インタビュー

Glassjaw


 ロス・ロビンソンの秘蔵っ子、グラスジョーが2枚目のアルバム『Worship And Tribute』をリリースする。ロスの名前からイメージできるとおり、彼らの音はひたすら重く凶暴だ。しかしその性質は一筋縄ではいかない。NYロングアイランドで培われた音楽性は、曲者魂を主張しまくっている。複雑なリズム・チェンジで曲展開をガッシャンガッシャン揺らすのはNYハードコアの血統。熱情の限りを尽くして吐き出すヴォーカルもまさしくパンク。しかし、そこにUKロックへの傾倒を示す繊細かつメランコリックなメロディーが時折顔を覗かせるのが変、変態だと思う。まずは、どんな音楽を聴いて育ったのかダリル・パルンボ(以下同)に訊いてみたところ……。

「実は、いまの俺にとってはヒップホップがもっとも重要な音楽となってるんだ。NY出身なら誰しもがそうなるよ。でも、いままで出会った音楽のなかでもっとも重要だったのはニューウェイヴかもしれない。ニューウェイヴがひっきりなしに流れてるような家庭に育ったからね」。

 具体的には、デペッシュ・モード、キュアー、エルヴィス・コステロなどが特にお気に入りだったらしい。そういえば本作中の“Ape Dos Mil”という曲中で、ダリルの声がコステロ調になる瞬間があるのだ。〈コステロ、ついにUSラウド・ロックに進出!〉と、想像してもらえれば、このバンドの変態性が伝わるのではないかと思う。ところで先ほどの発言どおり、彼は環境の必然としてヒップホップのリスナーでもある。だが、グラスジョーにラップはない。トラックからするとラップが乗っても自然なのだが、意識的に排している節さえ窺われるのだ。

「ラップ・メタルほどクソな音楽はないよ! 金をいくら積まれても、俺は絶対にラップしない! どんなスタイルの音楽であれ、あのゴミのようなラップ・メタルやアディダス・メタルよりは断然マシだと思ってる。現代社会において、ラップ・メタルとギャングスタ・ヒップホップほど、若者に対して有害なものはないと思う。たとえばリンプ・ビズキットよりストロークスの人気があったほうが、世界は救われると思うしね!」。

 なんだか相当怒っていた。まあ、その剣幕どおり、グラスジョーのサウンドはまぎれもなくアグレッシヴだ。だが、歌われている内容に耳を傾けると、潔癖なまでにシリアスな事柄、トーンが貫かれていることに気がつく。たとえば今作においては、終末感や危機意識をあきらかに感じさせる歌詞が多い。

「世界のポジティヴな面を破壊する可能性のある人間に対する危機感や不安を表現しようとしてるのは確かだね。人類の愛情というものが失われようとしていて、愛情というものがどんなに難しい感情なのか、ってことはよく考えるんだ」。

 考えてみれば彼らはNYのバンドだ。この沈鬱な空気感は昨年の同時多発テロとも決して無縁ではないと思うのだが?

「うん。よりによって自分が生まれ育った場所で起こった大事件だったから影響しないわけがないよ。だから、よりダークなアルバムとなったんだ。プロデューサーのロスはそんな俺たちをすべて理解し、尽くしてくれてたんだよね。俺たちがイメージしてた〈厳粛で悲哀に満ちたもの〉ってのを実現させてくれたのは、ロスに他ならない。だからさ、このアルバムって〈ロスはアーティストのカラーを最大限に引き出してくれる素晴らしいプロデューサーだ!〉ということをふたたび証明するものでもあるわけだよ(笑)」。

 素直、素朴、奔放。グラスジョーが抱え持つ極度なまっすぐさの結果として、辿りついている変化球ラウドネス。これを経験豊かな大人=ロスが巧みに導いたのがこの『Worship And Tribute』だと言えよう。奇を衒わない天然の異形、それは刺激的であると同時に実に爽やかだ。

PROFILE

NYのロングアイランド出身で、古くからの友人同士だったダリル・パルンボ(ヴォーカル)とジャスティン・ベック(ギター)がバンドを結成。その後、トッド・ウェインストック(ギター)、デイヴ・アレン(ベース)が加入し発表されたEPが話題となり、ロス・ロビンソンのレーベル、アイ・アムと契約を交わす。2000年にはファースト・アルバム『Everything You Ever Wanted To Know About Silence』を発表、精力的なライヴ活動と相まってシーンのなかで確実にポジションを築き上げていく。新メンバーにラリー・ゴーマン(ドラムス)が加わり、レコーディングされたセカンド・アルバム『Worship And Tribute』(Warner Bros./ワーナー)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年10月17日 12:00

更新: 2003年02月13日 12:17

ソース: 『bounce』 236号(2002/9/25)

文/田中 大