こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

Max De Castro



 ブラジル音楽シーンのサラブレッドたちがズラリと顔を揃えているレーベル、トラマ。なかでも、60年代においてボサノヴァの世界を代表していた大物アーティストの二世たちが従来の音楽シーンの枠組を超えた高感度なサウンド作りを展開しているのが特徴で、マックス・ジ・カストロはその中心的な存在だ。

 マックス(と、同じくトラマに所属する兄のウィルソン・シモニーニャ)は、ボサノヴァの全盛期に一世を風靡した黒人シンガー、ウィルソン・シモナルを父に持つ。彼のサウンドにボサノヴァからの疑いようのない影響があるのは、そのためだろう。また、同じくトラマ所属のペドロ・マリアーノ(エリス・レジーナとセーザル・カマルゴ・マリアーノの息子)やジャイール・オリヴェイラ(ジャイール・ホドリゲスの息子)、ユニヴァーサル所属のルシアナ・メロ(ジャイールジーニョの妹)とは、相互に援助する関係にある。名だけでなく、実力の面でも血統書つきの彼らに共通するのは、〈自分たちが信じている音楽をやっていること〉。そして、ヒップホップやファンク、エレクトロニック・ミュージックのエッセンスを積極的に採り入れ、完成度の極めて高いクロスオーヴァーを成功させている点だ。

 そのマックスの新作『Orchestra Klaxon』は前作にも増して驚きのミクスチャー作品になっている。〈Klaxon〉とは、1922年、サンパウロに出現した総合的な芸術運動であった〈モデルニズモ(モダニズム)〉の旗手たちが発行していた文学誌の名前。

「モデルニズモはそれまでのアカデミックなアートから脱却し、ブラジルの新しい芸術的アイデンティティーを模索しようとする運動だった。そこには自分の世代との共通点があると思う。他の場所、文化とも自由にコミュニケートできるという意味でね。それに、モデルニズモが登場するまでブラジル文化はブラジル人にも認められていなかったんだ。その状況も今の僕らに似ていると思う。ブラジルにだって、エキゾチックなだけじゃない優れた文化があるんだ」。

 そう自負するマックスは、ブラジル音楽を外国音楽に負けないレヴェルにまで高め、なおかつブラジルの音楽的ルーツを斬新な方法で掘り起こすことを意図している。

 ファースト・アルバム『Samba Raro』でマックスは、作詞作曲から全ての楽器の演奏、アレンジからレコーディングまで、一切を自分ひとりでこなしていた。

「今回は、いろいろなミュージシャンや作詞家がゲスト参加してくれている。それが前作との大きな違いだ」。

 今作では一転して多くのゲストを迎え、志を同じくする〈オルケストラ(オーケストラ)〉を編成している。歌詞を提供しているのはエラズモ・カルロス、マルセロ・ユカ、フレッヂ・ゼロ・クアトロ、セウ・ジョルジ、ネルソン・モタ。また、演奏で参加しているのはJT・メイレーリス、ウィルソン・ダス・ネヴィス、リミーニャ、ダニエル・ジョビン、ファビオ・フォンセカ……。世代を超えたこの一流オーケストラを指揮するマックス自身は、ピアノ、クラヴィネット、オルガン、ギターなどを演奏し、マルチプレイヤーぶりを発揮している。

「前作は、自分の部屋でレコーディングを始めたんだ。電子楽器を使ったのは、パーカッションがないブラジル音楽もできるんじゃないかと考えたからだ。作曲の方法についても、違ったことをやりたかった。ラップやエレクトロニック・ミュージックじゃ当たり前だけど、ひとつの曲の中にいろいろな曲が入っているような、そんな曲を作りたかったんだ。音楽にレッテルを貼る慣習はボサノヴァの時代で終わったはず。僕はそれを思い出し、クロスオーヴァーを改めてヴィジュアル化したいと思ったんだ」。

 さまざまな音楽要素の間を自由に往来する彼のサウンドは、この『Orchestra Klaxon』で一層特徴的になってきた。一聴して今作がいかなる音楽か、一言で言いきれるリスナーはなかなかいないだろう。ブラック、エレクトロニック、ラップ、ボサノヴァ、ジャズ、ファンクと、実に多様なエッセンスが切れ目なく、澱みなく、完全に混ざり合っている。

「でも、僕自身はブラジリアン・ポピュラー・ミュージックをやっていると思っている。ブラックだとかエレクトロニックだとか、人には呼ばれているけどね」。

 サウンドの普遍性がブラジル音楽の枠を超えて音楽ファンを直撃する一方で、彼の本質を形作るブラジル性とアーティストとしての天賦の才が、ブラジル音楽を聴き込んできたコアなファンをも唸らせる。マックス・ジ・カストロはまさにグローバル化時代をクロスオーヴァーしていく存在なのだ。

PROFILE

72年にブラジルのシンガー、ウィルソン・シモナルの息子として生まれる。ブラジル新世代を代表するレーベルであるトラマから、2000年にファースト・アルバム『Samba Raro』をリリース。ブラジリアン・ソウルやファンクから強い影響を受けつつもブレイクビーツやエレクトロニクスを巧みに採り入れた音楽性で一躍新世代の旗手として注目を集める。また、兄であり、同じく現在のブラジルのシーンを牽引するシンガーであるウィルソン・シモニーニャと共にアルチタス・ヘウニードスで活動。2001年にはTHE BOOMの宮沢和史のソロ・アルバム『MIYAZAWA』に参加する。このたび待望のセカンド・アルバム『Orchestra Klaxon』(Trama)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年09月26日 13:00

更新: 2003年03月10日 12:00

ソース: 『bounce』 236号(2002/9/25)

文/国安 真奈