インタビュー

中島美嘉


中島美嘉の歌に肘をついて、星空を眺める夜がこれまで幾度もあった。なにかにもたれかかりたくなる気分のとき、そっと現れては、ベランダの手すりのような役目をしてくれるのだ。中島美嘉は大きな〈肩〉を持ったシンガーである。〈私を見て、私を!〉と露骨にせり出してくる歌が多いご時世、このさりげなく柔らかい肩の存在感はたいへん貴重に思う。時に、彼女の歌声は望遠鏡となって、遠く眼差しを向けようとする僕らに、そっと夜空の果てのシーンを覗かせてくれたり。中島の歌を巡ってこれまでにいったいいくつのストーリーが育まれてきたことだろう? というこっちの独り言のような呟きに「不思議な感覚ですね」と彼女はぽつりと呟いた。

「きれいごとみたいだけど、やはり、まわりの人が幸せになることが、私にとっていちばん幸せだから。だから、いますごく幸せ」。

今回リリースとなるファースト・アルバム『TRUE』には、“STARS”から最新シングル“WILL”までの、デビューから現在にかけての中島美嘉の1年近い活動の道程が描かれており、思い入れも込めて言わせてもらえば、数々の名曲が散りばめられた内容は、煌く星座を思わせたりする。このアルバムの完成によって、スタートラインから現在に至る距離を考えることはあったろうか?と訊いた。

「ここまでの距離?……自分ではあんまり気づかない。私自身の変化はわからないけど、前よりはたぶん歌いやすくなったって思う。いまはただ、一曲一曲を歌うことが精一杯だから」。          

未来のイメージってどうなんだろ?なんて、実は少しばかり島崎未来(TVドラマ「傷だらけのラブソング」で中島が演じたヒロイン)を意識した間抜けな質問にも、彼女は力強くこう答えた。

「私はあんまり次のことを考えない性格。みんなそうだと思うけど、未来を考えると焦っちゃうっていうか、ヘンな計算とかしちゃったりするから。それは昔からそうなんだけど、計画とか立てないで、いまを精一杯やりぬくことを意識してる。うん、だから、いましか見てない」。

こうして歌が並んだ様子を窺うと、彼女の発信者としての独特なスタンスが浮かんで見えてくる。ある種控えめ過ぎるのでは?とも思ってしまうそんな佇まいは彼女の演技にも通ずるのだが、歌がここに生まれてきてしまったのだから投げるしかないじゃない?とでもいうような潔さが感じられて実に清々しいのだ。

「私は……歌手になったつもりって、ないから。歌を歌い始めたとき、そこに共感してくれる人、知ってくれた人がだんだん増えていって、すごいイイきっかけが集まってきて、いまここにいるんだと思う。私はここにいます、っていう存在証明はあって欲しいけど、でもやっぱり、ただ歌っているだけ、かな」。

彼女の歌を聴きながら空を見上げていると、いろんなものが空から降ってくる。吉田美奈子、秋元康、テイ$トウワ、おちまさと、松本隆、川口大輔、田中義人、冨田恵一といった色とりどりなクリエイターが効果マンとなって、彼女の舞台の上に、雨、雪、星屑など舞わせるのだ。そのエフェクトひとつひとつが彼女の魅力を引き立て、彼女の立ち姿を麗しく輝かせる。

「実際シングル曲が多いので、あらためて〈アルバムが出来た〉って実感はあんまり湧いてなかったりするけ、〈やっと出来たな〉って感動だけはしっかりあって」と中島は言う。いまこうしてスクリーンに映し出された『TRUE』という名の瑞々しいブランニュー・ムーヴィー。さまざまな成長も刻み込んだこのアルバムからは、なにかが始まる予感がひしひしと感じられ、静かなざわめきもまた聞こえてくるようだ。

「でも、どっちかと言ったら〈ああこれでひとつ終わったな〉って感じはする」と彼女は最後に話した。

純白のスクリーンが澄み渡った青空に雄々しく広がっている。

PROFILE
83年、鹿児島生まれ。幼少のころから歌手に憧れ、高校進学をせずに音楽の道を志す。その後、初めてレコード会社に送ったデモテープがきっかけとなり、2001年10月にスタートしたTVドラマ「傷だらけのラブソング」のヒロインに抜擢、大きな反響を呼ぶ。同年11月、同ドラマの主題歌となった“STARS”で歌手デビューを果たし、新人としては異例の大ヒットとなる。2002年2月の限定シングル“CRESCENT MOON”はリリース当日に完売し、3月の“ONE SURVIVE”、5月の“Helpless Rain”も好調なセールス。話題のTVドラマ「私立探偵 濱マイク」への出演、シングル“WILL”に続いて、このたび待望のファースト・アルバム『TRUE』(ソニー)がリリースされる。

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掲載: 2002年08月29日 12:00

更新: 2003年02月10日 13:14

ソース: 『bounce』 235号(2002/8/25)

文/桑原 シロー