多彩な活動を繰り広げるチェリスト 海野幹雄が奏でる『白鳥 - 珠玉のチェロ小品集』
多彩な活動を繰り広げるチェリスト・海野幹雄が奏でる宝玉のチェロ小品集
海野幹雄氏自身による解説
●サン=サーンス:白鳥
「白鳥」は、チェロのための作品として最も有名なものかもしれません。もともとは、仲間うちのサロンで演奏するために作曲された「動物の謝肉祭」組曲の中の1曲です。いろいろな動物を音楽でパロディの様に表現した冗談まじりの音楽だったため、サン=サーンスは生前、この「動物の謝肉祭」を出版しようとはしませんでした。しかし「白鳥」だけは単独の作品として出版しました。組曲の中ではフィナーレの直前にピアノ2台の伴奏にのって演奏されます。
●ロンドンデリーの歌(アイルランド民謡/クライスラー編)
アイルランドの民謡といわれているこの曲は、1850年頃、ロンドンデリーに住む音楽収集家が採譜した事をきっかけに、世に知られる様になりました。そのため「ロンドンデリーの歌」と呼ばれています。当初は歌詞はなくメロディだけでしたが、後にいろいろな歌詞が付けられ、世界中で歌われてきました。「ダニー・ボーイ」としてこの曲を知っている人も多いのではないでしょうか。今回のクライスラー版は、僕の父が好んで演奏していたのを小さな頃から何度も聴いており、個人的にとても思い入れの強い曲です。
●ドヴォルザーク:我が母教え給いし歌
原曲は、ドヴォルザークが作曲した「ジプシー歌曲集」の第4曲目。歌詞の内容は、昔母から受け継がれた歌を、今、母親になった自分が子供に歌って聞かせている、というものです。そして、母が歌ってくれていた時母は涙をうかべていた、私も今歌いながらやはり涙している、となっています。その「歌の内容」に想像を巡らせながら聞くのもいいかもしれません。余談ですが、現在僕が使用している楽器がチェコ製という事もあって、ドヴォルザークの曲を弾く時はとても親近感を感じるのです。
●ラフマニノフ:ヴォカリーズ
ヴォカリーズとは、歌詞を持たず、母音だけで歌われる歌唱法です。ラフマニノフは、1912年に「13の歌曲集」という作品を書きました。しかし3年後にこの「ヴォカリーズ」を作曲し、この歌曲集に終曲として加えました。初演はとても好評で、オーケストラ用の編曲も残されています。現在では、あらゆる楽器で演奏されるほどの名曲となっています。もともと歌詞がない事から、器楽で演奏するのはとても自然な事なのかもしれません。
●チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ
原曲は、弦楽四重奏曲第1番の第2楽章。ロシアの文豪トルストイがこの曲を聴いた時に感動して涙を流したというエピソードがあります。チャイコフスキーはのちにその出来事を回想して、「あのときほど、喜びと感動をもって作曲家としての誇りを抱いたことは、おそらく私の生涯に二度とないであろう」と日記に記しています。そして彼は、後にこの第2楽章を弦楽合奏版や、ソロ・チェロ+弦楽合奏という編成に編曲しました。その際、原曲から調性を半音上げて、ロ長調としています。今回は、ソロ・チェロ+弦楽合奏版をもとに、弦楽パートを僕自身がピアノ用に書き起こした版で演奏しています。
●ブラームス:ひばりの歌
「ひばりの歌」は、ブラームスが満を持して第1交響曲を発表した頃に作曲された、独唱とピアノのための「4つの歌 作品70」の中の第2曲です。ピアノが8分音符を4つ弾く中に歌が3連符で音を3つ入れるという、微妙に噛み合わないリズムが特徴で、それがかえって自由さを感じさせる効果を出しています。歌詞の内容は、夕暮れ時の春の息吹の中、ひばりの声の美しさに感嘆しながら、静かに思い出に浸る様子を表したものです。
●フォーレ:夢のあとに
「夢のあとに」は、歌曲集「3つのメロディ」作品7の中の第1曲です。歌詞は、イタリアのトスカーナ地方に古くから伝わる作者不詳の詩を、パリ音楽院の教授でもあったロマン・ビシューヌという詩人がフランス語に翻訳したものです。歌詞の内容は、夢の中で出会った美しい女性の姿や、一緒に過ごした素晴らしい時間、そして夢から覚めた時の喪失感、などを表しています。
●バッハ=グノー:アヴェ・マリア
この作品は、J.S.バッハが鍵盤楽器のために書いた「平均律クラヴィーア曲集第1巻」の中の「前奏曲第1番ハ長調」という曲を伴奏として、フランスの作曲家・シャルル・グノーが、メロディを書き足して完成させるという、珍しい作曲方法で生まれました。
●フォーレ:エレジー
フォーレは70歳を過ぎてから、晩年に2曲のチェロソナタを完成させています。しかし実は、30代の頃にチェロソナタの作曲に着手した事がありました。残念ながらそれは完成をみることはありませんでしたが、その時、緩徐楽章として構想されたのがこの作品でした。結局この作品はチェロとピアノのための「エレジー」として出版され、その後には管弦楽伴奏版も作られました。ちなみに、管弦楽伴奏版は、カザルスのチェロ、フォーレ自身の指揮という、名コンビで初演されました。
●リスト:愛の夢(カサド編)
愛の夢は、もとはリストが作曲した歌曲でした。それをリスト自身ピアノ独奏用にアレンジしたもので、第3番が特に有名です。今回演奏しているチェロ用の編曲をしたカサドは、スペイン出身のチェリストで、カザルスの弟子でもあった人です。歌詞の内容は、「恋愛的な」愛というより、むしろ宗教的であったり、人類愛、家族愛などを連想させる力強く重い内容です。
●鳥の歌(カタロニア民謡・カザルス編)
鳥の歌は、スペインのカタルーニャ地方の民謡をカザルスがチェロ用に編曲したものです。94歳のカザルスが国連平和賞を受賞した時、ニューヨークの国連本部で「私の生まれ故郷カタルーニャの小鳥は、peace, peace, と鳴くのです」とスピーチをしてからこの曲を演奏したエピソードは、とても有名です。
(ティートックレコーズ)
【収録内容】
01.サン=サーンス: 白鳥
02.アイルランド民謡 :「ロンドンデリーの歌」(クライスラー編)
03.ドヴォルザーク: 我が母の教え給いし歌(クライスラー編)
04.ラフマニノフ: ヴォカリーズ
05.チャイコフスキー: アンダンテ・カンタービレ(海野幹雄編)
06.ブラームス: ひばりの歌
07.フォーレ: 夢のあとに
08.バッハ=グノー: アヴェ・マリア
09.フォーレ: エレジー
10.リスト: 愛の夢(カサド編)
11.カタロニア民謡 「: 鳥の歌」(カザルス編)
【演奏者】
海野幹雄(チェロ)
海野春絵(ピアノ)
192KHz /32bit高解像度レコーディング。
さらに特典として192KHz /24bitハイレゾ音源3曲が楽しめるダウンロード用QRコード付き!
【特典】下記3曲のハイレゾ音源ダウンロードQRコード
ロンドンデリーの歌(クライスラー編)
ドヴォルザーク:我が母の教え給いし歌(クライスラー編)
ブラームス:ひばりの歌
海野幹雄(チェロ)
バロック、古典、ロマン派から現代音楽までと非常に広いレパートリーを持ち、ソロ、アンサンブル、全国の各オーケストラへ首席奏者として客演、小学校等へのアウトリーチ活動、また編曲や指揮も行うなど、幅広いジャンルで高い評価を得ているマルチなチェリスト。最近では、バロック弓と裸ガット弦によるバロック音楽の演奏にも取り組んでいる。
音楽一家に生まれ(父は元N響コンサートマスター海野義雄、母は元都響首席チェリスト土田由紀子、祖父は元N響ヴァイオリニスト海野次郎、伯父は元札響首席チェリスト土田英順)、14歳より母にチェロの手ほどきをうける。桐朋女子高等学校音楽科(共学)を経て、桐朋学園大学アンサンブル・ディプロマコース修了。洗足学園大学付属ソリストコース修了。第20回霧島国際音楽祭で特別奨励賞、第14回川崎市音楽賞コンクール第1位。第12回全日本ソリストコンテストグランプリ受賞。
倉田澄子、堤剛、木越洋、山崎伸子の各氏に師事。またドイツ・ベルリンへの短期留学中にルートヴィヒ・クヴァント氏に師事。
これまでに東京フィル、新日本フィル、東京シティフィル、神奈川フィル、日本フィル、仙台フィル、大阪フィル、関西フィル、日本センチュリー、広島響、山形響、静岡響、千葉響など多くのオーケストラにゲスト首席奏者として参加している。毎年東京文化会館や銀座王子ホールにて開催してきたソロリサイタルでは、ベートーヴェンの残した「チェロを含む二重奏曲」全曲演奏会、バッハ無伴奏チェロ組曲全曲演奏会など意欲的な企画を次々と打ち出し、音楽の友誌等で「作品の本質に迫り、深層からの解答を得ようとするかの様に確信に満ちた演奏を貫く」「覇気と情熱と、そして冷静沈着な洞察力を兼ね備えたチェリスト」と評され、また2017年には仲間達による室内オーケストラと共に10回記念公演を成功させた。
2018年からは会場をHAKUJU HALLに移し、ブリテンの無伴奏チェロ組曲を軸とした新しいシリーズを展開。また2009年より毎月横浜市イギリス館で開催しているサロンコンサート「Salon de violoncello」は、2021年春には120回を超え、益々好評を得ている。2015年には神奈川フィルとドヴォルザークのチェロ協奏曲を、2017年にはNIPPON SYMPHONYとベートーヴェンの三重協奏曲を共演し成功を収めた。(公財)ソニー音楽財団が企画する「Concert for KIDS」にも度々出演。映画「おくりびと」では12人のチェリストの一人としてサウンドトラックのレコーディングに参加した。ピアノ・トリオ海(Meer)や作曲家 新垣隆とのDUOグループ「オリゴ」、チェンバー・ソロイスツ KANAGAWA、室内オーケストラ ARCUS(アルクス)など、多くのアンサンブル団体に所属。(一財)地域創造主催事業「公共ホール音楽活性化事業」登録アーティスト。12人のチェロ・アンサンブル「タンタシオン・デ・ブルー」主宰。NPO法人「ハマの JACK」理事。東邦音楽大学講師。アルバムに「海野幹雄 plays シューマン」がある。またコロナ禍の2020年4月より演奏動画シリーズ「海野幹雄と仲間たち」の配信を開始。2021年春現在、12本以上の動画が公開されており、好評を得ている。
海野春絵(ピアノ)
桐朋女子高等学校音楽科(共学)を経て、桐朋学園大学音楽学部演奏学科ピアノ科卒業。その後同大学研究科にて研鑽を積む。第45回全日本学生音楽コンクール東京大会中学校の部第2位。ロゼ・ピアノコンクール第1位。第22回ピティナ・ピアノコンペティション特級の部グランプリ。これまでに日本フィルハーモニー交響楽団、東京ニューシティ管弦楽団と共演。第20回日墺文化協会フレッシュコンサートにて最優秀共演者賞受賞。これまでにピアノを竹内淑子、狩野美紀子、深沢亮子、上野久子の各氏に、室内楽を白石隆生、田中麗子の各氏に師事。トリオ海(Meer)、NPO法人「ハマのJACK」メンバー、桐朋学園大学弦楽器科嘱託演奏員。
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2021年07月29日 00:00