川口成彦がトイピアノの銘器を奏でるミニ・アルバム!『DREAMING ~夢みる~』
歴史的鍵盤楽器奏者、川口成彦がトイピアノの銘器を奏でる!
束の間の夢想に耽りたい時、わたしはトイピアノを弾きたくなります。小さな鍵盤に指をのせて音を出してみると、不思議と世界の何気ないものたちをいつもより愛おしく感じるのです。
時を知らせる鐘の音のような響きに魅せられて、ふとわたしは夢の世界へと心の旅に出ます。
歴史的鍵盤楽器との様々な出会いを重ねていく中で、トイピアノの銘器であるフランスのミシェルソンヌ(Michelsonne)の美しい音色に興味を持ち、20鍵と30鍵のミシェルソンヌを手に入れました。ミシェルソンヌは1939年から1970年にかけて楽器を製造したトイピアノ専門のメーカーで、当時は彼らの広告の中でも「ベルトーンピアノ(鐘の音を持つピアノ)」と称されました。
この美しい音色と、数少ない鍵盤で私は何をしたいか…と色々考え、主に18世紀に栄えた「音楽時計」のための音楽をトイピアノで弾いてみたい!と思いつきました。ヘンデルやハイドン、W. F. バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンなどが音楽時計のために作品を書いています。「音楽時計」というのは決まった時間に音楽を自動で奏でる機械仕掛けのオルガンで、偉大な作曲家たちが音楽時計のために特別に作った作品で時間を知ることが出来るなんて、当時の人たちはなんと優雅なのだろうか!と感じます。今回使用したトイピアノの鍵盤の数で演奏可能だったのはヘンデルとハイドンの作品でした。ヘンデルの作品は当時のロンドンの時計の名工であるチャールズ・クレイの音楽時計のために作られた7つの小品です。そしてハイドンは30曲以上残された音楽時計のための作品の中から4曲を選びました。
今回やはりトイピアノのためのオリジナル作品も演奏してみたかったので、その代表作であるジョン・ケージの『トイピアノのための組曲』を収録しました。第1楽章と第2楽章を20鍵のミシェルソンヌ、第3楽章と第4楽章を30鍵のミシェルソンヌ、そして第5楽章にアメリカ製のジェイマール(Jaymar)を使用しました。フランスのミシェルソンヌとアメリカのジェイマールの音色の大きな違いは面白く、トイピアノもなかなか奥深いなと演奏者として感じました。そして鍵盤の数が違う2台のミシェルソンヌの音色も雰囲気が異なります。
ケージのこの作品はトイピアノでは不可能なほどの強弱の指示が沢山書かれています。その実現困難な指示をケージはあえて書いたわけですが、どうにか実現してみたくて強弱が比較的付けやすかったミシェルソンヌを5曲中4曲で使用してみました。しかしながら「ベルトーン」の楽器たちの美音よりも、鍵盤のカタカタというノイズが味のあるアメリカ製の楽器の方がこの組曲との相性は良いのかもしれないと思う部分もあります。けれど全楽章アメリカ製の楽器で行われた録音は既に出回っているので、今回はミシェルソンヌの音色で奏でられるケージをお楽しみ頂けたらと思います(※5楽章はジェイマールです)。
CDの最後に収録したのはスペインのバロック時代の作曲家マルティン・イ・コルの『快活なエアー』です。この曲では2台のミシェルソンヌを同時に演奏してみました。約20分の短いCDの小さな小さなエピローグです。 (川口成彦)
『DREAMING ~夢みる~』
【曲目】
ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685-1759):
1-7. チャールズ・クレイ氏の音楽時計のための7つの小品
1. ソナタ ハ長調 HWV 598
2. ジーグ ハ長調 HWV 599
3. 「天使の飛行」のためのヴォランタリー ハ長調 HWV 600
4. エアー ハ長調 HWV 601
5. メヌエット イ短調 HWV 602
6. メヌエット イ短調 HWV 603
7. エアー イ短調 HWV 604
ジョン・ケージ(1912-1992):
8-12. トイピアノのための組曲
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732-1809):
13-16. 音楽時計
13. ハ長調 Hob.XIX:10
14. ハ長調 Hob.XIX:19
15. ハ長調 Hob.XIX:20
16. ハ長調 Hob.XIX:11
アントニオ・マルティン・イ・コル(1650-1734):
17. 快活なエアー
【演奏】
川口成彦(トイピアノ)
使用楽器…
ミシェルソンヌ (30鍵)…1-7、 10、11、13-17
ミシェルソンヌ (20鍵)…8、9、17
ジェイマール (30鍵)…12
【録音】
2020年3月18日 日本
収録時間: 約21分