Los Trovadores De Cuyo(ロス・トロバドーレス・デ・クージョ)|名曲集『クージョの吟遊詩人たち(DE CUYO VENGO)』
ご好評いただいている『南米フォルクローレの原風景』(DISCOLOGIA-018)の続篇(各論)シリーズの第2弾では、SP時代のアルゼンチン・フォルクローレを代表する名グループ、ロス・トロバドーレス・デ・クージョをご紹介いたします。いよいよ主役登場だとお喜びの方もいらっしゃることでしょう。
クージョとはアルゼンチンの中西部。チリとの国境に近いサン・ホァン、サン・ルイス、メンドーサの3州を指す地域名です。ワインの生産が盛んで、日本に輸入されるチリ・ワインのほとんどがこの地域で産出されています。このグループのリーダーであるイラリオ・クァドロスも、そんなクージョ地方のメンドーサ州出身。サン・ホァン出身であるドミンゴ・モラーレスとデュオを組み、1927年にブエノス・アイレスに上京しました。そこで名乗ったのが「ロス・トロバドーレス・デ・クージョ(クージョの吟遊詩人たち)」というグループ名です。この年、彼らはさっそくコロンビア・レコードからデビューを果たしました。このアルバムではそんな彼らの最初期録音から、戦後にオデオンに移籍して残した全盛期録音まで、リーダーだったイラリオ・クァドロスが1956年に亡くなるまでの音源をご紹介いたします。もちろん日本や欧米でCD復刻がなされるのは今回が初めてです。
フォルクローレと言うとケーナやチャランゴのような民俗楽器が使われる音楽を想像される方が多いと思いますが、このグループで使われるのは複数のギターのみ。独特のギター・アンサンブルを伴奏に、シブくて甘い、いぶし銀の味わいを持つ男性二重唱で歌われるのが特徴です。この歌声をこよなく愛したのが音楽評論家の故・中村とうようさんで、1995年の名著『俗楽礼賛』では〈声じたいに深いコクがあるうえに節回しが入念〉〈トロバドーレスの発声や唱法の黒人ヴァージョンが、キューバのアルセニオ・ロドリゲス楽団のヴォーカリストたち、ミゲリート・クニーやモンギート・エル・ウニコの一党なのではないか〉と大絶賛しました。大好きだったアルセニオを引き合いに出したくらいですから、よほどお好きだったのでしょう。
アルセニオ楽団も初期は男性二重唱がフロントを務めましたが、これは19世紀初頭のペルーにおいて南米歌謡の原点であるトリステが誕生したときからのスタイルです。SP時代は、中南米の幅広い音楽においてそんな男性二重唱に磨きがかかった時代であり、確かにアルセニオ楽団やトロバドーレス・デ・クージョはそんな原点を受け継ぐ方向性の頂点にいたグループだったと言えるかもしれません。
このアルバムではそんなグループの全盛期録音の名曲の数々を、できるだけ録音年代順に並べて収録しました。もちろん中心になっているのはクエッカやトナーダなど、クージョ地方の特産音楽です。冒頭のほうでは若さがあふれるダンス音楽を多く配し、中盤ではイラリオ・クァルドスが作曲家としてもっとも充実した時期の味わい豊かな名曲の数々を収録。終盤ではトリステやヤラビーやパシージョなど外国の歌謡音楽を歌う珍しい音源を加えるなど、幅広い音楽性を楽しんでいただきます。もちろんディスコロヒア印ですから、詳しい解説と最高のサウンドはいつもの通り。これはもう、「南米フォルクローレの真実」と言ってしまっても過言ではありません。
選曲/解説:田中勝則
南米フォルクローレの原風景
世にも珍しいSP時代のフォルクローレの名演の数々を収録。フォルクローレとは英語のFolkloreをスペイン語読みした言葉。もともと<民間伝承>を意味する言葉で、音楽の分野では普通<民族音楽>を意味します。でも、なぜかアルゼンチンなどの南米の国々では、伝統的な要素を取り入れた<ポピュラー音楽>を意味する言葉として使われるようになりました。ポピュラー音楽だから、ヒット曲もあるし、流行もある。そのような時代とともに生きるポピュラー音楽としてのフォルクローレをテーマに、そのSP時代の歴史を丹念に追いかけた作品。
タグ : 【World】復刻&発掘 リイシュー 世界の音楽
掲載: 2020年04月13日 09:43