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プレスリー、ビートルズ、ボウイ……伝説的アーティストたちが音楽史や社会史に与えていた多大な影響を紐解く20世紀ポップス史

戦いの音楽史

日常生活に彩りを与えてくれる音楽。ポップスやロック、メタルなどさまざまなジャンルからお気に入りの曲を見つけて、「毎日何かしら音楽を聴いている」という人は多いだろう。音楽の歴史は古く、これまで数々の伝説的アーティストたちが名前を残してきた。そんな音楽史を振り返ると同時に、名立たるアーティストが与えた影響を紹介した1冊が「戦いの音楽史 逆境を越え 世界を制した 20世紀ポップスの物語」だ。


●伝説的ロックスターが変えた差別意識

著者のミュージシャン・みのは、自身のYouTubeチャンネル「みのミュージック」で独自の音楽批評をおこなっている人物。本書はYouTubeで展開した解説をベースに、動画では語りきれなかったポイントなども踏まえた上で、20世紀のポピュラー音楽史をわかりやすくまとめている。

たとえば、「史上最も成功したソロ・アーティスト」としてギネス認定されているエルヴィス・プレスリー。みのいわく黒人差別が根強かった1950年代のアメリカでは、ブラックミュージックを嫌う親を持つ若者が、本物のR&Bを漂白したような白人版R&Bを聴いていたという。そんな差別意識に一石を投じたのが、白人でありながら黒人のワイルドな部分をストレートに表現したプレスリーだった。

プレスリーの黒人リスペクトぶりは徹底しており、トレードマークともいえるリーゼントもハードな黒人用ポマードを使用していたそう。歌唱パフォーマンス中に腰を振るセクシャルな動きも相まって、若者たちのハートは圧倒的な存在感を放つプレスリーに鷲づかみされることになる。

エルヴィス・プレスリーという超弩級のスターが登場したことで、ロックンロールは熱狂的なブームとなり、後に続けとさまざまなスターが登場します。かつて、白人たちは揶揄する目的で黒人の真似をし、嘲笑していましたが、ついに、リスペクトとして黒人の真似をする時代が来たのです。

みの「戦いの音楽史 逆境を越え世界を制した20世紀ポップスの物語」より


●日本の音楽史に影響を及ぼしたビートルズ

1960年代のミュージックシーンにおいて、ビートルズに触れないわけにはいかないだろう。その人気以上に注目したいのが、テーマや物語に沿った楽曲を収録した「コンセプト・アルバム」の始まりがビートルズだったという点だ。

ビートルズが発表したコンセプト・アルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」は、それまで「ヒット曲」止まりだったポップスの評価に、「名盤」という新たな価値観を与えるきっかけになった。「サージェント~」以降は、発売国によって差異のあったアートワークや収録曲が、本国リリース盤と統一されるようになったことも特筆すべきポイント。本書の中でみのは、

コンセプト・アルバムの登場は、カウンターカルチャーだったロックが、より芸術性への志向を高め、ハイカルチャーに挑む表れでした。

みの「戦いの音楽史 逆境を越え世界を制した20世紀ポップスの物語」より


と説明している。

ビートルズといえば、来日時の熱狂的歓迎ぶりがよく知られるところ。ビートルズを筆頭にブリティッシュ音楽が日本にも押し寄せた結果、若者を中心にバンド形態のグループサウンズが流行。ビートルズのようにアーティスト主導で楽曲を制作する時代ではなかったものの、後にロックがメインストリームになる下地を作った点において、グループサウンズの影響は非常に大きかったという。


●早くからバイセクシャルを公言していたアーティスト

日本の音楽史に影響を与えたという意味では、デヴィッド・ボウイの存在も忘れてはならない。1970年代のイギリスでは、ロックを耽美的に昇華したグラムロックが誕生。代表的なアーティストのひとりとしてみのが挙げたのが、早くからバイセクシャルを公言していたデヴィッド・ボウイだ。

ボウイといえば1972年リリースのアルバム「ジギー・スターダスト」で扮した、奇抜なメイク・衣装が特徴の架空のスーパースター「ジギー」が有名。バイセクシャルの公言や中性的でジェンダーレスなスタイルは1970年代当時珍しかったが、現代に至るまでボウイの人気はすさまじい。日本でも受け入れられたグラムロックが、後に誕生するビジュアル系バンドのルーツになったといわれている。

本書を通してポップス史を深掘りしていくと、いかに音楽が社会と密接した関係であるかがよくわかる。お気に入りのアーティストや楽曲のルーツをたどっていくことで、思わぬ発見にたどり着けるかもしれない。


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掲載: 2024年12月02日 17:00