LOST IN TIME
平凡にみえてものすごく情熱的な歌、そして音の塊を放つスリー・ピース、LOST IN TIME!
伝えたい感情がジャンルや形態を完全に越えてしまっている音楽。3人組のロック ・バンド、LOST IN TIMEのアルバム『冬空と君の手』はそう形容すべき作品である。
「〈大人になっていく過程の歌が多いですね〉とは実際に言われるんですけど、それに対しては〈よくわかりません。ありがとうございます〉と言うしかないというか。このアルバムに入ってる曲は歌を作る瞬間に起こってる出来事だったりするんですけど、僕はその瞬間を捕まえるのにいっぱいいっぱいで、それをどう聴かせるかっていうことは考えられない」(海北大輔、ヴォーカル/ベース)。
青年期特有の焦燥感を滲ませた詞世界と、その感情に寄り添うようなうねりを聴かせるバンド・サウンド――彼らの音楽性をあえて言葉にするなら、そう形容したいところだが、そうすることによって、彼らをいつの時代にも存在する〈声なき声を歌う〉普遍的なバンドの典型のように思われるかもしれない。しかし、ここで聴けるのは中学の修学旅行先で聴いたラジオ番組でザ・ブルーハーツの解散を知り、普段着で観たハイ・スタンダードのライヴに衝撃を受けた、あるいはロックが歌謡曲と横並ぶ世代の気持ちを高純度に結晶化させた歌(それはロックでも歌謡曲でもない)であるという意味で特筆すべきものが大いにある。
「まわりは、髪の毛立てたり、モッシュして汗かいてスッキリするのがパンクだ!っていうやつが多かったんですけど、俺はそういう部分に感じるものはなくて。それよりはその人が思うがままにやって、それもTシャツにジーンズっていう、いつもと同じ、当たり前の姿勢でギラギラしたものを注ぎ込んでたハイスタやブルーハーツが格好良かったというか……だから、俺はジャンルとして音楽を捉えてないっていうことかもしれない」(海北)。
このウルトラ・ノーマルなスタンスはパンクの原点を思い返させるが、そのスタンスすら日常化させた彼らの歌のその先には、いったい何があるのか。かつてないなにかが感じられるだけに、今後が大いに気になるバンドである。
「今後ですか?遅刻をしないようにしたいですね」(大岡源一郎、ドラムス)。
「俺は滞納した家賃を払いたいです」(海北)。