WEEKEND JAZZ ~週末ジャズ名盤探訪 Vol.31
ビリー・ホリデイ 『レディ・イン・サテン』(1958)
ビリー・ホリデイ(vo)
マル・ウォルドロン(p)
ミルト・ヒントン(b)
オシー・ジョンソン(ds)
J.J.ジョンソン(tb)他
オーケストラ・アレンジ、指揮:レイ・エリス
1958年2月19日~21日録音
曲目(収録曲・内容はレコード発売時もの):
1.恋は愚かというけれど
2.お願いだから
3.恋を知らないあなた
4.あなたなしでも暮らせるわ
5.フォー・オール・ウィ・ノウ
6.コートにすみれを
7.心変わりしたあなた
8.イージー・トゥ・リメンバー
9.バット・ビューティフル
10.不幸でもいいの
11.アイル・ビー・アラウンド
12.恋路の果て
【アルバム紹介】
1.不世出の名シンガー、ビリー・ホリデイ、最晩年の傑作
2.オーケストラをバックに絶品の解釈でジャズ・スタンダードを歌うバラード集
3. 2019年、没後60年を迎えた“レディ・デイ”
ピアニスト、マル・ウォルドロンが作曲した名曲“レフト・アローン”は、ビリー・ホリデイが作詞をしながらもビリー本人が生前レコーディングすることなく亡くなってしまった、と前回にお伝えしましたが、まさにその最晩年にレコーディングされた彼女の傑作がこの『レディ・イン・サテン』です。
不世出の名シンガーである、ビリー・ホリデイはその出生から1959年に44歳で亡くなるまで、波乱に満ちた生涯を過ごしたことは有名な話で、ここではその詳細には触れませんが、そのことがこれほどディープで聴く者の心をゆさぶるような歌声を持つ要因になったことは否定できません。
本作はビリーの生前にリリースされた最後のアルバムと言われていますが、まさにジェット・コースターのような人生の果てに、オーケストラをバックにスタンダードのバラード曲を歌ったといってもいい傑作で、特にマイナー調の名旋律を持った楽曲“恋は愚かというけれど”、“恋を知らないあなた”は出色の出来で、その哀感を表現するのにビリーの歌声なくしては考えられなかったと言えます。一方でロマンティックな“フォー・オール・ウィ・ノウ”、“コートにすみれを”では静かに喜びを伝える穏やかさが感じられる名唱となっています。
本名エレオノーラ・フェイガン。親交深かったサックス奏者レスター・ヤングによってつけられた別名は“レディ・デイ”。
2019年は彼女が亡くなってから60年になり、もうすぐ迎える7月17日は彼女の命日となっています。
【スタッフのつぶやき:この1曲を必ず聴いて下さい】
まるで泣いて歌っているような“恋は愚かというけれど(I'm a Fool to Want You)”。
その昔、お客様から聞いた話ですが、ジャズのレコード屋さんにいた時のことだそうです。この曲がかかり、その歌声が流れてきたら、何ともいえない切ない気持ちにつつまれ、気づいたら涙が流れていた、と。ジャズ・ヴォーカルを聴いて感動し、泣けたのは初めてで、ビリー・ホリデイの歌はすごいな、とその時思ったとのことでした。
この“恋は愚かというけれど(I'm a Fool to Want You)”という曲はスタンダード・チューンとしては数々のシンガーに歌われている名曲中の名曲ですが、ここでのビリー・ホリデイはまるで泣いているかのような声にも聴こえる瞬間があり、普通に聴いているとついつい“つられ泣き”してしまうような、それでいて心の奥にジーンと来るような感動を覚えます。バックのストリング・サウンドの忍び寄るような動きが静かに情感をあおります。
このアルバムはBGMになるような、聴き流しが出来るジャズ・ヴォーカル・アルバムではありません。一人でいる時間の中で、その歌声、その向こうに見えるビリーの表情を、そしてその人生を想像しながら聴く一作といえるでしょう。
国内盤(一般普及盤)
タグ : WEEKEND JAZZ
掲載: 2019年06月21日 12:00