なぜカレーは“悪”なのか?独自の食技法を追求したマキタスポーツの“外道”なグルメ論
人間の三大欲求の一つである“食欲”。誰もが日々の食に、無意識のうちに何らかのこだわりを持っているだろう。そんな“食”への執着や美学を、芸人・俳優・音楽家として多才に活躍するマキタスポーツが独自の視点で語り尽くした書籍が「グルメ外道」だ。常識や既成概念を覆す“食”への熱く深いこだわりが、本書には詰まっている。
●「10分どん兵衛」誕生の背景にあった貧乏生活
SNSでも話題となった「10分どん兵衛」。これは著者・マキタスポーツが2015年に自身のラジオで何気なく紹介した、マキタスポーツ独自のどん兵衛の食べ方だ。その名の通り、本来5分で食べるところを、あえて10分かけて麺をふやかすというもの。その独特な食べ方は、発売元である日清食品までも巻き込み、ちょっとしたブームを起こした。
この“麺をふやかす”という食べ方に行きついた背景には、大学進学のために山梨から東京へ上京した際の貧乏生活があったという。仕送りの段ボールに入っていた袋麺を、どうにかボリュームアップしようと試行錯誤を重ねる中で、ゆで時間を10分に延ばす方法にたどり着いた。生活の知恵から始まったこの食べ方は、経済的に安定した今もなお続けているそうだ。
「10分どん兵衛」はマーケティングとか、バズらせようとか、スマートに考えたものじゃなかったということは理解されたい。美味しく食べたいという切実な欲望がその智慧を呼び込んだのだ。 (※注)
●カレーは“悪”!?マキタスポーツの独特なカレー観
好きな料理として多くの人が挙げる「カレー」。しかし、マキタスポーツはそんな国民的メニューを、あえて“悪”と表現する。ただし、それは決して嫌いという意味ではない。むしろカレーは、あまりに魅力的すぎるがゆえに、例えば朝食バイキングでは他の選択肢を全て吹き飛ばしてしまう力がある。つまり、そんな「人を狂わせる」「征服する」ほどの強さを持つ存在として、“悪”なのだと語っている。
“悪”とは、初めこそ違和感を覚えるものの、いつの間にか日常に馴染み、溶け込んでいく。マキタスポーツはこの感覚をもとに、世界を“征服”したビジネスマンであるイーロン・マスクや、かつて毒舌で知られたタモリやビートたけしも「カレー的存在」だと表現する。そして、こうした突飛な論理の展開さえも、「カレー」に操られているからだと語るのだ。
●年齢と向き合いながら食を楽しむ、50代からの“焼肉革命”
若い頃、何も考えず無邪気に食べていた焼肉は本当に美味しかったとマキタスポーツは振り返る。しかし50代になった現在、焼肉に対する“年相応のテーマ”はいまだに見つかっていないという。そんな中で模索を続ける、現在の自分なりの焼肉との向き合い方が本書では紹介されている。
まず、年齢を重ねることで直面する「カルビが食べられない」問題。脂が重く感じられるようになったため、「転ばぬ先のロース」といった具合に、カルビ以外の部位をメインとして選ぶよう工夫をしている。
また、「白飯も食べたいけれど、ビビンバも捨てがたい」という2つの欲求を同時に満たす方法も編み出した。まず白飯を食べた後、事前に注文しておいたナムルやキムチ、漬け込み肉などを使って自分で“勝手にビビンバ”を作るというスタイルだ。年齢とともに変わっていく“食”との関係。その変化を受け入れながら、マキタスポーツはこう語る。
食は一生モノ。死ぬまで付き合っていく覚悟があるならば、段階ごとのやり方を見つけていけばいい。 (※注)
食に対する独自のこだわりと、常識にとらわれない数々の“食技法”。それらはまさに、「グルメ外道」と呼ぶにふさわしい。しかし、そこにあるのは奇をてらったパフォーマンスではなく、どんな状況でも自分なりの方法で“食”を楽しみ尽くそうとする、ひたむきな姿勢に他ならない。どう食べるかは、どう生きるかそのものともいえる。マキタスポーツの食への視線から、あなた自身の“食と生き方”を見つめ直してみてはどうだろうか。
※注:マキタスポーツ「グルメ外道」より引用
マキタスポーツ出演グルメ映画/ドラマ
焼肉本
タグ : レビュー・コラム
掲載: 2025年04月28日 21:10