WEEKEND JAZZ ~週末ジャズ名盤探訪 Vol.29
チャールズ・ミンガス 『直立猿人』(1956)
チャールズ・ミンガス(b)
ジャッキー・マクリーン(as)
J.R. モンテローズ(ts)
マル・ウォルドロン(p)
ウィリー・ジョーンズ(ds)
1956年1月30日ニューヨーク録音
曲目:
1.直立猿人
2.霧深き日
3.ジャッキーの肖像
4.ラヴ・チャント
【アルバム紹介】
1.異才放つコンポーザーとしての本領を発揮
2.アルバム前半はアレンジされた演奏とフリーでアヴァンギャルドな演奏が交錯する怪演
3.1曲だけガーシュインのスタンダード曲、しかし・・・
前回ご紹介のエリック・ドルフィーが亡くなったのはチャールズ・ミンガスのバンドに参加した際の欧州ツアーの真最中でした。そのチャールズ・ミンガスの代表作がこの『直立猿人』です。
チャールズ・ミンガスはベーシストであり、異才をもったコンポーザーでもありました。
そんなミンガスの作曲能力を発揮した初期の名盤が本作です。
このアルバムはミンガスにとっては名門アトランティック・レーベルの移籍第1弾となったアルバムで、メンバーにはアルト・サックスのジャッキー・マクリーン、テナー・サックスのJ.R. モンテローズ、ピアノのマル・ウォルドロン、ドラムスのウィリー・ジョーンズが参加した2サックスのクインテット編成になっております。
前半はアレンジされた演奏とフリーでアヴァンギャルドな演奏が交錯する怪演が聴きどころですが、後半はそれに比べるとやや聴きやすい印象となり、全体を通して考えると、フリー・ジャズ寄りの一枚と見る向きがないわけではありません。
1曲目のタイトル曲は10分超えのナンバーですが、その中身は“進化”“優越感”“衰退”“滅亡”からなる4部構成の組曲になっています。またアルバム中唯一スタンダード曲として取り上げているのが2曲目のガーシュインのナンバー“霧深き日”ですが、すっかりミンガス・カラーにアレンジされ、車のクラクション(もちろんサックスで模した)やホイッスルの音が行き交うフリーな演奏は同曲の演奏としてはユニーク度ナンバー・ワンでしょう。
ちなみに2019年はミンガス没後40周年ですが、亡くなった1979年にシンガー・ソングライターのジョニ・ミッチェルがアルバム『ミンガス』を発表しており、ミンガスの楽曲を優れた解釈で取り上げるとともに、ミンガス自身に捧げています。そこでのジャコ・パストリアスのベースが異様な存在感を放つミンガス名曲“グッド・バイ、ポーク・パイ・ハット”のカヴァーは必聴です。
【スタッフのつぶやき:この1曲を必ず聴いて下さい】
“ピテカントロプス・エレクタス”=“直立猿人”。
ズンズンズンズン~とベース音に導かれ、突如クレシェンド&ブレイク。そんな始まり方に「こりゃタダのジャズじゃないな」という匂いがプンプンしますが、やがて、鳥の鳴き声のようなフリーキーなテナー・サックスのプレイが展開。直立猿人の足音と叫び声ということなのでしょうか。これがチャールズ・ミンガスの音楽です。
アフリカン・アメリカンのジャズ・コンポーザーでいえば、デューク・エリントンやセロニアス・モンクともまた違うテイストが特徴であり、ある意味ブラック・ミュージックが持つ土着的な要素さえ感じさせます。またあまりに個性的なその音楽性ゆえ、本作のミンガスのオリジナル曲は、エリントンやモンクのように取り上げられて演奏されたりレコーディングされたりする機会は多くありません。
そういう意味ではエリック・ドルフィーの『アウト・トゥ・ランチ』同様、このアルバムの中で展開されていることに意味があり、じっくり時間をとって聴くのがよさそうな一枚でもあります。
SHM-CD国内盤(一般普及盤)
UHQCD国内盤
国内盤LP
タグ : WEEKEND JAZZ
掲載: 2019年06月07日 12:10