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インタビュー

Jewel (Folk Rock)

さらに深みをもったその歌声。アメリカン・スウィートハート、ジュエルが進む新たなる道のり

 「これまで300万回くらいライヴをやった気がするの(笑)。だから断然アーティストとして幅広くなってきたと思うし、今回はバンドといっしょにライヴを楽しむようにレコーディングしたことが、これまでの作品との大きな違いだわ」。

 約2年ぶりの新作『This Way』は、とにかくエモーショナルな作品に仕上がった。

「粗削りで、刺激的で、幅広いタイプの楽曲。この三要素が、いままでの作品に欠けていたから、“Jesus Loves You”は刺激的な歌詞で、いろいろ考えさせられるような内容にしたし、“The West Wild West”では政治的なことを歌った。そのほかにも“Break Me”は傷つきやすい、もろい気持ちをうまく表現できたと思うし、“Sometimes It Be That Way”は17歳の時に書いた歌で、“Love Me, Just Leave Me Alone”はロック風……と、さまざま。今回は、いままで自分が作りたいと思っていたことが、ジグソーパズルを当てはめるような感じで出来ていったの」。

今回プロデューサーに選ばれたのは、メガデス、フェイス・ヒル、ケニー・ロギンスなどの作品を手掛けてきたダン・ホフ。ジュエルも共同プロデューサーとして積極的にアルバム制作に取り組んだため、どちらかというと、彼女の中にある曲のイメージやコードなどを具現化するスタッフとして、ダンが参加した様子。そのほか、セリーヌ・ディオンやコアーズのプロデューサーとして知られるヒットメイカー、リック・ノエルズと3曲共作するなど、コラボレーションも盛んだ。その影響か、全体にキャッチーな曲が増えた。そして、そんななかでも、歌を書くには何より本を読むことが役立っていると彼女は話す。

「アナイス・ニンはもの凄く正直で大胆な人だった。自分が正直でいられることに対して、さまざまな犠牲を払ってきたわ。そういう人たちは人気がないし、必ずしもみんなから好かれるわけではないけど、私は素晴らしいと思う。チャールズ・ブコウスキーもそうね。自分がどういう人間か、どういう情熱を持っているか表に出せる人って凄いわ」。

女優業に続き、最近は自伝「Chasing Down The Dawn」まで発表して多角的に自分自身を表現しているジュエルは、言葉で表現することにも強い興味を持っている。だからこそ今回は、エモーショナルなライヴ・サウンドとともに、歌詞に非常に凝ったと説明する。

「ラヴソングなんて、数え切れないほどあるから、自分なりの視点を持って歌わないと意味がない。たとえば私は大きな宇宙について歌いはじめて、だんだんみんなの見える森や街といったものが視界に入り、最後にはずっと寄って細胞や心について歌っていく。そうして、遠くから見たものも近くから見たものも結局は変わらないものだということを示したいの」。

立ち止まってしまった感情について歌った“Standing Still”にしても、ラヴソング“Cleveland”にしても、最後の2行での締め括り方が素晴らしい。言葉の魔術師としての才能も余すところなく発揮している。

そして最後に、全米同時多発テロ事件の後、ニューヨークのラジオ局〈WHTZ/Z-100〉が、ジュエルのヒット曲“Hands”にブッシュ大統領のスピーチやニューヨークの人々のコメントをミックスし、へヴィーローテーションにしていたことについて感想を求めると、彼女は控えめに、こう話してくれた。

「歴史的なことに自分の歌が使われた、聴いてもらえたのは嬉しいけど、圧倒されてしまったところもあるわ。ただ、人助けをしようという気持ちになりながら、具体的に何をしたらいいのかわからないという人も多かったと思う。だから私の歌が、そういう人たちの気持ちを音楽で癒したり、そういうことをやろうという気持ちに向かわせることができたとしたら嬉しい」。

ジュエルの歌が、メッセージ性が強いと思うかどうかはリスナー次第だけれど、1曲1曲、言葉やメロディーを丁寧に選びながら作られた『This Way』は、人々の道標になりそうなアルバムに仕上がっている。

PROFILE
ジュエルこと、ジュエル・キルヒャーは74年、アラスカ州ホーマーに生まれる。6歳のころから、カウボーイであり、アーティストでもあった父親と舞台に上がるようになる。やがてサンディエゴでの学生生活を経て、カフェでパフォーマンスをしている時に、レコード会社からスカウトを受けて契約。95年に『Piece Of You』でデビューを果たす。このアルバムは口コミでじわじわと評判を広げ、リリース後1年で、1,000万枚を越えるセールスを記録した。98年にはセカンド・アルバム『Spirits』をリリース。このたび、3枚目となるアルバム『This Way』がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年05月16日 11:00

更新: 2003年03月07日 19:12

ソース: 『bounce』 227号(2001/11/25)

文/伊藤 なつみ