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「言葉はビート」元チャットモンチーのドラム・高橋久美子が“いい文章”のしくみを説く

高橋久美子

あなたはこれまで、“いい文章”に出会ったことがあるだろうか?書籍はもちろん、楽曲の歌詞やSNS上で目にする誰かが書いた短文、知り合いと日頃やりとりする際の何気ないメッセージまで、“文章”に触れる瞬間は日常のありとあらゆる場面に存在する。文章を頻繁に読んだり書いたりする人ほど、“いい文章”とはどんなものかと考える時間も多いだろう。そんなときには、今回紹介する書籍「いい音がする文章 あなたの感性が爆発する書き方」が何かヒントを与えてくれるかもしれない。


●“いい文章”からは“いい音”がする 本書の著者・高橋久美子は、作家、作詞家、詩人として活躍する人物。さらに、かつてはロックバンド・チャットモンチーのドラムと作詞を担当していた経歴も持つ。そんな彼女独自の視点から考える“いい文章”とはずばり、“いい音がする”文章だという。

人の文章を読んでいても思うし、自分が書いていても、「よっしゃ」と思う文はリズムがいい。惹きつけられる文章は、どれもいい音がしているのです。

たとえば、あなたが「いいな」と思っている曲の歌詞。それは本当に言葉だけの力でしょうか。曲や編曲、音の良さによって傑作に到達しているのかもしれません。100年以上読み継がれてきた文豪たちの小説。素晴らしいのは内容だけではなく、文章のリズムや語感によってもたらされるものもあるかもしれません。

そもそも、言葉とはビートなのだと私はとらえています。

意味ではなく、まず音で相手の体をノックするものだと。

「いい音がする文章 あなたの感性が爆発する書き方」より

●古典的有名フレーズに見る日本特有のリズム
高橋曰く、日本語を用いた文章にはたびたび「日本特有のビート」が含まれているのだという。例えば長きに渡り日本人の間で受け継がれてきた“いい音”がする文章のひとつ、「平家物語」の冒頭部分に見られるのが“7・5調”というリズムだ。

祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響あり
沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす
奢れる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし

これなんて、数百年の大ヒット曲なわけだ。7・5調のリリックは、ラップにしたら絶対にかっこいいでしょう。日本語のラップも7・5になっていることが多いので、馴染みのあるビート感。いやいや、こちらが元祖である。

「いい音がする文章 あなたの感性が爆発する書き方」より

「平家物語」が7・5調を用いた形で現代にまで伝わっている理由として、物語を琵琶の音色とともに吟ずる琵琶法師の存在があったと高橋は語る。文字の読み書きができる人が少なく、耳で聞いたものを口頭で伝えることが主流だった当時。長い物語が語り継がれるうえで、7・5調はひとつの最適解だったのかもしれない。

●童謡からヒット曲にまで共通する“五音音階”とは
「平家物語」だけでなく現代の歌謡曲や演歌などでも、7・5調や7・5調から派生した言葉のリズムが使われている。具体的には、坂本九の『明日があるさ』、美空ひばりが歌う『愛燦燦』といった楽曲が挙げられるという。

また子どもの頃に慣れ親しんだ人も多い『どんぐりころころ』をはじめとする童謡は、7・5調に似た8・5調がベースになっていると高橋は指摘。さらに童謡にはリズムだけでなく、音階にも共通した特徴があるという。それが、通常「ドレミファソラシ」と7音ある音階から2音を除いた“五音音階”だ。

五音音階自体は海外の民謡でも用いられているため、日本独自の音階というわけではない。しかし高橋によると、五音音階で構成された楽曲は覚えやすく歌いやすいという利点がある。加えて、ポップでありながら懐かしさを感じられるのも特徴だ。

五音音階が使われている夏川りみの『涙そうそう』や森山直太郎による『夏の終わり』、前述した『明日があるさ』といった日本の名曲はもちろん、星野源の『恋』、米津玄師がプロデュースした『パプリカ』などを聴いて親しみやすさや懐かしさを感じるのは、音階の特徴が共通しているからなのではないだろうか。

分析すればするほど奥深い、文章と音の世界。いい文章を書くコツを身に付けたい人は、ぜひ本書を手に取ってみてほしい。

タグ : レビュー・コラム

掲載: 2025年02月10日 21:50

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