TOWER RECORDS LOVES...山下達郎『SOFTLY』
(11年ぶりの山下達郎の新アルバムのコメントを書く、ということが初体験の私、、大変緊張しております。)
日本が誇る音のアルチザン=山下達郎 11年ぶりの新アルバム『SOFTLY』。この11年間実にいろいろなことがありました。戦争、パンデミック…すっかり変わった世の中ですが、だからこそこのお方の曲で、声で、我々を癒し鼓舞していただく必要があるのです。世界的シティポップブームに乗りソリッドでアーバンでグルーヴなタツローさんが特にフューチャーされる近年。ですが本作はずっと続けてこられたSSWとしての世界がさらに極まった素晴らしい作品に仕上がっております。
タツローさんのパブリックイメージ~近年のアルバムに沿った(でも革新的な)先行シングルが続いていたわけですが、度肝を抜かれるのが今回のアルバム用に制作された楽曲。タツローさんまだ進化するんですか!!と言いたくなるようなクラブ~ワールドトップヒットを吸収した(2)、セカンドライン/ニューオーリンズビートの泥臭さとタツローさんのポップスセンスが絶妙な(6)、鬱積した想いを代弁する渾身のブルース(10)、ストレートな8ビートでロックする(12)と、SSWとしてのタツローさんの想いとまだまだ新しいものを作っていくという音のアルチザンとしての矜持を強く感じる一作に。
タツローさんのアルバムへのコメントで、SOUL,R&B,POPS,AOR,カンツォーネ…と言った言葉は使ってきましたが、クラブ,ニューオーリンズビート,ストレートなロックなんて使ったことがない…はずです。(少なくとも私は初めて)
「歌詞よりもメロディよりも、踊れるかどうか、グルーヴが肝心」とのタツロー御大のお言葉もありますが、やはりどんなアレンジどんな歌詞でも根底にあるのはシュガーベイブからブレることのないそのグルーヴとあくなき音への挑戦。
今作、今までで一番生音⇆打ち込みのリズムの境界を感じなく、デジタル録音との格闘への歴史を感じさせる音作りも素晴らしい。
どんなことがあっても常に平常心で。それでも音楽は続いていく。そんなタツローさんからのメッセージもこもった本作。やっぱりこのお方に一生ついていこう、と決意した次第であります。
(1)フェニックス [2021 Version]
『SONORITE』収録の楽曲をアカペラで。これから始まる楽しく豊かな時間の幕開けを告げるオープニングにふさわしい一曲。
(2)LOVE'S ON FIRE
近年のワールドトップヒット~クラブミュージックの風を吸収した最新曲。タツローさん、まだ進化するんですか!!サザンが2015年に[アロエ](アルバム『葡萄』に収録)を発表した際にも度肝を抜かれましたが、こちらもなかなかに衝撃的。シンプルなループコード中で一貫したグルーヴで躍動していくサウンドはまさに2020年代的で、クラブでかけても通用する抜けのいいトラックに仕上がっております。アクティブなギターソロももちろんタツロー氏。
(3)ミライのテーマ
細田守監督[未来のミライ]主題歌。小笠原拓海×伊藤広規という現行ライブでのリズム帯のタイトなリズムと、タツローさんらしい細やかなカッティング、躍動する宮里陽太のサックス、これこそ今のタツローサウンド。畳み掛ける2拍3連も実にタツローさんらしい。
(4)RECIPE (レシピ)
木村拓哉主演ドラマ[グランメゾン東京]主題歌。ブラコン的なトラックで幕開け、途中には繰り返すブレイク、やはりカッティング含めシェフタツロー印。料理名を組み込んだ歌詞の遊び心も◎繰り返しが産むグルーヴを体感する後半部分、永遠に聞いていたい…!
(5)CHEER UP! THE SUMMER
松嶋菜々子主演ドラマ[営業部長 吉良奈津子]主題歌。踊ろよ、フィッシュの爽快感×アトムの子のリズムパターン的で、「夏だ、海だ、タツローだ」的パブリックイメージの最新版。イントロのピアノ&シンセによる全音符コードから感じる爽快感はタツローさんならでは。間奏で半音上がりより伸びやかに歌うタツローさんも素晴らしく、永遠の夏の扉が開く気がします。
(6)人力飛行機
上原ユカリ(シュガーベイブ)の参加によりタツローさんも[GO!AHEAD]期の音がすると語った一曲。いやーこれまた驚かされました!佐橋さんのスライドギターが全編でフューチャーされた、どっぷりサザンロック~リトルフィートな一曲。セカンドライン/ニューオーリンズビートの泥臭さにタツローさんのさっぱりしたポップスコーラスがのった渾身の一曲。BRUTUSの特集で関口スグヤ氏が取り上げていた通り、大滝さん~細野さんの流れを汲み、ナイアガラトライアングルVol.1[ドリーミングデイ]からの伏線を回収!アナログ盤で聴きたい一曲。スライドギターの名手桑田佳祐との共演も見てみたかったな~。
(7)うたのきしゃ
少年とタツローさん。[僕の中の少年]から続くメッセージの最新版。チャックブラウンのGOGOビートを元ネタにしつつ、全編ドラムは打ち込み。今作の1番の点は今まで以上に打ち込み⇆生ドラムの境界がわからない点にあると思うんですが、それの真骨頂のような気がします。ホーンが入ると一気に初期タツローサウンドに感じますが、その裏で重層的で有機的に結びつく音の汽車に身を委ねて…
そういえばタツローさん、汽車モノ多いですね。
(8)SHINING FROM THE INSIDE
完全英語詞による、22年ぶりの1人アカペラ曲。タツローさんの歴史を語る上で外せないアカペラを突き詰めた最新曲。超スウィートなタツロー様のファルセット、いや「裏声」に心掴まれないはずがないじゃないですか。
(9)LEHUA, MY LOVE
フィリーソウル的なサニーサイドな幕開け~1サビから入る「チャカチャチャカチャ」というギターで一気にグルーヴィーに(ちょっとDOWN TOWN的に)なる、丁寧に紡がれたハワイアンソング。シンコペーションも気持ちよく、実にタツロー印なミドルナンバー。間奏へとコードが変わる(半音上がる)~半音ずつ下がっていくコード進行も超絶美味。
(10)OPPRESSION BLUES (弾圧のブルース)
(6)に続きドラムは上原ユカリ氏。ご本人も問題作と語る一曲で、ギタリスト山下達郎の魅力も存分に発揮された一曲。人々の心に鬱積した世の中への疑問や不安、不満を代弁し世に問うような歌詞。立ち止まって改めて考え直す機会をタツローさんがくれました。
(11)コンポジション
羽田美智子主演ドラマ『第二楽章』主題歌。ブラコン的なスウィートなソウルナンバー。間奏でチラリと顔を出すクラシックの旋律と、「シャンプー」(『ポケットミュージック』収録)を彷彿させるボーカルに心も耳も鷲掴み。「君の音符(ノート)を僕の和音(コード)で包んで…」という甘い歌詞も◎
(12)YOU (ユー)
いやー!また度肝を抜かれました…(何回も言ってますが。)ストレートな8ビートでロックする完全新曲。マッチに提供した「ハイティーン・ブギ」も想起させるビートと下がっていくメロディ、佐橋さんのゴリゴリのギターソロ。なんと言ってもBメロのコード進行、メロディの素晴らしさ!こんなタツロー聴いたことないっていうほどに情緒的でストレートな歌詞にもご注目を。
(13)ANGEL OF THE LIGHT
アランオデイとの最後の共演になった楽曲。(11)がベットの横でスウィートに囁くタツローなら、こちらは教会で弾き語るタツローともいうべきゴスペル的質感も持ったバラード。その歌声にピッタリと寄り添う佐橋佳幸のガットギターもこれまた超絶美味。全ての音、コーラスの組み立てが完璧で緻密。
(14)光と君へのレクイエム
松本潤×上野樹里映画『陽だまりの彼女』主題歌。「悲しみのJODY」を思い出すような高揚感。ハルブレイン的ドラム~甘いシンセ、そしてピアノが入り一気に夏に向かっていく手腕はさすが。Cメロ「君の好きだった~」(これまた半音上がる)のコード進行も素晴らしいし、そこから映画に絡めてビーチボーイズを引用する流れも完璧。
(15)REBORN (リボーン)
本作を締めくくるのは山田涼介主演『ナミヤ雑貨店の奇蹟』主題歌。死生観をテーマにした壮大なバラードで、杉並児童合唱団~日下部正則氏のアツいギターソロが一層の感動を誘う。ですが一番はやっぱりタツローさんのその歌声。わざとキツい音域をサビに持ってくることによってぎりぎり地声~裏声で吸い込むように歌う歌声に引き込まれます。豊かな後味を伴ったアルバムに仕上げる最重要曲。
<週刊ライドオンタイム編集部 マツタツ>
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