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インタビュー

Coo Coo Cal

ミルウォーキーで発生した路上の竜巻、クー・クー・カルはヒップホップ・シーンを席巻する!!

〈In my projects!!〉という唸りを聴いても、男惚れする面構えを見ても、筆者は『Walkin' Dead』で知っていたはずの彼のことを思い出せなかった。唯一繋がったのは、クー・クー・カルという忘れがたいMCネームだ。

「子供のころからのニックネームさ。クーはクレイジーって意味。カルは俺の名前のカルヴィンからきてる」。

2001年のヒップホップ地図にミルウォーキーの地名を書き込むことになるカルは、少年時代から音楽に対してはクー・クーな状態だったという。

「みんながGIジョーを買ってても、俺は7インチのレコードを買ってたよ(笑)。そのうちDJを始めて、ミックス・テープを作っては学校で売ったり、パーティーをやったりして、だんだんラップがやりたくなっていった」。

その当時はランDMC、ステッツァソニック、NWA、エイトボールらに憧れていた(「地元ではみんな東海岸/西海岸とかじゃなく全部を聴いてたんだ」)というが、そんな活動当初、ミルウォーキーにヒップホップ・シーンと呼べるものはどの程度あったのだろうか?

「ほかの地域と同じような規模のものがあったと思うよ。ただ、注目されない時期が続いたせいで、みんなフラストレーションを感じて、アーティスト同士をライバル視していた時期もあったね。でも、俺がブレイクできたことで、いまはみんながひとつになってる。DJのときから俺は地元では有名だったけど、ラップを始めてさらに地元に貢献できるようになったって感じだね」。

話は前後するが、前述の2作目『Walkin' Dead』がヒットし、ジャイヴとの契約話を経て、カルは“My Projects”でトミー・ボーイと契約して成功する。

「俺をバックアップしてくれてたダチがドラッグ・ビジネスに関わっていて、刑務所に入れられちまったときに、ヤツは俺のキャリアをブチ壊すことはできないからって、インフィニットに紹介してくれた。いままでやってきたことを続けろって……。それで『Walkin' Dead』が出せた。“My Projects”は2年前から頭の中にあって、ストラグル(生きるための闘い)について話してる。プロジェクトで実際に起きていることについてラップしてるんだ。チャートで1位になったとき? そりゃ嬉しかったぜ(笑)。いろんな土地で、みんなが俺の曲に反応している様子を見るのはスゲエ嬉しいもんさ」。

ところで、“My Projects”と過去のカルが結びつかなかったのには理由があった。それはラップの変化だ。『Disturbed』では、あきらかにネリー以降の歌っぽいフロウなど、さまざまな表現手段が試みられている。

「ひとつのスタイルにこだわるんじゃなく、音楽が自分をどこへ連れていくかが重要だからな。でも中身が変わることはないね。俺はつねに俺が目にしたもの、俺が知っていること、そして俺が経験したことをラップする。俺はビーツに乗せたリリックを売っているんじゃない。自分の感情を作品にして売っているんだ」。

アルバムには「マジでワンダフルだったよ!」と興奮するケイ・ジーとの共演もあるが、基本は変わらずインフィニットの仲間たちと作り上げたもの。とくにビッグ・ハンクの作り出すビートが、カルの語り口にさらなる独自性を与えているのは疑いない。

「俺とハンクは良いチームさ。俺はヤツの音楽を〈ジャンク・ヤード・ビーツ〉って呼んでる。いろんなジャンクを集めて音を作るっていうナイスなサウンドだろ」。

NYやLAをめざすのではなく、各人が地元にいながら大きな成功を収められる環境が整ってきたこと。それが、いまのUSヒップホップ・シーンの特徴である。「俺は本当に恵まれている」と何度も語り、いまなおミルウォーキーをレプリゼントし続けるカルはその象徴だ。

「今回はセールスより、俺のやっていることを全国レベルで知ってもらえるチャンスだと考えたんだ。成功が目的なんじゃない。音楽に愛がなければ、感じてもいないことを喋ったりもできるだろ? でも、俺は違う。俺は音楽を感じて、音楽を愛している。これからもそんな感じでやっていくよ」。

PROFILE
75年生まれ。ウィスコンシン州ミルウォーキー出身。DJを経てラッパーとして活動を開始、96年にアルバム『Game』でデビュー。その後インフィニットと契約。98年にリリースしたセカンド・アルバム『Walkin Dead』が地元で好セールスを記録して話題を集める。2001年にトミー・ボーイと契約を交わし、シングル“My Projects”がビルボード誌のラップ・チャートで首位を独走。シーンにその名を轟かせる。コフィ・ブラウンをフィーチャーしたシングル“How Does It Feel To Ya”もヒットし、このたびサード・アルバム『Disturbed』をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年05月16日 11:00

更新: 2003年03月06日 20:21

ソース: 『bounce』 227号(2001/11/25)

文/出嶌 孝次