アグレッシブすぎるおじさんたち……令和の今では考えられない「昭和人間」の興味深い生態
2025年となったことで昭和100年を迎え、昭和という時代はずいぶん遠くなったように感じる。しかし社会を見回せば、まだまだ昭和人間がいたる所で幅をきかせているはずだ。そんな昭和人間たちの興味深い生態を具体的に紹介してくれるのが、書籍『昭和人間のトリセツ』。本書を読めば、当時の時代背景とともに昭和人間の上手な取り扱い方を学ぶことができるだろう。
●昭和人間の青春の残り香が「おじさんLINE」に詰まっている
「おじさんLINE」とはメールやLINEで絵文字を乱用し、聞いてもいない自分の近況を報告する独特な文面のことで、「おじさん構文」と呼ばれることも。他にも、相手を「〇〇チャン」と馴れ馴れしく呼んだり、語尾がカタカナになったり、下ネタの後に「ナンチャッテ」を入れたりと、しばしば問題になるのも仕方なしと思える特徴が満載である。
なぜ若い女性にそんな無謀な文面を送りつけてしまうのか?その動機にはおじさんの若かりし頃、つまり昭和時代の青春の思い出と価値観が色濃く反映されている。例えば、一見不快感しか引き起こさない下ネタや「ナンチャッテ」だが、彼らの若い頃には脈ありの相手から好意的に受け取られることがあった。また、メールが広まり始めた当初において、絵文字をちりばめることはイケてるメールの必須条件であったらしい。
いずれにせよ、この類のバグを起こしてしまう昭和人間の頭の中には「自分はまだまだイケる」というセルフイメージがあり、それを確かめたいという不安や期待が動機の根底にあるようだ。
●15万円を1晩で燃やし尽くす情熱
相手の気持ちを確かめるためにギラギラした「おじさんLINE」を送りつける行動力は、令和の若者たちから見ればかなりアグレッシブに映るかもしれない。しかし、昭和時代のクリスマスデートを知っておけば、少し印象が変わるだろう。
クリスマスデートが激化する昭和60年代は「バブル」に向けて世の中が浮き足立つ時代。その頃のクリスマスの変化を著者の石原壮一郎は、
「家族でほのぼの楽しむイベントから、本能に突き動かされた善男善女が目の色を変えて取り組むイベントに」
「昭和人間のトリセツ」より
と表現している。きっかけになったのは松任谷由実が歌った『恋人がサンタクロース』で、テレビドラマでは着飾った男女がクリスマスデートを楽しみ、若者雑誌は競うように「クリスマスデートのノウハウ」を特集した。そんな時代背景もあり、「クリスマスは恋人と過ごすもの」という固定観念が広まった。
クリスマスデートへの情熱はかなりのもので、定番のプランを本書から引用すると、
「フレンチのディナー(2人で4万~5万円)→夜景の見えるバーで一杯(2人で1万~2万円)→彼女へのプレゼントにティファニーのオープンハート(2万~3万円)→シティホテルに宿泊(5万~6万円)」
「昭和人間のトリセツ」より
という感じだ。ざっと15万円ほどかかり、当時の若者は努力と我慢を重ねてお金を貯め、クリスマスに備えたらしい。そんなクリスマスデートの最大の目的は男女ともに肉体的な意味で一歩踏み出すことであり、当時純情だった若者たちにとってクリスマスはかっこうの「口実」であった。
その過去に比べれば「おじさん構文」で相手の気持ちを確かめるジャブを打つなど容易く、軽い気持ちでやってしまうのも無理からぬと思えてこないだろうか。
●昔の話や価値観が口をついてでる昭和人間の頭の中
昭和人間は昔話をつい最近のことのように話すことが多いが、その理由には途中の数十年をすっ飛ばして記憶するという人体の不思議がある。そのため、頭ではわかっているのだが過去の栄光を忘れられなかったり(日本は経済大国だ)、いいものへの幻想を捨てきれなかったりして(いい服を身につければ価値が上がる)、今の価値観と外れた発言が飛び出すこともある。
昭和人間のバグは若い頃の価値観が大いに影響しているとわかったわけだが、その意味では令和の若者も決して他人ごとではない。著者が本書で語るように、私たちが時代の価値観に染まってしまうのは避けようのないこと。それぞれの背景を想像し、互いに許容しあえるうような、寛容な社会を目指していければいいと思う。
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掲載: 2025年01月16日 13:00