの彼流の解釈」というコンセプトは前作『Brown,White&Black』から引き継がれたものだが、ビッグバンド編成の曲がグッと増えており、今の彼にしかなし得ない、懐かしくも新しい世界がゴージャスに繰り広げられている。
参加ミュージシャンも多彩。まずは伏見蛍(ギター)、ヒカシューの坂出雅海(ベース)、佐藤真也(ピアノ及びキーボード)らお馴染みのメンバー。
ホーンセクションにはTRI4TH(トライフォース)から織田祐亮(トランペット)と藤田淳之介(サックス)、くるりからファンファン(トランペット)、近年KERAのソロ活動をサポートしてきた湯浅佳代子(トロンボーン)、ハラナツコ(サックス)、時々自動の鈴木光介(トランペット)、ロング・バケーション時代からの盟友である上石統ら、超豪華メンバー。さらに、ともさかりえ、犬山イヌコ、峯村リエ(以上コーラス)、緒川たまき(ウクレレ、作詞)ら、KERAの演劇活動を支え続けてきた女優陣が参加。
特筆すべきは、かつてロング・バケーションで長くKERAと共に活動した中野テルヲが『キネマ・ブラボー』で楽曲提供していることだ。ライブでのゲスト共演を除けば、約25年ぶりのコラボとなる。

CD(紙ジャケット仕様)

01. cheek to cheek(W&M:Irving Berlin)
02. 木の歌(W:緒川たまき、KERA /M:鈴木光介)
03. ビバップ・バトン・ビバップ(W:KERA/M:KERA、伏見蛍)
04. ケイト(W&M:KERA)
05. stardust(W:Mitchell Parish/M:Hoagy Carmichael)
06. キネマ・ブラボー(W:KERA/M:中野テルヲ)
07. 食神鬼(W:KERA/M:KERA、鈴木光介)
08. B-BLUE(W:氷室京介/M:布袋寅泰)
09. じんじろげ(W:渡舟人 /M:中村八大)
10. シリーウォーカー(W&M:KERA)
11. サンキュー(W&M:KERA)
12. 見上げてごらん夜の星を(W:永六輔/M:いずみたく)
13. LANDSCAPE SKA(W&M:KERA)

LP2枚組(ゲートフォールド・ジャケット)

SIDE-A
1 Stardust(W:Mitchell Parish/M:Hoagy Carmichael)
2 ケイト(W&M:KERA)
3 サンキュー(W&M:KERA)
4 キネマ・ブラボー(W:KERA/M:中野テルヲ)
SIDE-B
1 cheek to cheek(Take2)(W&M:Irving Berlin)
2 じんじろげ(LONG VERSION)(W:渡舟人 /M:中村八大)
3 見上げてごらん夜の星を(W:永六輔/M:いずみたく)
4 LANDSCAPE SKA(W&M:KERA)
SIDE-C
1 木の歌(W:緒川たまき、KERA /M:鈴木光介)
2 ビバップ・バトン・ビバップ(W:KERA/M:KERA、伏見蛍)
3 B・BLUE(W:氷室京介/M:布袋寅泰)
4 シリーウォーカー(W&M:KERA)
SIDE-D
1 アンパンとジャズ※(W&M:KERA)
2 食神鬼(W:KERA/M:KERA、鈴木光介)
3 夢で逢いましょう※(W:永六輔/M:中村八大)
4 ベルリンレゲエ※(W&M:KERA)
5 サニー・グッジ・ストリート※(W&M:Donovan)
※アナログ盤のみ収録曲

アルバム『LANDSCAPE』発売記念!KERAインタビュー公開中

圧巻だ。ケラ&ザ・シンセサイザーズ、有頂天、鈴木慶一とのユニットであるNo Lie-Sense、そしてソロ。多種多様な才能の引き出しを開け、演劇はもとより音楽においてもポテンシャルの高い創作活動を楽しませてくれるKERAが、また素晴らしい作品を完成させた。『LANDSCAPE』と題された新作は、『Brown, White & Black』(2018年)に続く、約3年半ぶりのソロ・アルバム。前作は「ジャズ・ミュージシャンである父親に聴かせたかったアルバム」という長年の構想を実現させた意義深い作品であったが、今作はビッグバンド・ジャズ・スタイルの演奏を主軸にKERA自身の人生を回想した作品となっている。ジャケットに使用された幼少時代の写真。KERAの目には一体どのような風景が映っていたのか。KERAに話を聞いた。


――前作『Brown,White & Black』でKERAさんはスウィングからクレズマーまで、ジャズの色々なスタイルを試みていました。でも今回はビッグバンド・ジャズ・スタイルの曲が目立っていますね。

「前作のほうがヴァラエティに富んだことをやろうとしていました。僕が好きなニューウェイヴ的な香りもほんのりと漂っていた。でも今回は、ニューウェイヴであろうとすることは自分の中できれいに拭い去られています。それも意図したものというよりは、自然に。昔から自分の演劇では古いジャズを多用してきました。今回は自分の作る演劇作品に近いことを音楽でやっている。自然体でやりたいことをやるっていう時期に来ているんじゃないかな」

――今回も自身の演劇作品で使用した曲がとりあげられていますしね。

「なんか、全部つながっているんですよね。例えば「Cheek to Cheek」であれば、『キネマと恋人』っていう3年前にやった芝居の中で使われていた。まもなく再演するんですけど、この舞台はウディ・アレンが監督した『カイロの紫のバラ』っていう映画の翻案なんですね。で、基になった映画のオープニングが「Cheek to Cheek」。映画の中で「Cheek to Cheek」が歌われているフレッド・アステアの映画『トップ・ハット』が流れるんですよ。こんな風にいろいろなことが連綿とつながってる。もともとはサイレントコメディからの流れですけど、僕は子供の頃から古い映画にすごい興味があった。でもそんなもの一緒に観に行ってくれる人いないから、学校をサボって一人でフィルムセンターとか自主上映の映画館とか名画座に通っていたんです。その頃の自分を「キネマ・ブラボー」って曲で歌にしてるんですけど、一つの話をし始めるとそこから色々なことが連鎖して関連づいていく。決してニューウェイヴやパンクだけじゃなく、さまざまなものが今の自分を形成しているんです」

――KERAさんのセルフポートレート的な作品という全体像はいつ頃見てきたのですか?

「恵比寿にかつてナゴムの事務所になっていた実家があったんです。昔の「宝島」の広告とか見るとそこの住所と電話番号が書いてある。最初は家族4人で住んでいた。それからお袋が出ていき、おばあちゃんが死に、親父が入院し、結局僕一人になった。引っ越したばかりの頃にはケイトって犬もいました。その犬のことを歌った曲も今回のアルバムに収録されてます。で、有頂天でデビューした頃に僕もその家を出て、それから30年以上ずっと空き家の幽霊屋敷みたいになっていた。すごい細い私道を入った奥にあったから、今の建築基準法では改築しかできない。取り壊して新築ができないというややこしい問題があって、ずっと放置せざるをえなかったんです」

――家の名義はKERAさんになっていたんですか?

「うん、父から相続したので。狭くてボロっちい木造の家ですけどね。俳優の知り合いが不動産屋だったりすると聞いてみたりとかしたんですけど、やっぱり二束三文でしか売れないみたいな。それがたまたま隣の人が買ってくれることになって、幾ばくかのお金も残ることになった。そのお金で今回アナログ盤を作るんですけど(笑)。そんなんばっか(笑)。たまのレコードが売れたら、その売り上げで親父の墓を建てたりとか。まあともかく、そうした経緯があって、家から物を引き払わなきゃいけなくなった。それで去年の夏は暑かったから、涼しくなってから引き取りますって言って。楽しかったけど苦しかった台本書きと稽古が終わって、いざそこに取りにいかなきゃいけなくなると、恐いんだよね。誰にも着られることなく、着られることを待っている服と対面するとかね。最後に髭を剃った髭剃りがまだ洗面台に残ってるとか、そういうことすべてが怖いんですよ。何十年もの時を経て物たちと対面することが。で、家の中がどうなってるかも分からない。20代の頃は何度か物を取りに出入りしたことはあったんですけどね。元々は外国人の家族用に作られた家なのね。建てられたのは昭和30年代の終わりだから相当古い。とても狭い部屋が1階と2階に一部屋ずつあって、外階段なんです。不在の間に、その外階段に猫がいっぱい住み着いてたり、色々なことがあったの。木のドアだから暑さや寒さでゆがんで開かなくなっちゃって、カギを何度も作り直したりとかして。でも今回ばかりは行かなきゃいけないから、とうとう行ったんですよ。そしたらもう、テレビに出てくるゴミ屋敷みたいな状態になってて。空き巣が入ったか、誰かが住んでたか、金目のものはほぼないのね。切手のシートとかあってそこそこの金になったはずなんだけど、そういうものは一切なくなっていて。散乱したものが堆積していたから、分別する気力もなくて、写真のアルバム以外は全部諦めたんです。それまで僕の手元には、子供の頃に父親と一緒に撮った数枚の写真があっただけで、おりにふれ「子供の頃の写真ありませんか?」って請求されても毎度同じ写真しか提供できなかったんです。というわけでアルバムを5冊ぐらい引き上げて」

――そのアルバムの写真が作品全体の方向性を決めていくことになったわけですね。

「オケ録りがほぼ終わって、何曲もボーカルも録り終えてはいましたけど、どれもカバー曲でした。歌詞が書き出せなかったんです。アルバムの全体像が見つけられなくて。とは言え、そろそろオリジナルの歌を入れなきゃいけない。歌詞を書かなきゃいけない。でもトータル・コンセプトはクッキリしていない。どうしよう?って時期になった時にその写真たちと、幼き日の自分たちと再会することになった。50年以上前の自分を眺めているうちに、一回ぐらい文字じゃなくて音で回想録を作ってみるのも面白いんじゃないかなと思って…。そんなわけでこのように非常にパーソナルな、セルフポートレート的なアルバムができることになったんです。それまでは演奏してる人たちから「これ一体どんな歌詞がのるんですか?」って聞かれても、「皆目分からない」って答えていて。それが突然、トータルな色合いを帯びた。僕、喘息で寝たきりだった印象しかなくて。親も医者から「諦めろ」って言われたぐらい虚弱な幼少期だったんです、5歳まで。だから写真見てビックリしたんですよ。どの写真もすごく楽しそうで、生き生きとしていた。二日寝込んで一日元気になってみたいな、そういう元気な時に写真を撮られているんだと思うんですけど、うらやましくなるくらい、楽しそうなんですよね。そのことがとても印象深かった。これが暗い顔して喘息で寝てる写真ばっかりだったら、アルバムのコンセプトにつながることもなかっただろうし、ましてやジャケ写に使おうなんてことも思うはずがなかった(笑)」

――『LANDSCAPE』というアルバム・タイトルはいつ頃に?

「タイトルは最後のほうに。『LANDSCAPE』って僕らしくないんですけど。平沢(進)さんの(ユニットの)旬のアルバムに『LANDSCAPES』ってのがあったよね。後で気づいたんですけど(笑)」

――今回、中野テルヲさんが「キネマ・ブラボー」という曲を作曲されているのも嬉しかったです。中野さんに曲を書いてくださいという依頼をしたのはいつ頃ですか?

「比較的早かったです。打診したのは昨年の5月か6月くらいかな。8月か9月くらいには曲ができてましたね。それをロンバケ(ロング・バケーション)のホーン隊のリーダーだった上石(統)君に「オールド・ジャズ・スタイルに編曲してほしい」と頼んで。だから(中野君のデモとは)全然リズムも違う。コードも少し変えてるメロディだけ同じ。イントロも中野君から届いたデモには無かったものです」

――中野さんの曲だからもっとテクノ・ジャズっぽいアレンジにするのかと思ったんですが、意外やそうならなかったのは、そういう編曲の注文をされたからなんですね。でもロンバケとつながる感じはすごくあって。

「そうですね。ボーカルとコーラスが入ってラフミックスができあがった時、ちょうど中野君が高円寺HIGHでライブをやってたから届けに行ったんですて。で、ライブが終わった後、「会場のスピーカーででかい音で聴こう」と。「こんなんなるんだ!」ってとても感激してくれて嬉しかっ。中野君は一人で書いてくれたんですけど、今回のアルバムはこれまでになく共作曲が多いですね。ギターの伏見(蛍)君と一緒にとか、鈴木光介君と一緒に書いたりとか。サビだけどっちかが書いてとか、楽しいですね。そういうのあんまりやったことないんだけど」

――ビッグ・バンドの演奏ということで、今回はたくさんのミュージシャンが参加されていますね。

「ホーン・セクションの人達は前作回からのつながりがあったし、ライブも一緒にやったことのある人達が多かったのでやり易かったです。TRI4TH(トライフォース)の織田(祐亮)君と藤田(淳之介)君は前作に参加してもらった時初対面だったんですけど、ツイッターで随分仲良くなって、音楽を聴いて若手のインスト・ジャズの中では相当な注目株なんだなとようやく分かった。トランペットの上石君はさっきも話した通りロンバケ時代にレコーディングやライブでずっと活動を共にしてました。彼が今やっているザ・ショッキングというバンドのメンバーにも参加してもらってる。あと、くるりのファンファンとか中島らもさんの娘さんの中島さなえさんとか、知り合いではあったんです。狭い世界だからなんとなくみんなつながってるんですよね。今回別々の曲で参加してくれてる人も、現場では合わなくても知り合い同士だったり。だから前作よりも柔軟にやりとりできました。でもやっぱりすごいなと思いますけどね。あんな複雑な譜面を初見で弾けたり吹けちゃうわけだから。ロンバケ時代はコーラス多用してましたけど、今回は久し振りにコーラスの人にも来てもらった。だから中野君入れると29人。僕含めるとちょうど30人で。それこそ予算とか考えると明らかにキャパオーバーなんですけど、どうしてもこうしたアルバムを作るには、全曲同じパーソナルで録るみたいなことが無理なんだよね。この日(のオケ録りはスケジュールが)あいてる人で、みたいなことになっちゃうから。そうするとドラムだけ(奏者が)変わったりとか。昔のジャズのレコードって、そうじゃないですか。(曲ごとに)メンバーが書いてあって、大体3テイクとか4テイク録って選んでおわり、みたいな。だから(各曲の)オケの録音はものすごく早いんですけど、トータルでは一年弱かけてレコーディングしてた。ウルトラ・ヴァイヴと杉山(圭一)のスタジオで」

――杉山さんのスタジオでベーシックな打ち込みをして、スタジオで生に差し替えたりという感じですか?

「いえ、基本はすべてウルトラ・ヴァイヴです。アナログに収録される曲とか、ドラムレスの曲だけ杉山のスタジオで。歌まで入れた曲もある。杉山のスタジオで録音した打ち込みのベースをウルトラ・ヴァイヴでウッドベースに差し替えたりとかもしていますね」

――KERAさんの歌入れには時間はかかりましたか?

「今回はアナログ盤もCDも英語の曲で始まるんですね。スタンダード・ナンバーのカバーですよね。CDは「Cheek to Cheek」で、アナログ盤は「Stardust」。「Stardust」は一日かけてかなり苦労して歌ったんですけど、その日家に帰って聴いたら納得いかなくて。全没にして、翌日また歌いなおしました。スタンダードは難しい。ついてくのにやっと。最初に録った方のテイクは全然自分の歌になってなかった。だからと言ってあんまりやり過ぎるとかっこ悪い。そのへんが若い頃との感覚の違いですね。昔はやり過ぎ、ヘッチャラだったんだけど。今はある程度ニュートラルな方が気持ちいいんですよね。「B-BLUE」なんかもサラッと歌ってるし」

――確かに、昔だったらニューウェイヴ的な発想で、歌やアレンジをもっとひねってたかもしれないですよね。

「昔だったら「見上げてごらん夜の星を」みたいなストレートなアレンジにはしなかったですよね、カバー曲は。「夢で逢いましょう」もそうだけど。昔は、例えば「心の旅」だったら、チューリップが歌う「心の旅」とはまったく違う風景を見せたいって願望があったんですよ。当然ながらメロと歌詞はそのままという制約の中で。今回「見上げてごらん夜の星を」とかに関しては、見ている風景は原曲とほぼ一緒ですからね、おそらく。ただ、歌詞の響きが、なんて言うか、こうもっときついところから発せられたかった。これ歌われた頃はまだ戦後の名残があったと思うんです。高度成長期ですからね。希望が世の中を支配していた。でも今はむしろ真逆ですからね、世の中の状況は。楽観的にロマンティックに歌うのは違う。実際とてもきついものを残してしまったまま我々は死んでいくことになると思うんです、未来の子どもたちに対して。AIとか核廃棄物とか、課題山積みどころか今、人類は絶対に足を踏み入れてはならないところに、すでに踏み入ってしまっている。「安全策さえとれば」と言うけど、絶対いつか、そう遠くない未来に、気が狂った奴が出てくるんだから。「ビバップ・バトン・ビバップ」は、過去を眺望する曲が並ぶ中、唯一未来のほうに比重が置かれてる歌なんですけど、それとかも、暗澹たる荷物を子供たちに背負わせたまま、「あとははよろしくね」って去っていくしかない我々をイメージして歌ってるんです」

――ナゴム時代からKERAさんを追いかけてきた人にとっては、「シリーウォーカー」は感慨深い曲だと思います。これはナゴムレコードの盟友たちに捧げた曲ですね。時期が時期なだけにグッときました。

「石塚“BERA”伯広が死んじゃったり、瀧がつかまっちゃったり。当然偶然ですけど。ここで歌われている「歩いて ただ歩いて」っていうのも、(窓の外を指して)そこらへんのことですからね(注:取材場所のウルトラ・ヴァイヴの近くにKERAの実家兼ナゴムの事務所はあった)。家でジャケットにレコード詰めして、多い時はLPが50枚入った紙袋を両手に持って、電車でレコード屋さんに納品に行ったりしてた。ある時は、シングルの入った段ボールを持って恵比寿のウェンディーズへ行き、(待ち合わせしていたカーネーションの)直枝政広さんに「できたよ」って言って「夜の煙突」のシングル盤をゴソッと渡す(笑)。すごく暑い日だったらしくて、僕はあんまり覚えてないんだけど、直枝さんが鮮明に覚えてくれていて。なにかとそれを書いたりしてくれるんですよ。汗だくで来たケラ少年、みたいな(笑)。「夜の煙突」は大好きで、僕は直枝さんに「夜の煙突」じゃなきゃ作らないって言ったから(笑)」

――そういう風にナゴム時代のKERAさんとアナログ盤の関わりを考えると、今回アナログ盤が出るのはすごく嬉しいです。KERAさんのソロ作品はアナログで聴きたかったから。

「そうなんですよ。だからお金ができたら前作もアナログ盤にしようと思ってるんですけど。ジャズはアナログですよね。もちろんCDも買ってもらわなきゃ困るんだけど(笑)」

――KERAさんも家でアナログ盤を聴いたりしますか?

「最近家のアンプもスピーカーも買い替えて、とてもいい環境、いい音でアナログ盤が聴けるようになったんです。あらためて古いレコード盤を買ったり、中古盤屋に行ったりする楽しみが増えました。1枚1枚静電気とほこりをとって針を掃除して、けっこうでかい音で、「今日はB面だけ聴く」とかね。CDで聴くよりも、意識的に音楽を聴く時間を作って楽しむようになる。ナゴムの昔のシングルとかも出して聴いてみたりとか、ミシンの2人がその後にやったTHE GARDENERSのレコードを久しぶりに聴いたりとかして、いいなあ、と思いますね。細野(晴臣)さんの新作『HOCHONO HOUSE』もCDとアナログの両方買ったんですよ。CDもいいんですけど、ある程度テクノ色が強い作品ですら、アナログだとオーガニックに聴こえて深味がある。で、なんだか安心できるんですよね。「ああ、人が演奏してるんだな」って思えて。先入観も大きいのかもしれないですけど、アナログはあらためていいなあと思ってます。」

――今回、CDとアナログ盤ではジャケットも曲順もミックスもそれぞれ異なっていますよね。例えばCDだと「LANDSCAPE SKA」で盛り上がって終わるのに対し、アナログ盤ではB面最後に配置されていて。その後に2枚目(C面とD面)が続く。

「せっかく両方出すならば、聴いた後の印象変えたいなっていう思いがあって。「LANDSCAPE SKA」は(雰囲気が)ライブのエンディングっぽいでしょ?CDはあれで気持ち良く終わるぞって決めてたんですけど、アナログはそうじゃなくしたい。ドノヴァンで終わらせたい。(同曲のカバーがエンディングを飾っていたS-KENの)『ギャング・バスターズ』と同じ。幼き日の音の回想録みたいな意味ではCDのほうがパッケージとしてはコンパクトにまとまっていると思うんですけど、アナログは若干そこからはみでる要素や、そこからにじんだシミみたいなものまで入れてる感じはありますよね」

――とくにアナログのD面は不穏でシュールな空気感が際立っていて。

「D面には子供の時に観た悪夢とかね、そういうイメージもありますね。「夢で逢いましょう」はバラエティーショーのオープニングでしたけど、悲しい気分になる曲じゃないですか。あの曲の後にコントとかやってたんだもんね。渥美清とか黒柳徹子が。「夢で逢いましょう」はPhewもカバー・アルバム『ファイヴ・フィンガー・ディスカウント』でカバーしてますね。今回はビートルズの「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」ほどあからさまではないけど、全編リバースが入っています。これは手練れなミュージシャンが揃ってこそできることですけど、楽譜を全部後ろから演奏してるんです。最後のかき回しっていう“ジャカジャカジャカ”ってところから演奏して、その直前のリット……段々ゆっくりになってくるところを経て、そこから頭まで、全編を後ろからピアノとギターで演奏して、それをひっくり返して通常の演奏にダビングしてるんです。歌は腹から声出さずにささやくように。だから虫の息みたいな(笑)」

――それで奇妙な質感が。

「ちょっと夢のような。で、「サニー・グッジ・ストリート」はドノヴァンがヤクづけだった時に書いた曲だから(笑)。D面に関しては、他のユニットやバンドでやってもありみたいな曲がありますよね。「ベルリン・レゲエ」は例外的にニューウェイヴ的な要素が入ってきているし。D面でCDに入ってるのは「食神鬼」だけなんで。「食神鬼」は、もともとは中近東のジャズみたいな感じで書いて鈴木光介君に渡したら、どう解釈したのか江戸の要素も入ってきた(笑)。それをコーラスの重住ひろこさんに戸川純的な歌唱で歌ってもらったら、得体のしれない凄みをもった無国籍な曲になった。どうやら、倉庫の番人が神様を食っちゃった人を発見して、その人に向かって歌ってる歌なんだよね。演劇的ですよね。江戸時代の不条理劇みたい(笑)」

――これはCD用、これはアナログ用、と最初から分けて曲を作っていたのですか?

「いえ、そうでもない。「夢で逢いましょう」とかは最後まで悩みました。あと1曲「ねじりの法則」っていう、『シャイコナ・ボックス』ってアルバムに入ってた曲があるんですけど、録音して歌まで入れたけどどうにもハマんなくてお蔵にしてます。当初はアナログ18曲、CD14曲のつもりだったんですけど、尺が長くなりすぎちゃったので、「じんじろげ」もフルヴァージョンはアナログだけにして、(CDヴァージョンのほうは)イントロのパートを切って「B-BLUE」とつなげてるんですよね。そのほうがすんなり聴ける。曲間のタイムについても随分悩んだ。「見上げてごらん夜の星を」から「LANDSCAPE SKA」に行く時は余韻を残さずに太鼓のフィルが入ったほうがかっこいいんじゃないか、とか。配信で聴く人にはまったく関係ない話なんだけど(笑)、そういうした部分を考えるのもアルバム作りの大きな楽しみだからね」

――だからこそ、今作はぜひCDとアナログ盤の両方を買って聴き比べてほしいと思います。

「面白いと思うな。曲順が変わって4曲加わることでこんなにも印象が変わるんだっていう。でも考えてみると、構成を練るトレーニングはずっと演劇でやってきてるわけだし、シーンひとつ入れ替えることで全体の印象が変わるなんてことは、演劇を通して散々実感してきたことなんですよね。今回改めて、とくにアナログ盤の構成をA面、B面、C面、D面をそれぞれ第一幕~第四幕みたいな考え方で組んでいく作業に、演劇的な愉楽を感じました。」

――ということは、KERAさんの演劇に親しんでいる人のほうが、むしろアナログ盤の曲順をスンナリ理解できるかもしれないですね。

「かもしれない。長く僕の芝居を見続けてきてくれた人は感じるんじゃないかな。創作法というか、癖みたいなものがある。その癖が個性だったりもするわけで。表方と裏方っていう明確な違いはあるけど、昔よりもお芝居を作るっていうことと音楽を作るっていうことがつながってきてる感じがしますね。ソロアルバムは特に感じる。ここは芝居と同じ心持ちで作っていいんだっていう。それで、それが少しずつなんだけど、受け手にも浸透していってる感があるのね。本当に数人ずつツイッターで広がっていくとかなんだけどさ。でもそういうことってとても大切にしたいですよね。もともとはそこから始まっているわけだからね。ナゴムにしろなんにしろ」

――レコ発のソロライブはどんな感じになりそうですか?

「まず6月16日に小編成のスモール・ユニット編をやります。で、8月25日に20人ぐらいのビッグバンドで。これが正式なレコ発ライブですね。ビッグバンドは緊張するけど、楽しくて気持ちいいいですね6月のスモール・ユニット編は肩慣らし。ギターとピアノだけだったら、どうにでもなるからね。だけど楽しいですよ、それこそジャズのセッションみたいに、その場で臨機応変に対応していくライブってのも。」

――音楽活動としては、この後は何を予定していますか?

「おそらく盤としては、次はNo Lie-Senseを」

――おおーーーー!待ってました!

「僕も待ってました(笑)。慶一さんとのレコーディングはこの上なく刺激的だし、勉強になるし、なにより楽しい。でもきっとリリースは来年ですね。あと、ソロでもう一枚、テクノ系のアルバムを杉山圭一とほぼ二人で作ろうかなって。それも今中身を考えているところです。」

2019年4月 於ウルトラ・ヴァイヴ
インタビュー&構成:小暮秀夫


アルバム発売記念インストアイベント

【日時】2019年6月25日(火) 21:00スタート ご観覧フリー
【場所】タワーレコード新宿店7F イベントスペース
【出演】KERA
【内容】ミニライブ&トーク&サイン会


【イベント対象店舗】
タワーレコード新宿店 、渋谷店、池袋店、横浜ビブレ店
【イベント対象商品】
5/8(水)発売 (CD)『KERA/LANDSCAPE』(CDSOL-1836)
5/15(水)発売 (LP) 『KERA/LANDSCAPE』(NGN-003/004)
【イベント参加方法】
ご予約者優先で対象店舗にて5/8(水)発売『KERA/LANDSCAPE』(CD)、または5/15(水)発売『KERA/LANDSCAPE』(LP)をお買い上げの方に1枚につき先着で「サイン会参加券」1枚を差し上げます。イベント当日、「サイン会参加券」をお持ちのお客様は、ミニライブ終了後のサイン会にご参加いただけますので、必ず商品をご持参ください。
【問い合わせ先】タワーレコード新宿店:03-5360-7811

アルバム『LANDSCAPE』発売記念キャンペーン開催中

キャンペーン特典:対象商品購入のお客様に先着でナゴム・ステッカープレゼント!
※キャンペーン期間:2019年5月7日00:00~
※特典満了次第終了いたします。
※対象商品は、下記の「関連商品」内をご参照ください。

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タグ : J-インディーズ

掲載: 2019年04月19日 17:00

更新: 2019年05月07日 00:00