クラムボン
メンバー自身が語る、新作「id」のききドコロ!
ニュー・アルバム『id』から伝わってくる優しさ、居心地の良さ――その根源となったものとは?
クラムボンがニュー・アルバム『id』をリリースする。無意識下にある本能的衝動――というのが辞書的な意味だけれど、そんなに難しく構えなくても大丈夫。3人が本作に辿り着くまでの物語に、その結果誕生したこの美しい音楽に耳を傾ければ、タイトルに込められたクラムボン的意味を、自然に感じ取ることができるはず。そう、物語は昨年、ニューヨークで起こったあの事件まで遡る。
「このアルバムを聴いて、すごい優しいとか、居心地がいいって言ってくれる人がいるんだけど、そういうものをすっごく求めてるよね、みんなが。たぶんあの日を境にして、自分たちは居心地が悪いところに立ってるんだ、ってことが見えちゃったんだよね。で、私たちそういう話まったくしなかったんだけど、でも、こういうものが出てきてるっていうのは、私たちもそういうものを求めてたからだと思う」(原田郁子、ヴォーカル/ピアノ)。
「歌詞でいえばすごい理想的なことが書いてあったり。で、そういう言葉は、音楽作るうえでじゃなくて、生活してるうえでそう思ったから出てきたんじゃないかなって」(伊藤大助、ドラムス)。
「〈9.11〉以降、やっぱこれじゃいかんと思う人間がいっぱい増えたと思うんだけど、同時に俺は、音楽とか結構信用できなくなっちゃって。たいした力ねえなってすごい思い始めちゃったんですよ。だから、まず何をするべきか、っていうことがいちばん念頭にあったと思う」(ミト、ベース)。
まず、何をするべきか──そんな問いに彼らが導き出した答えは、〈みずからが無意識下で欲している音を忠実に鳴らすこと〉。
「3人がモノを作るってさ、排泄作業だと思うの。だからやっぱ、溜まってる部分を吐き出さなきゃいけない時期が来ると思ってたし。メロディーでも歌詞でも、自分たちが信じてるものを少しでも出してくことによって、まっさらにはならなくても、自信になるというか」(ミト)。
そうして行われた、小淵沢での合宿。スタジオの窓は開けたまま、何も決めずに、ただひたすらセッションを繰り返す。そんな毎日の中で、次々とミラクルは起きる。これ以上ないテイクが突如録音され、そのまま本作に収録されたり、詞曲ともに3人の手による共作が完成したり、窓の外で鳴っている音を、編集なしでそのまま音響として採用してみたり。
「小淵沢にはいろんな音があったけど、フィールド・レコーディングすると、完全に必然でしかあり得ない音しか入らない。風で木の枝が鳴ってる音とか、鳥の鳴き声とか、余計なものがまったくない音は強いし、太いんだよね。で、それでいて僕らがやってることっていうと、かなり人工的な作業ですよ。楽器を触るっていうことも、歌を歌うってことも。でも、例えば“小淵沢”とか“コントラスト”とか“id”とかを聴いたり演奏したりしてると……人工的なんだけど、必然性と、どっかほかで同じような音が鳴ってんじゃないのかな?っていう気がするんだよね。それでちょっと信じられた部分はあった。自分たちをね」(ミト)。
3人の無意識から飛び出した楽曲──これらは最終的に、共同プロデューサーであるアンディー・チェイス(アイヴィー)とアダム・ピアース(ディラン・グループ)の手で必然の音となる。生楽器・エレクトロニクス・自然音──柔らかな色を湛えた音たちが、ひとつひとつ丁寧に塗り重ねられてゆく。
「このアルバム、これだけシンプルな音像でもさ、かなり情報多いんだ。『ドラマチック』(華やかなストリングスにも彩られた前作)よりもっと音入ってるよ。直情的なものじゃないけど、けど直情感は1曲に3人分入ってるし。だから、12曲で36個分の直情感があるという」(ミト)。
慈しみと安らぎと。小さな祈りにも似た……どこかホーリーな空気がたゆたっている本作。そこに浮かび上がる物語は、聴き手に多くのことを伝えている。
クラムボンの過去作品を紹介