インタビュー

コイル

心機一転で贈る新作『0・10』が醸し出す、抽象的でありながら心を揺さぶられる感覚



  昨年末に発表した裏ベスト・アルバムに『ALL ERASE OK?』という意味深なタイトルを付けていたこともあり、その後の動向が注目されていたポップ・デュオ、COIL。

「隣の兄ちゃん的な感じも好きなんですけど、そういう印象を持たれたまま続けていくのはどうなのかな?とも思ってたし、〈あれこれやりすぎて、何がやりたいのかわからない〉とも言われてたので、軌道修正を図りたかったし、変わるなら今がいいかな、と」。

 そう語ってくれたのはニュー・アルバム『0・10』でプロデュースとソングライティングを担当した岡本定義(以下同)。心機一転を図ったCOILは、プロデューサー岡本とエンジニア佐藤洋介という結成当初の形態に戻り、流れるようなストーリーを語り始めた。

「このアルバムの裏には、去年のテロ事件が避けがたく流れているというか。それをテーマやメッセージにしようとは全然考えてないんだけど、絵を描く前に塗ったドロドロした下地みたいなものにはなってますね」。

 エレクトロニカ云々というより、音が響く空間を漂う、目に見えないノイズを注意深くマイクで拾い上げたかのようなサウンド・トリートメントとメロディアスな歌の共存が、作品全体にただならない緊張感、それも言葉にならない抽象的なムードを与えている。

「今回は、ちょうどレコーディングの直前に〈MoMA展〉で見た抽象絵画の流れでロシア ・アヴァンギャルド・アートにすごい影響を受けてたんです。それは、テロ事件で世界貿易センター・ビルが崩れていく映像を見たときと同じで、意味とか事情はわからないし、感情を排除しているように見えるんですけど、なんか揺さぶられるような印象を受けたんです」。

 その抽象的でいて揺さぶられる感覚を抱きつつ臨んだ本作では、それを具現化するためにメンバーである相方、佐藤洋介のエンジニアリングが必要でもあった。

「いまはミキシングの卓も楽器みたいな感じというか、スタジオでメンバーが務めるエンジニアリングも作曲の一部なんですよね。これまでは俺のカラー、洋介のカラーって感じで変に計算し合ってた部分もあったけど……」。

 そう、COILはこの作品でついに分かちがたいひとつの世界に辿り着いたのだ。その世界とは何なのか? その答えは曖昧なままだが、惹かれるままに『0・10』を何度も繰り返し聴いている……。

▼ COILの関連盤を紹介。

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掲載: 2002年08月01日 12:00

更新: 2003年02月13日 12:14

ソース: 『bounce』 234号(2002/7/25)

文/小野田雄