映画音楽ファン要注目・スペイン発、世界の歴史的名作音源を発信するレーベル、カルテット!
スペインで、ホラー映画のサウンドトラックを中心にスタート、今では、ハリウッド映画から、ニーノ・ロータ、エンニオ・モリコーネなどのイタリアの名サントラ音源などのアーカイヴから、アルベルト・イグレシアスやフェルナンド・ベラスケスといった、今の映画音楽シーンに欠かせないスペイン出身のコンポーザーの新作群まで、幅広い視野で、サウンドトラック・スコア全般を見渡すレーベルにまで成長。今や、世界の映画音楽ファンが動向に注目している。
さて、そんなレーベルの仕事の中から、何点かおすすめをピックアップ。
『8 1/2』サウンドトラック2枚組
音楽 ニーノ・ロータ
スランプに陥っている映画監督の怠惰で華やかな日常と幻想が入り乱れる、フェリーニのコメディ的絢爛豪華退廃美な超大作への、ニーノ・ロータの音楽も、威勢のいいサーカス音楽のようなテーマから「ワルキューレの騎行」の引用から、名作『甘い生活』のフレーズまで、走馬灯もしくは、はや回しのフィルムの如く目まぐるしく、楽しさに逃避するかのごときのメロディ・サウンドの大絵巻。
『黒衣の花嫁』スコア新録音盤
音楽 バーナード・ハーマン
フランソワ・トリュフォーが敬愛するヒッチコック映画のサスペンスにオマージュし、結婚式で夫を射殺され、復讐に燃えるヒロインにジャンヌ・モローを据えての犯罪ドラマ『黒衣の花嫁』。音楽はヒッチコック映画の音楽と言えば、のバーナード・ハーマンが招かれた。サントラのフル音源は未だ音盤化されていないこの名作、この度、フェルナンド・ベラスケスが指揮をとり、ハーマンのスコア新録音に挑んだ。ダイナミックでロマンティックでミステリアス。のちの、ハーマンがデパルマ映画に書いた『愛のメモリー』のロマンティックさも思い出されます。映画音楽スコアの醍醐味を堪能できる一枚。
『La Ragazza Dalle Pelle Di Corallo』
音楽 アドルフォ・ウェイツマン
イタリアのビジネスマンとドミニカの女性との恋物語をエキゾチックに、大人のムードで。音楽はホラーもの、お色気もの多いアドルフォ・ワイツマン。こちらのサントラは、全編優しいイージーリスニング。メロディ展開やタッチはチプリアーニ風、グルーヴィなナンバーも、まさしくチプリアーニ的な聴き心地。エキゾ・パーカッション・ナンバーもあり。マーティン・ベッチャーあたりのドイツ・イージーリスニングも思い出させます。
『プラトーン』
音楽 ジョルジュ・ドルリュー
自らベトナム帰還兵であったオリバー・ストーンが監督した、ベトナム戦地のあまりにも残酷な実情を描いたドラマにして、世界的ヒットとなった『プラトーン』のサントラは、当時のポップ・ヒットのオムニバス的なソング盤も存在するが、こちらは、ジョルジュ・ドルリューによるスコアを収録。生々しい戦争映画にドルリュー音楽は意外だったが、ストーンは前作『サルバドル』もドルリューに依頼している。『プラトーン』のスコアは、バーバーのアダージョをメインテーマ的位置に据え、この絶望的な悲しさの美しさを少しだけ和らげてドルリュー節的なストリングスで仕上げたメインタイトルから、希望を失うなとばかり、ドルリューのストリングス・スコアが優しく真摯に物語を色づける。
『羊たちの沈黙』
音楽 ハワード・ショア
シリアルキラーを描くサスペンススリラーの中でも、文学的風格さえ漂う、ジョナサン・デミ監督の『羊たちの沈黙』のスコアは、デヴィッド・クローネンバーグ監督作品のレギュラー・スタッフで、サイコスリラー『戦慄の絆』の仕事を終えたばかりのハワード・ショアが担当に。スリラーとはいえ、異様なクローネンバーグワールドが展開する諸作と異なり、ヒロイン・クラリスの心理に寄り添う、不安感漂い盛り上がるオーケストラ・スコアは、いい意味で70年代低予算サスペンス秀作でマイケル・スモール、ジェリー・フィールディングたちが聴かせてくれていたドライだが、まさしくフィルムスコアな醍醐味に満ちたサウンドの感がある。具体的なメロディを避けるかの展開も、息を継がせない。
『ある愛の詩』
音楽 フランシス・レイ
最もオーソドックスな悲しい恋の物語の代表作といっていい、世界的大ヒット作。名門出の青年と、イタリア移民の娘の激しい恋の幸せの日々の後にやってくる、彼女の余命が幾ばくもないという通告……。エリック・シーガルのベストセラーを『美人泥棒』『ふたりの天使』のアーサー・ヒラーが監督、時のヒット・サントラメイカー、フランシス・レイに依頼。メロディメイカーのレイにとってもストレートに悲しくキャッチーな美しさがあふれる、今やスタンダードであるテーマ曲、こちらも有名なヴォカリーズを取り入れたサブテーマ「雪の中のたわむれ」はじめ、ソフトロック・インスト調にアレンジされたナンバーなど、時代を代表するサウンドトラックだ。
『フェリーニのアマルコルド』
音楽 ニーノ・ロータ
北部イタリアの港町の、フェリーニ監督の分身的な主人公の少年にとっての、忘れられない一年。人間の素朴な思いと、皮肉な運命の数々。ノスタルジックさ満点の世界を、優しく懐かしむように奏でられるニーノ・ロータならではの暖かなサウンド。人生、山あり谷あり、ほろ苦い思い出、甘い思い出あり、が情感たっぷりのメロディで表現されていく。
『甘い生活』
音楽 ニーノ・ロータ
フェリーニ監督、ロータ音楽の名作中の名作。聞きなれた、心地よいメロディ、テンポは軽いダンスステップも踏め、往年の映画音楽たる雰囲気を醸し出すも、このサウンドは、幾重にもの皮肉の壮大で冷静な視線を投げ掛けている。作家志望でローマにやって来たが、夢はどこかへ、ゴシップ記者として刹那的な日々をすごす主人公が見る、一見華やかな世界の裏の悲劇など。挿入曲としてラテンの名曲「パトリシア」も登場し、このラテン・ラウンジ的な一見気楽でキュートなメロディは、そのまま「甘い生活」のそれの源となっていることを感じさせるのだ。